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116 切り裂く闇⑧

「ふんッ! ふんッ! ふんッ!」


 ナックルダスターに包まれた拳が、高速で振るわれる。鍛え上げられた肉体が、修道服を盛り上げている偉丈夫。グラシアンの拳だ。彼は戦闘系のギフトが無いというのに、高レベルダンジョンで前衛を張り続けたモンク。その拳には岩をも砕くほどの威力が込められている。それを連続で放つ恐怖。


「ちょわっ!? わっとっ!? あわわっ!?」


 その拳を曲がりなりにも避けているのが、グラシアンと対峙しているジゼルだ。彼女は奇妙な声を上げながら、しかし、グラシアンの嵐とも言える拳の連打を避けている。


「んっ……!」


 そして、まるでグラシアンにちょっかいをかけるように、ジゼルの後ろからさすまたが伸びる。リディだ。ジゼルとリディは、協力してグラシアンに対峙しているのだ。


「ふッ! ふんッ!」


 グラシアンは、リディのさすまたを拳で受け止めると、即その柄を折らんと拳を振るう。


 しかし、リディもさすまたの柄が狙われることは重々承知していた。突き出した時よりも速いスピードでさすまたを引く。


 間一髪のところでさすまたを逃がすことに成功したリディ。訓練の成果が出ているな。長物というのは、一方的に相手を攻撃できるが、その実、弱点が多いからな。得物を引いた今こそが、リディの弱点だ。


 当然、それはグラシアンも分かっている。リディの懐に入ろうと前進するグラシアン。しかし、そこに立ちはだかる人影があった。


「ちょいなっ!」


 ジゼルだ。ジゼルが相変わらずの奇声を上げて長剣をグラシアンに振るう。


「ふんッ!」


 グラシアンはリディに接近することを諦めて、バックステップでジゼルの剣を躱した。そして、まるで跳ね返るように前方に踏み込む。剣を振るった直後のジゼルを刈り取るためだ。


「ん……っ!」


 そこに、そうはさせじとリディのさすまたが放たれる。ジゼルとリディは、お互いの隙を庇い合うように連携し、グラシアンという格上のモンクに対抗していた。


 しかし、二人がかりでやっと対抗できているに過ぎない。なにか一つでも歯車が狂ったら、たちまち潰されてしまうだろう。ジゼルとリディは、極度のストレス下で、それでも協力し、連携を成功させているのだ。


「チッ! このメスガキがぁー!」


 忌々しそうに声を上げるのは、線の細い男だ。ジョルジュ。『切り裂く闇』のシーフである。その左太ももからは、ドクドクと血が流れてる。傷は深そうだ。いつも浮かべられていたニヤケ顔はどこに行ったのか、憎悪の表情で対峙する少女を見ていた。


 ジョルジュと対峙しているのは、クロエだ。スティレットを構えて、真剣な表情でジョルジュと向き合っている。


 クロエとジョルジュが居るのは、ブランディーヌやグラシアンの戦っているずっと後方である。もしかすると、ジョルジュは形勢不利と判断して逃げようとしていたのかもしれない。


 そこをクロエに刺された。


 クロエと対峙し、脚を負傷したジョルジュには、離脱は難しいだろう。クロエはよくやってくれた。一人でも逃したら後の禍根になるからな。特にジョルジュは裏社会に独自のコネを持っている。一番逃したくない相手だ。


「来いよ! ぶっ殺してやる!」

「…………」


 ジョルジュが恐喝するように叫ぶが、クロエは返事すらしなかった。怯えているわけではない。クロエなりに考えられた戦法だろう。


 ジョルジュは脚を怪我している。それも深い傷だ。自分から相手に踏み込んで戦闘するのは避けたいはずだ。だからクロエを挑発し、クロエの攻撃を誘う。その方が、足に負担がかからないからな。


 クロエはそれを見切っているのだ。だから動かない。決して無理をせず、最善手を選び続ける。


 オレはクロエのクレバーな判断力に喝采を贈りたくなったほどだ。


 戦況は膠着しているな。いや、ブランディーヌと対峙しているエレオノールが押されているか。防御を固めたエレオノールの耐久力は特筆に値するが、その防御力も切り崩されつつある。


 やはり、エレオノール一人でブランディーヌと対峙するのは無理があったか。むしろ今までよく保った方かもしれないな。


 当初の作戦では、エレオノールがブランディーヌを押さえている内に、人数有利であるジゼル、リディがグラシアンを攻略する予定だった。だが、ブランディーヌの攻撃力が予想を上回ったのか、グラシアンの耐久力が予想以上だったのか、グラシアンの討伐を待つことなく、エレオノールが倒されてしまいそうだ。


 これはテコ入れが必要だろう。


「じゃあ、オレもそろそろ行くわ」


 最後にイザベルの頭をぽんぽんと優しく叩くと、オレは前衛に駆け出す。


 ブランディーヌたちを使ってクロエたちに格上との戦闘を学ばせる。その目論見は達成されたとみていいだろう。あとはお片付けの時間だ。さすがに、これだけはクロエたちに任せるわけにはいかない。


 オレが作ってしまった遺恨だからな。オレの手で終わらせる必要がある。


 オレは腰に佩いた宝具の剣“極光の担い手”を抜き、ブランディーヌに躍りかかった。

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