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073 凌ぐ、反転

「GAU!」

「えいっ!」


 わたくし、エレオノールは、大きな咢を開いて迫るオオカミを、左手のラウンドシールドで思いっきり殴りつけます。


「くっ!」


 左腕が圧し潰されそうになるほどの圧力を感じます。腕が折れてしまいそう。


「はぁあ!」


 押し倒されそうになるのを必死に堪えて、それでもなんとかオオカミの軌道を逸らすことに成功しました。


 オオカミの無防備な横腹が、わたくしの目の前を通過していきます。本当なら、この横腹に剣を突き立てて倒してしまいたい。ですが……。


「GAAAAAAAA!」


 今度は右からオオカミが跳びかかってきます。ここで攻撃を仕掛けて体勢を崩せば、このオオカミの跳びかかりを凌げません。そうなれば、わたくしの体は押し倒され、敗北していたでしょう。もう同じ轍は踏みませんッ!


「せやぁあ!」


 わたくしは左にステップを踏み、右手のショートソードを跳びかかってきたオオカミの横顔に叩きつけます。斬りつけるというよりも、叩きつけてオオカミを弾き飛ばすことを意識します。


「グッ!」


 右手にかかる衝撃は予想以上でした。相手はおそらくわたくしよりも重い大きな白銀のオオカミです。その全体重の乗った跳びかかりを片手で弾くのは、決して容易ではありません。気を抜けば剣を取り落としてしまいそう。剣を握る指に意識を集中して、なんとか凌いでいきます。


「ッ!?」


 その時、わたくしの視界の端に、地を這うように高速で迫る白銀の光を捉えました。わたくしが相手にしている三体のオオカミの最後の一体です。


 オオカミは、元々群れで狩りをする生き物だからかもしれませんが、ダンジョンのモンスターも連携をして攻撃してきます。


 三体のオオカミによる連携攻撃。その最後の一撃が、唸り声を上げることもなく、草花の絨毯を駆けて迫るオオカミによる伏撃。これまでのオオカミが敢えて跳びかかってきたのも、わたくしの視線を上に向けるため。この最後の一撃のための伏線だったのでしょう。


 わたくしは、左手のラウンドシールドも、右手のショートソードも振り切り、両手を広げてしまった無防備な状態です。この上さらに三体目のオオカミの伏撃を防ぐのは……。


 アベル様をはじめ、仲間たちが、敢えてダンジョンを遠回りをしてわたくしを鍛えてくれたおかげで、わたくしは、二体までのオオカミならば凌ぐことができるようになりました。ですが、三体のオオカミと対峙するのは初めてのことです。


 しかも、今はアベル様とクロエが偵察に出ており、援護が見込めません。


 そんな状態で、わたくしに三体のオオカミを相手にして耐えることが可能かどうか……。いえ、可不可の問題ではありません。やるしかないのですッ!


 オオカミに足を噛み付かれて、引き倒されてしまった記憶がよみがえります。噛み付かれるのだけは避けなくてはッ!


「強固ッ!」


 わたくしは、神から賜ったギフトの力を発動しました。淡い黄色の光の粒子が、わたくしの体を包むのが分かりました。


 両手を既に使ってしまった以上、三体目のオオカミの攻撃は、体で受け止める他ありません。万が一にも致命傷を負わないように、わたくし自身の防御力を上げます。


 三体目のオオカミは、ギフト発動の光にも惑わされず、一直線に迫ってきていました。オオカミの狙いはどこか。わたくしは、オオカミの瞳に注視します。


 白銀の毛を持つ、立てば成人男性ほどの大きさを誇るオオカミ。その赤い瞳は、一直線にわたくしの右足に視線を注いでいました。おそらく、オオカミの狙いは、わたくしの右足。


 オオカミに噛み付かれないためにはどうすればいいか……。


 わたくしの体は、まるで最初から答えを知っていたかのように自然と動き始めました。これも、アベル様との訓練の成果かもしれません。


「GYAUN!?」


 わたくしの右足に噛み付こうとしたオオカミ。その横っ面を思い切り蹴とばしました。蹴り飛ばされたオオカミは、まるで予想外の攻撃をもらったかのように驚きの声をあげています。きっと、わたくしの紺のロングスカートが、振り上げる右足を隠してくれたので、不意打ちのように決まったのでしょう。


『いいか、エル。剣や盾を持っていると、それらに注意が行きがちだが、脚甲の付いた足ってのも十分な凶器だぜ。オレたちは冒険者。綺麗や汚いなんてのは関係ない。使えるものはなんでも使え』


 アベル様の教えがよみがえります。ひょっとしたら、アベル様はこのような事態を想定して、わたくしに足の隠れるロングスカートを勧めてくださったのかもしれません。


 わたくしは、三体のオオカミによる流れるような連携攻撃を辛くも撃退できました。ですが、油断はできません。攻撃を凌げただけで、わたくしは、一体のオオカミも倒せていないのですから。


『焦るなよ、エル。お前は防御が上手い。自分の身を守ることに専念したお前を崩すのは、正直、骨が折れる。あぁ、これは褒め言葉だぞ』


 頭の中で、ふとアベル様の言葉がよみがえりました。まだまだ未熟で、ふがいないわたくしですが、レベル8の冒険者の方からお褒めの言葉をもらったのです。それだけで、わたくしは小さな自信を持つことができます。


『タンクの役割ってのは、敵の注目を集め、攻撃に耐え続けることだ。この際、まだ攻撃に気を回す必要は無い。なんでかって? それは……』


「GAAAAAAAA!」


 わたくしが左手のラウンドシールドで逸らしたオオカミが、再度わたくしに飛び掛かってきました。ですが、わたくしはなにも構えません。だって……。


『お前が攻撃しなくてもな、お前が作った隙を突いて、仲間が攻撃してくれるからだ』


「ちょいなっ!」


 おかしな掛け声と共に、わたくしに飛び掛かったオオカミの首が、突如として空中で飛びました。

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