姉はすごいけど、妹はダメ?そんなことはありません。
私の姉、ワカは、め~っちゃ、なんでもできる。
子どもながら、様々なスキルを使いこなし、的確な判断もすぐにできる。
でも、性格は落ち着いてて、ちょっと辛辣に見えることもある。それでも、私はお姉ちゃんが好き。
対して私、サヤは、な~んにもできない。マジで。
お姉ちゃんはあんなに優秀なのに、私は、スキルってなに?状態。頭も悪い。
けど、見た目を褒められたことは数えきれないし、我ながら、モテる。
なんでもこなすけど、性格は普通な姉。
なんにもできないけど、可愛くて優しい妹。
こういうのって、フィクションなら妹が優しくされて、あとになって姉が力を発揮して妹がざまぁされたりするのかもしれないけど、私は「なんにもできないんだね」って蔑まれることばかり。優しくすることはあっても、されたことはあまりない。むしろ、イライラされることの方が多かった。
私の親も、表面上は取りつくろっているけど、きっとお姉ちゃんのほうが好き。
「こんなこともできないの?」「お姉ちゃんを見習いなさい」……私だって、できないフリしてるんじゃないもん……。やろうとはしてるのに。どうして……?
こんな私だったから、親はきっとあきれてる。
姉か妹どちらかしか助けられないと言われたら、お姉ちゃんを助けると思う。
お姉ちゃんのほうが、価値があるから。
◇ ◇ ◇
私もお姉ちゃんも成長して、お姉ちゃんは聖女に選ばれた。聖女と言えば、数少ない中の一人。お姉ちゃん、すごすぎる!
一方私は、なんにもできないから、色々な仕事を転々とした。結果、今は異世界の、冒険者ギルドの受付になった。正直、務まるか不安でしかないけど、とにかく私は必死だった。なんでもいいから仕事の面接を受けまくって、採用されたところに手あたり次第行くしかなかった。
でも、このギルドには、私は、「かわいいから」と言う理由で、文字通りの看板娘として、なんと入口に立っているだけでいいことになった。
ただ、さすがに立っているだけでは悪く思われてしまうな、と考え、私は必死でできることを考えた。なんにもできない身で、足りてない頭で、考えた。けど、一番冒険者のひとに喜んでもらえることといえば、結局は、ニコニコしながらあいさつして、落ち込んでたら励まして、新たな挑戦に一歩踏み出すのなら応援する、それだけかもしれないと思いついた。
次の日から私は、返事されてもされなくても「イラッシャイマセ」とあいさつをし、ウザそうに思われても「頑張ってくださいね!」と応援し、何も聞こえてなさそうでも「お疲れさまです、頑張りましたね」などと励ました。
それを続けていたら、ある日、いつものように入口に立とうとしたときに、落ち着いた声で先輩から「サヤ、ちょっと」と呼び出された。
え、なんだろ?まさか、ウザがられてるとか、余計なコトはするなとか、クビだ!とか? 怖い怖い怖い……。
先輩は何も言わず、ギルドの奥にあるスタッフオンリーの部屋まで移動する。
中には誰もおらず、私たちは二つの椅子が机をはさんで向かい合わせになったところへ座らされた。
心臓バクバク。
たぶん、顔はくしゃくしゃだぁ……。
顔を見せるまいとうつむく私をとがめることもなく、先輩は口を開いた。
「最近、ギルドのスタッフみんなが言ってるんだけど」
なんだろう? 陰口?
「サヤが来てから、利用者が増えて売り上げも増えたって、喜んでるのよ」
「……え?」
「利用される冒険者の方々も、サヤが応援してくれて嬉しいって」
「ほ、本当ですか⁉」
「ええ。サヤのおかげでここの評判はとてもよくなったし、心なしかみんな、雰囲気も良くなったというか……。 なんか、笑顔が増えてね」
「いえ!よ、良かったです! 嬉しいなぁ」
なにもできなかった私が、初めて見た目以外で褒められた。
私は、人生で一番、心から笑うことができた気がした。
「いつも、なにもできなかったから、初めて上手く物事をこなせたって思うと、私、泣いちゃう……」
思わずそうつぶやく。
「え、ええっ! 泣かないで! サヤちゃんは何もできなくなんかない! 優しいし、いい子だし、人気者だよ!」
「あ、ありがとうございますっ」
一見怖そうだった先輩も、私を励ますために優しくしてくれた。
みんな、いい人だなぁ。
こうしてやる気が出たその日は、いつにも増して、みんなあいさつにも返してくれたり、笑いかけてくれているように感じた。
もしかしたらみんな、ずっとこうだったのかもしれない。
私がそれを、見ようとしなかっただけなのかもな。
「いらっしゃいませ〜」
「……! あ、どうも……」
冒険者っぽいかっこいい青年は、少し驚いたのか、会釈だけしてギルドに入ってしまった。
(びっくりさせちゃったかな?)
