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第100話 いらっしゃい

 ザイに連れられ劇場エリアに入った。

 小さな劇場が二つ、大きな劇場が一つあるエリアだ。その内大きな劇場へと入っていく。

 観劇代は乗船代に含まれているから料金を改めて払う必要はない。

 のだが。

 オレたちを連れてザイは特別な地位を持たねば入れぬ区画にと向かっていって。区画のドアの前には警備もいたりする。

 ザイはその警備に身分証を提示し、警備がドアを開けた。

 ドアは二重。

 一つくぐり、二つくぐり、中へ、

 緩やかな音楽が流れていた。

 聞こえる雑談の声はとても僅か。雑談の内容とて上演されている劇に関するものだ。

 騒いでいる人はいない。お客全員が一つ二つランクが上って感じの雰囲気。

 場違いにならないようにオレも気を引き締めた。

 そして舞台の観える廊下を通って二階へ上がり家族用の個室の一つに入る。すると、


「いらっしゃい、ここよ」


と声がかけられた。

 当然声の主は教皇ステイ・クラリティーだ。

 左目にピンク系ロイヤルピンクベージュのト音記号の『覇紋(はもん)』を煌めかせて優しく手を振る姿は楚々としているのにどこかフレンドリーにも見えて。


「お待たせしました」


 教皇ステイ・クラリティーに恭しく頭を下げる、ザイ。

 そんなザイに、


「大丈夫よ、待っていないわ」


と声をかける教皇ステイ・クラリティー。

 それを聞きザイは頭を上げ、一つ小さく頷いた。

 頷いて、一歩ほど下がりオレたちに場を譲る。


「初めましてね、ウェディン、燦覇(さんは)


 二人の目を順にしっかりと見つめながら、教皇ステイ・クラリティーは微笑みかける。

 淑やかで、上品な微笑み。

 けれども一瞬で心に入ってくるお友達感。

 二人は少し体を硬直させ、慌てて頭を下げる。

 ってかオレは?


「あなたは久しぶり、と言うべきかしらね、涙覇(るいは)

「久しぶり?」


 会った覚えはないのだが。


「あるのよ。あなたが幼い頃に何度か。産まれてすぐにも。

 抱っこしてあげた事もあるのだけれど」

「え」

「涙覇のお父さんお母さんとは深い仲なの。

 出逢った頃は『神赦譜術(プロミスト・)教会(リリジョン)』の前身教会教皇だったから比較的自由があったのだけれど、『神赦譜術(プロミスト・)教会(リリジョン)』教皇になって不自由が多くなってね、なかなかあなたに会うのが難しくなってしまったの」

「そうだったんですか」


 驚愕する。うちの親は結構良い立場にいるのだが、こう言う繋がりもあったのか。

 不思議な感覚に身を包まれたところで、


「こんにちは、涙覇さん、ウェディンさん、燦覇さん」


別の声が入ってきた。

 教皇ステイ・クラリティーが連れている少女からのもので、左目にピンク系チェリーピンクベージュのヘ音記号の『覇紋』を煌めかせる彼女もオレたちの目をしっかりと見てきた。見てきて、微笑んでいる。


「初めまして・こんにちは」


 誰よりも先に返事をしたのはウェディン。流石と言うかなんと言うかもう空気に慣れたようだ。微笑む余裕すら持っている。


「あ、こ、こんにちは」

「こんにちは~」


 ついでオレ、燦覇が。

 ちょっと緊張が解けたオレと相手が少女になった事で気を楽にしている燦覇。ひょっとしたら少女は狙ってやったのかも。

 と、そこで気づいた。

 二人はチェスに興じていたようだ。金の駒と銀の駒が盤の上で争っていた。

 ……演劇は?


「ああ、演劇はもう一度観たものだから。ここへはあなたたちと話しをしに入ったの」


 成程。演者には申しわけないがオレたちも舞台の方に集中できそうにないのでちょうど良いと言えばちょうど良いか。ほんっと演者には申しわけないけど。


「この子はサア。サアリス・クラリティー。わたくしの一人娘よ。仲良くしてあげてね」

「はい」


 やはり連れているのは教皇ステイ・クラリティーの子供だったか。


「サア、わたくしの隣に」

「うん」


 一度席を立ち、母の左隣に座す。

 と言う事はだ、空いたソファに座るのは当然、


「さ、三人とも座って」


招かれたオレたち、だ。

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