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王都から馬車で南に1週間かかるイグニス公爵家の領地、グラーシア。
海が近く、自然も多いため貴族の別荘地としても有名だ。
最初こそ、両親と一緒にグラーシアの屋敷で過ごしていたユリアだが仕事や社交があるため、両親はずっと領地にいるわけにはいかない。
その為、ユリアは現在、祖父母と共に暮らしている。
厳格な祖父、優しい祖母に見守られ王都を離れて2年が経ち、ユリアは6歳になった。
小説の最初こそ、主人公であるニアが14歳で物語が始まるが、彼女が記憶喪失になる事故があったのがニアが7歳の時。
ユリアとニアは同い年。
つまり小説では、あと1年で物語のプロローグ部分が始まるのだ。
実はニアが記憶喪失になる事故を引き起こしたのは、7歳時のユリアなのだ。
ニアとニアの両親が乗った馬車の馬を、魔法の炎で驚かして制御不能になった馬車を崖から落としたのだ。
ニアは、運良く助かったが記憶喪失で叔父に見つけられるまでの7年間、孤児院で過ごすことになる。
そして、ニアの両親はその時2人とも亡くなってしまう。
しかし小説のユリアは、7歳の時には強力な炎を使用していたが、私は魔法のが一切使えない。
そもそも、淑女マナーのレッスンはするが魔法の使い方は学ばない。
よく異世界小説で制御ができなくて魔法の力が暴走するということもないし、そんな話も聞かない。
だが、お父様は使えるみたいだがどうしてだろう。
と考えながら私の部屋から見える森を眺める。
塀の外に広がるエナンの森は、魔物が出るとか、1度入ったら2度と出ることができないとか言われている為、観光客はもちろん地元民も絶対に入らない。
私だって、見るからにジメジメした森はゴメンだ。
なんて、ボーッと森を見ていると森の入り口に人影が見えた。
私と同じくらいの年齢の子がフラフラしながら、森の方に1人で向かっている。
「あの子、エナンの森について知らないのかしら!」
私は、急いでその子の後を追った。