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エピローグ――花月堂夜想譚
雑踏の中を歩きながら考える。
果たして私の人生は、これで良かったのだろうかと――。
考えても考えても袋小路に行き着くような、そんな心持ちでいた時だった。
ふと、目の前に白い絽の暖簾が翻った。
流麗な達筆で「花月」と書いてある。どうやら甘味処のようだ。
気付けば私は、まるで吸い込まれるように、その暖簾をくぐっていた。
暖簾の下には、白木の格子。瀟洒な造りだ。
こんな所に、こんな店があっただろうか。
どこか狐につままれたような感覚で、その上に掛かる風車の看板を見上げながら、引き戸を開ける。
黒い着物の青年が、柔らかな笑みをたたえ、黒い盆を持ってそこにいた。
「ようこそ、花月堂へ」
店に流れる清浄な香り、そして何処か古い夢の扉をそっと叩くような懐かしく甘い香りに誘われて、私はそっと店内に足を踏み入れた。
(完)




