114 射
「やぁああああああああああああああッ!」
エレオノールの張りのあるウォークライ。彼女はブランディーヌたちの注目を集めるために駆ける。しかし、ブランディーヌたちの反応はといえば、微妙だ。『切り裂く闇』の連中は、クロエたちの実力をナメている。そして、オレのことを戦闘能力がないただの荷物持ちと侮っているだろう。
ブランディーヌたちにとって、この戦闘はもはや勝利が確定しているのだ。オレたちの退路を塞ぐように展開している冒険者崩れたちも、オレたちを逃がさないようにとりあえず配置しただけに過ぎない。
前後を挟まれた状態で、パーティの守りの要であるエレオノールが、飛び出した意味も分かっていないだろう。
「オディロン! 頼んだぜッ!」
オレは、さっそく手札を一枚切る。オレの持ちえる最強の手札。オディロンだ。
「応ッ!」
予定通り、後方から響いたオディロンの声に、オレは満足する。
ブランディーヌたちが、冒険者崩れたちと繋がっているのは分かっていた。ならば、それに対処するのは簡単だ。
予想では、ブランディーヌたちはもう少し上手く冒険者崩れという戦力を使用すると思ったのだが、まぁ、仕事が楽になるのは歓迎だ。
オレは冒険者崩れの相手をオディロンのパーティに任せ、クロエたちをブランディーヌたち『切り裂く闇』にぶつけるべく作戦を考えたのだ。
格上との真剣勝負は、クロエたちに更なる成長をもたらしてくれるだろう。
ピンチはチャンスとはよく言ったもので、オレはこの窮地をクロエたちの成長の場として利用し尽くすつもりだ。
そのために、オレももう一手打つとするか。
「うぐほっ!?」
「な、何者だ!?」
「ひぃっ! “岩砕き”のオディロン!?」
「なんで、こんな所に!?」
後方から、オディロンのパーティの登場に慌てふためく冒険者崩れたちの声が聞こえる。オディロンが冒険者に耐えられなかった弱者に負けるはずがねぇからな。しばらくしたら、綺麗に片付けてくれるだろう。おかげでオレたちは前だけに集中できる。
「オディロンですって!?」
「本物か!?」
ブランディーヌたちも、オディロンの登場に気が付いたようだな。彼女たちの注意は、オディロンに集中している。ロクに戦闘準備もせず、目の前の敵から視線を外すとはいい度胸だ。そんなことはするなと教えたはずなんだがな。高い授業料になるぞ。
「収納空間展開!」
オレは右の手のひらをある人物に向ける。細い体躯を漆黒のローブに身を包んだ、くすんだ金髪の男。クロード。広範囲攻撃を得意とする魔法使い。『切り裂く闇』のメイン火力。コイツだけは早めに処理しないとマズイ。
「……“ショット”」
ボウンッ!!!
空気を切り裂く唸り声を上げ、破壊の化身が宙を翔ける。撃ち出された極太のボルトは、狙い違わず飛び……。
パァンッ!!!
まるでデカいスイカでも叩き潰したような湿った爆発音を響かせて、クロードだったものが真っ赤に咲き、弾け飛ぶ。
すまんなクロード。オレはお前の魔法の威力だけは評価している。だから、早々に潰させてもらった。
オレは、教え子とも言えるクロードを手にかけた。だが、オレに後悔はない。
アイツらの標的がオレだけなら、こんなことにはならなかった。オレはクロード殺すことを戸惑っただろう。きっと、命だけは助けようと動いたはずだ。
しかし、ブランディーヌたちの標的には、クロエたちが含まれていた。ブランディーヌは、クロエたちを殺すと明言した。クロエに牙を剥く以上、お前らはオレにとって許すわけにはいかない明確な敵となった。
敵は速やかに、そして徹底的に排除しなければならない。つまらない情けなど、後の禍根となるだけだ。
「はぁ……ッ!?」
「何が!?」
「クロード!?」
ズシャッ!
『切り裂く闇』の誰もが、攻撃を知覚できなかったのだろう。皆、アホ面をさらして、上半身を失ったクロードだったものが、血を吹き出しながら地面に転がるのを見ていた。
はぁ。また目の前の敵から視線を外してやがる。学習のしない奴らだな。だからこうなる。
「トロワル! ストーンショット! 発射ッ!」
戦闘が開始してから、静かに魔法を練り上げていたイザベル。その魔法が、今まさに発動する!
ドゥンッ!!!
聞き慣れた独特な発射音と共に飛翔するのは、土の槍だ。衝撃波を纏いながら、オレでも知覚すらできないほどの高速で飛翔し、その役目を果たす。その狙いは……。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!
「ッ!?」
地面に着弾し、大爆発を起こしたストーンショット。一気に土煙が舞い上がり、裏路地が覆われる。その土煙から飛び出してきたのは、丸い物体だ。全身鎧に身を包んだ白銀の物体が、赤い線を描きながら飛び、落ちてくる。
ドグシャッ!!
落ちてきたのは、『切り裂く闇』のメンバーでも一際大きい体躯を誇るセドリックだ。両ヒザから足が千切れ飛んだセドリックが、地面に叩きつけられ、まるで水袋を叩きつけたような、湿った音を響かせた。
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