第101話 ……月
オレたちは「はい」と応えて並んで座る。燦覇・オレ・ウェディンの順に。うむ、なんと言う座り心地。座ると言うより埋もれると言う感じであっさり夢に誘われそうだ。
「改めて自己紹介しようかしら。
わたくしは『神赦譜術教会』教皇ステイ・クラリティー。
使用するXRは魔術システム【フォビドンフルート】。こちらの格付けでSSS級。まあ、トップと言う奴ね」
魔術システム・フォビドンフルート。
プロローグが絶望的ながらも印象的なXRゲームだ。
確かこんな感じ。
炎が見える。
世界が大洪水に見舞われていると言うのに、彼の目には確かに炎が見えていた。
「……月」
が、壊れたのは半日前。
なにかに衝突されたのではない。
なにかの攻撃を受けたのではない。
突如として裂けたのだ。
「どうして……」
ぼんやりとした頭で、彼は「……月」に続いてそんな言葉を口から漏らした。
無理もあるまい。
彼はただ寒い中夜空を眺めていただけだ。
そうしているのが好きだった。
星が好きで、けれども調べたいのではなくて、ただ綺麗なものを眺めているのが好きだった。
冬の夜空は冴えていて、冷たくて、それでも彼の心は満たされていた。
なのに。
どうして月は壊れた?
どうして世界は水に沈んでいる?
いや、後半の理由は分かっている。
月の内部から大量の水が溢れ地球に落ちてきたからだ。
空が泣くように降ってきた水は海を暴王とし、大地を呑み込み、木々を流し、生命を殺し続けている。
人の営みの象徴である街も例外ではなく。
現代に形作られた建造物は勿論遺構も同じく。
人々は船に乗り込み、飛行機に飛びつき、もがく、もがく、もがく。
けれども全ての人に幸運が回ってくるのではなく、彼のようになすすべなく雪崩に喰われてしまった人もいる。
「……誰か」
下半身と上半身の半分を雪に沈め、彼は残った気力で声を出す。
しかし応えてくれるものはなくて。
だから、半ば死を受け入れかけていた時だった。
それでも活きようと最後の意志と命を燃やしていた時だった。
彼の目に赤く光る炎が見えたのは。
人の爪ほどの大きさだ。蛍の火よりもちょっとだけ大きいと言うくらい。
だが。
暖かい。
体の芯から温もりが満ちていくようだ。
右腕が伸びる。
動いた。
炎に向かって右手が向かって――触れた。
途端。
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!」
彼は炎に包まれた。
呼吸ができない。
炎はすでに肺に到達している。
内からも外からも焼かれて、彼は――気を失った。
やがて目覚めた彼は人間ではなくて。
少しだけ、聖霊の側に傾いていた。
体から溢れる心の力『霊光』は魂・肉体・精神に直結し色・形を変える。
奇跡の霊光能力『アイドル』を身に着けたのだ。
それを誰かは「禁断の木の実を食べたのだ」と言った。
聖霊に傾いた彼は、奇跡を起こす。
聖霊に傾いた人々は、奇跡を起こす。
月の崩壊に隠された人の業を、まだ知らぬまま。
聖霊こそ悪霊であると、知らぬまま――
って感じ。
結果から話すと月が壊れたのは人が世界に与え続けたダメージが限界を迎えたから、だった。
けれども世界はやり直す機会を人に与えた。それが『アイドル』。
はたして人はそれに気づけるのか。
はたして人は奇跡をどう扱うのか。
業を乗り越え生存し共存できるのか。
全ての戦争の終結を目指し、人は争う――
う~ん、重いなこうして振り返ると……。
オレはパペットの方を選んだけれど、宗教に生きる人々の多くはこの魔術システムを選んでいる。魂・肉体・精神が神に通ずる道だと信じ、霊光能力が神からの贈り物だと信じているから。
一方で戒めとしても選択される。力の使い方を間違えるなよ、最初の崩壊が月だったのは神に護られたからだ、次に間違えれば壊れるのは地球だぞ、と言う意味で。




