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109 早期解決法

 クロエたちに対『切り裂く闇』に特化した訓練をつけつつ、『切り裂く闇』の動きを待つ。


 クロエたちの仕上がりはいい感じだ。やはり若さがいいのか、乾いた大地が水吸うように、どんどんと上達していく。本来なら、こんな用途が限定的な訓練は、効率が悪すぎるからしないのだが、相手から襲われる心配がある以上仕方がない。


 必要に迫られて仕方がなく行った訓練だが、予想外の効果をクロエたちにもたらしたのも確かだ。


 クロエたちは、自由に外出することもできず、ずっと屋敷の中で缶詰だった。こんな状態では、ストレスが溜まるのは当たり前だ。しかし、訓練を始めてからは、クロエたちのストレスは軽減されたようだ。やはり、思いっきり体を動かすのがよかったのだろうか。


 意外なところから問題となっていたストレスに対する解法も出てきたことによって、オレたちは更に屋敷に閉じこもった。


 元々籠城するために買った屋敷だ。このまま籠城を続けて『切り裂く闇』の襲撃を待ち受けていたのだが……。


 一向に『切り裂く闇』に動きがない。


 こちらはやろうと思えばいくらでも籠城ができるだろう。しかし、いつまで経っても『切り裂く闇』に動きがない。これは問題だ。


 本当なら、『切り裂く闇』の問題などすぐに片付けて、ダンジョンの攻略の続きに取り掛かりたいし、他にもいろいろと用事が溜まっている。いつまでも『切り裂く闇』の相手をしているほど、オレたちは暇ではないのだ。


 そこで……。


「『切り裂く闇』の連中には、まだ動きがねぇのか?」

「ない」


 オレの問いかけを、オディロンが切って捨てる。


 オレたちは、現状の打破を図るために、オディロンに来てもらっていた。オディロンならば、冒険者の動向に詳しいし、経験も豊富だ。妙案を授けてくれるかもしれないという期待があった。


「現状、オレたちはいつまでも籠城はできると思う。『切り裂く闇』には借金があるらしいじゃねぇか。返済にも期限ってものがあるだろ? 時間は俺たちに有利に働くはずなんだが……。あまり時間をかけるのも無駄だ。オレたちは早くこの事態を収束させたい」

「お前さんの考えは分かるがの……」


 オディロンが腕を組んで、天井を睨み付けるように見つめる。まるでなにかを思い出すような仕草だな。きっと、今まで集めた情報を頭の中で精査し、いい案がないか考えているのだろう。


 やがて、オディロンが目を瞑ると、すぐに目を見開いてオレを貫くように見つめる。なにかいい案でもあったか?


「ふむ……。一応、早期解決させるための案が無いわけでもないが……」

「ほう」


 さすがオディロンだな。この短時間で打開策を練るとは。しかし、どうもオディロンの歯切れが悪い。どうしたんだ?


「なにか問題でもあるのか?」

「うむ……」

「言ってくれよ、オディロン。お前が言ってくれなきゃ解決策も練れねぇ」


 言い淀むオディロンを急かすと、ついにオディロンが諦めたように口を開く。


「先にも言ったが、手立てはある。しかし、危険な策だ。お前さんはいいかもしれんが、嬢ちゃんたちにはちとキツイぞ?」

「構わないわ」


 オディロンの覚悟を問うような声に、間髪入れずにイザベルが答えた。


「狙われているのですもの、危険は覚悟の上よ。降りかかる火の粉は自力で払わないとね。私たちは冒険者ですもの。それに、既に対『切り裂く闇』戦を想定した訓練も始まっているわ」

「ふむ……。準備がいいな。さすがアベルのパーティと言ったところか。それに、勇ましい。いい覚悟だな。これもお前さんの薫陶か?」

「いや、イザベルは元からこんな感じだ」


 イザベルは冷静沈着といった印象が強いが、極度の負けず嫌いでもある。いや、負けず嫌いと言うか、ナメられたら終わりのようなヤンキー染みた思考の持ち主だ。とにかく弱いところを見せない。今回も自分たちが『切り裂く闇』に劣ると思われたくないのだろう。


 しかし、悲しいかな。『切り裂く闇』の実力を知り、クロエたちを鍛えているオレだからこそ分かるが、クロエたちの実力は、『切り裂く闇』に比べると劣っていると言わざるをえないのが実情だ。


 さすがにレベル3ダンジョンをクリアしたばかりのパーティと、曲がりなりにもレベル6ダンジョンをクリアしたことがある『切り裂く闇』では、実力も知識も年季も違う。


 だが、オレは『切り裂く闇』のメンバーの苦手部分や弱点を知り尽くしている。


 戦術次第だが、勝てる可能性は十分にあると考えている。というか、そこまでクロエたちを対『切り裂く闇』戦闘に特化して鍛え上げた。


「イザベルの言葉じゃねぇが、オレたち『五花の夢』は、オディロンが考えているより劣ってるわけじゃねぇよ。勝率はそこそこある」

「ほう。相変わらずお前さんは凄まじいな」


 気が付けば、オディロンが眩しいものを見るような目でオレを見ていた。


「どうしたんだよ、オディロン?」

「いや、新人冒険者の嬢ちゃんたちが、レベル6ダンジョンをクリアしたパーティに勝てるなんて、尋常なことじゃねぇぞ? 普通は逆立ちしたって無理だ。その無理を可能にしちまうなんて……。お前さんの指導者としての力は、やはり群を抜いておる!」


 そうは言われても、頑張ったのはオレじゃなくてクロエたちだ。


「オレだけの力じゃねぇよ。『五花の夢』皆の成果だ」

「それでいて、驕ったところもねぇ! お前さんはやはり最高の冒険者じゃ!」


 なんだかなにを言っても褒め言葉が返ってくる機械になってしまったオディロン。褒められるのは嬉しいが、慣れてなさ過ぎて体がゾワゾワするな。


 そんなオレをクロエたちは温かい目で見ていた。

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