それから少し経って、彼はギルドから出てきた。
その表情は、暗かった。うつむいていて、さっきの私みたいだった。
「……おにいさん、大丈夫?」
おそるおそる、声をかけてみる。
「……実はこれから、大きな戦いが……」
「そうなの? 頑張ってくださいね。またここで会おうね!」
ありきたりなことしか言えなかったけど、彼は急に明るい表情になった。灰色だったものが、明るい色を取り戻したみたいに。
「……また会おう。頑張ってきます!」
彼がどこかへ向かうのを見送り、元気になれたかな、なれたらいいな、と一人健闘を祈った。
それから数日。
「あっ!あなた……」
あの、かっこいい冒険者の人が戻ってきた。
彼も私のことを覚えてくれていたらしく、少し笑ってくれる。背が高くて、少しだけ後ずさっちゃう。
「良かった、また会えて!お疲れさまです」
「あのとき、応援してくれてありがとう」
実は彼、あのとき、パーティーを追放されたうえに、そのときパーティーに課せられていた大きな戦いを、仲間に押し付けられてたらしい。
当然、死を覚悟に挑んだけど、なんとか一人でやりきったって。よかった!
「すごいですね、一人で」
「いや、まだ全然……」
「いえいえ。誇ってください!」
彼は照れたのか、少し視線をそらした。
「あの……お名前、なんて」
「え? サヤ、ですけど」
「俺は、シア。ありがと、サヤさん。また――」
「ねぇ。あなた、サヤだよね?」
突然女性の声がかかる。
「えっ?」
……お姉ちゃん!
「入口で何してるの?それも、冒険者と話して。冒険者さんも、こんなとこでこんな子と話してないで、早く行――」
お姉ちゃんはそう言って冒険者の顔を見る。そのとたん、言葉が止まった。
「……なんでもないわ」
「え、お姉ちゃん、なんでここに」
「冒険者さん、早く中へ。お疲れでしょう?ゆっくりしたほうがいいわ。よければ私と」
お姉ちゃん、こんなに冷たかったっけ?
こんな人だったかな?
お姉ちゃんが私を差し置いて、彼を強引にギルドへ誘導していく。その後ろ姿をながめながら、ちょっと切なく思う。
あの人とも、もう少し話したかった……
◇ ◇ ◇
入口でぼーっとしていると、お姉ちゃんがあの人と戻ってきた。
「ご利用ありがとうございました」
「サヤはここの入口で、みんなを迎えてるって? サヤは可愛らしいものね」
冷たかったのに、お姉ちゃん、急に笑うようになった……
変に良い態度になった……
「……サヤさん、また来るね」
シアさんがちらっと振り返って、私を見る。
「あ、シアさん。また……」
「さ、行きましょ」
お姉ちゃんはまた、私を置いてシアさんを強引にどこかに連れていく。
そういう人だったっけ?
私ももっと、シアさんと話したいのに。
去りゆく二人の背中を、私は見届けるだけなの?
◇ ◇ ◇
ギルドの先輩とは、雑談するほどの仲にまでなれた。
「そういえばサヤちゃん、一人で魔王を討伐した勇者が今話題よ」
「すごっ。一人でできることなの?」
「本当よね。でも、誰かはまだわかってないの。本人が目立つの苦手らしくて、誰かわかるようなことは全て断ってて」
「えー、そんなことあるの? どんな人なんだろ」
その日、いつものように入口であいさつをしていると。
あの二人、シアさんとお姉ちゃんが、並んで歩いてギルドに来た。
並んで、というか、お姉ちゃんがちょっと強引に近づいている感じ。
お姉ちゃんはシアさんに恋しちゃったんだ……!たぶん。
「いらっしゃいませー」
「サヤ、やっほー。またここであいさつ?当番制じゃなくて、そういう係って決まってるのかしら。立場、昇格すればいいわねー」
「……」
もともとお姉ちゃんは、私に興味がなかった。
だから、悪口も言ってこなかった。
だけど、今は……。
黙って唇をそっと噛みしめる。
「……ワカさん、俺、そういうの嫌いだな」
「?」
唇を噛みしめた私とは対照的に、口を開いた青年がいた。
「自分の立場がいいからって、サヤさんのこと馬鹿にしてるよね?俺、そういうの無理」
「……し、してないけど」
「いや、今、したじゃん。 サヤさんは、いつもここであいさつしてくれる。俺の仲間もサヤさんに元気づけられてた。なのに、そんなふうに彼女が萎えるようなこと言うの、姉としてどうなの?元気づけるべきだろ」
「……あなた、何言ってるの? 冒険者のくせに」
「俺はただの冒険者じゃないけど?一人で魔王討伐した、勇者みたいなもんだけどな。そういえば討伐する前も、彼女に励まされて元気出たな〜」
それを聞いて、点と点がつながる。
「えっ!?シアさんだったの? 一人で魔王討伐したのって」
「あ、そうだよ。パーティーを追放されたあの話も、魔王討伐の直前のことだよ」
「えぇ〜っ。だからあんな暗かったんだ。今更だけど、おめでとうございます〜っ!すご〜!」
「ありがとう。でも、勝てたのはサヤさんが応援してくれたおかげだよ」
「えへへ、嬉しいです〜」
そう、自然に笑い合う私たちを見て、お姉ちゃんは嫉妬しちゃったみたい。黙ってその場を離れちゃった。
「あ、お姉ちゃん?お〜い?どこいくの〜っ!」
「今は、あの人のことはいいよ。
それより今は俺、サヤさんのことの方が……気になる」
「え……」
そのあと、お姉ちゃんはさらに私に嫉妬してきた。けど、シアさんが隣にいるからそれ以上のことはできなかった。
私は無力だけど、無力なりに頑張った。
お姉ちゃんは無力な私を卑下して落として、最終的に好きな人に見限られてしまった。
そして、無意識に良い行動をしていた人こそが、思わぬ結末を迎える。
今の私が、まさにそう。
今の私は、幸せだ。
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