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051 切り裂く闇②

「ここがレベル7ダンジョンですか。どんな豪華な所かと思っていましたが、チンケな洞窟ですわね」


 冒険者パーティ『切り裂く闇』のリーダー、ブランディーヌは、目の前にぽっかりと開いた洞穴を見てがっかりしたように言った。


「ここで間違いは無いようだよ。ダンジョン石もある。どれどれ……」


 パーティの中でひときわ小柄な魔法使いクロードが、赤いローブから手を伸ばし、白い台座の上に安置された水晶へと手を伸ばした。


「ここがレベル7ダンジョン『女王アリの先兵』で間違いないね。挑戦している冒険者パーティの数は0。僕たちで独占できるよ」

「良き哉」


 クロードの言葉に、低く落ち着いた声が返ってくる。グラシアン。筋肉で盛り上がり、パツパツになった修道服を着た大男だ。その腰にはナックルダスターが吊られており、彼が神官の中でも数少ない戦士の素養を持つ者だということが分かる。


「それではどうしましょう? 今すぐ潜りますか?」


 縦にも横にも大きい白銀の全身鎧を纏った巨漢が、ブランディーヌの方を向いてくぐもった声を上げた。セドリック。『切り裂く闇』のタンクを担うパーティの守りの要である男だ。


「まだ朝も早い時間ですからね。少し潜って準備体操といきましょう」


 背中に吊った大きな漆黒の大剣の柄に手を当て、ブランディーヌが強気な発言をする。もしここにアベルが居れば、十分に休憩と食事を取るように言われ、止められていたことだろう。


 しかし、今はブランディーヌの言葉に異を唱える邪魔者は居ない。そのことにブランディーヌは暗い笑みを見せる。彼女にとって、今日がまさに己が真のリーダーになる記念すべき日だ。


「キヒッ! 準備体操たぁイカす表現だなぁ!」


 短剣使いのジョルジュが、甲高い奇声のような笑い声を上げた。黒いタイトな装備に身を包んだ線の細い男だ。彼はこのパーティの目であり、耳でもあるシーフ。その細い体は、無駄な筋肉をそぎ落とし、研ぎ澄ました結果だ。


「皆、傾注!」


 ブランディーヌの言葉に全員の視線が集まる。ブランディーヌはそのことに確かな満足感を覚え、しかし、その顔は不快に歪んでいた。


「わたくしたちは、冒険者ギルドに不当に扱われている。レベル6ダンジョンを攻略したわたくしたち『切り裂く闇』に入りたい奴が居ないなんてのは絶対にありえません! わたくしたちの冒険者レベルもそうです。レベル6ダンジョンを攻略したわたくしたちにはレベル6が相応しい。だというのに、わたくしたちのレベルはどうです? 一番高いわたくしでもレベル4だぞ? こんなのおかしいだろ!!!」


 不満が爆発したかのようにブランディーヌが絶叫する。その目には憎しみと表現するのも生ぬるい強い恨みの色があった。


 そんなブランディーヌの様子にあてられたのか、他のメンバーも不機嫌に顔を顰めている。


「それもこれも、みんなアベルのせいですわ! わたくしたちが苦労してレベル6ダンジョンを攻略した時どうでした? 冒険者ギルドはアベルだけ褒めて、わたくしたちはレベルアップなし。アベルが、俺たちの功績まで奪ったのです! 荷物持ちしかできない役立たずの分際で!!!」


 ブランディーヌは口から泡を飛ばし、尚もヒートアップしていく。


「冒険者ギルドはアベルばかり持ち上げて、わたくしたちを正当に評価しない。周りの冒険者もです! 誰も彼もアベルばかり褒めるばかり! あんな荷物持ちしかできねぇ人の何がすごいのでしょう? 攻略の最前線で命張ってるのはわたくしたちですわ? きっとアベルが口から出まかせで自分の功績を大きくしているに違いありません! 今回のメンバー募集もそうです! アベルが冒険者ギルドに手を回して妨害したに違いありませんわ!!!」


 ブランディーヌのアベルへの憎悪は尽きない。彼女は、本気で冒険者ギルドや周りの冒険者が、アベルの手のひらで踊らされていると信じている。彼女の仲間も同じ意見なのか、ブランディーヌの自分勝手とも聞こえる言葉を聞いても反論はなかった。


 実際はアベルにそんな意思は無いし、冒険者ギルドや周りの冒険者は正当な評価をしているだけだ。しかし、ブランディーヌたちには、自分たちがアベルに劣るという事実など受け入れがたいのだ。彼女たちは自分の見たい夢だけを見ているに過ぎない。


「ですが、それも今回でおしまいです」


 ブランディーヌが歪な笑みを浮かべて言った。


「今回、わたくしたちはレベル7ダンジョンに挑戦いたします。攻略できれば、冒険者ギルドの無能どもと、バカな冒険者たちも気が付くでしょう。わたくしたちの本当の実力に! アベルなんて必要無いという真実に!!! 彼らの曇った目を晴らしてやりましょう。そして、アベルなんて害虫に侵された冒険者ギルドを立て直すのです! 冒険者が正当に評価される未来を創るのです!!!」


 ブランディーヌの表情が蕩ける。その視線は定まらず、だらしない笑みを浮かべていた。おそらく、自分が冒険者ギルドを救った英雄と称えられる未来を夢見ているのだろう。彼女の中では、アベルは徹頭徹尾悪人であり、冒険者ギルドも、周りの冒険者たちも、アベルに踊らされるような哀れな存在に過ぎない。


 他のメンバーの顔もそれぞれ愉悦に歪んでいた。アベルの活躍ばかりが持て囃され、ブランディーヌを含めた彼女らは、栄光というものを感じたことが無い。彼らの自己承認欲求は、極限まで膨張していた。


 そこに、自分たちがヒーローに成れるチャンスが転がってきたのだ。彼女たちには、どんなご馳走より美味しそうに見えたことだろう。現実離れした夢が正常に見えるくらいには。


 彼女たちは現実よりも夢を見たいのだ。


 ブランディーヌは夢見心地のまま宣言する。自分たちの栄光のために、美辞麗句で飾った夢を。


「やってやりましょう! わたくしたちが冒険者ギルドを! そして冒険者たちを救うのです!!!」

「「「「おう!!!」」」」

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[一言] ここまで読んで思った事は、 マジックバックの中って時は止まるの? 止まらないのなら主人公のギフトは優秀過ぎるやろ だって、ダンジョン内でいつでも冷たい水や温かい料理が飲み食いできるやん。
[一言] なんだろう…、半日も経たずに潰滅しそう。
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