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107 殺

 バシッ!


「あうんっ!?」


 剣の腹で尻を叩かれたジゼルが、情けない声を上げて床へと転がった。オレの勝利だ。


「ふー」


 オレは溜めこんでいた息を一気に吐き出し、全身の力を抜いて姿勢を正す。頭に過るのは、先程のジゼルとの模擬戦だ。危うく負けそうになってヒヤリとしたな。ジゼルの成長速度は異常だ。これもジゼルのギフト【剣王】のなせる業だろう。今回はなんとか勝てたが、これは次回は難しいかもしれないな。


「あーもう! まけたー!」


 ジゼルが道場の床に大の字になり、悔しそうに手足をバタバタさせている。なんとも子どもっぽい仕草だが、その実力は既に侮れないものになって久しい。


「ふー」


 オレは肺から熱い息を漏らし、呼吸を整える。さすがに四回連続の模擬戦は疲れた。結果は全戦全勝。オレの完勝だが、まぁ、初めはこんなもんだろう。久しぶりに持った片手剣とカイトシールドだったが、そこそこ操れてよかったな。


「それで、どうだった? なにか掴めたか?」

「うーん……」


 オレと模擬戦をしたクロエ、エレオノール、リディ、ジゼルは、考え込むような表情を見せる。


「えっとね。叔父さんがどっしりしてるって言うか……」

「そうそう。おっきな岩を相手にしてるみたいだった!」

「んっ……!」

「わたくしも同じようなことを思いましたぁ。なんと言えばいいのか……。アベルさんがより大きく見えて……」

「ふむ」


 クロエたちは、なにかを掴みかけているが、上手く言語化できていないようだ。まぁ、それはこれから何度も訓練を通してより確かなものになっていくだろう。


「じゃあ……」

「ちょっといいかしら?」


 これからもう一回り模擬戦をするかと思ったところで、イザベルが声を上げる。今回、イザベルは訓練に参加していない。道場の中で魔法を撃たれたら、道場に穴が開いちまうからな。イザベルには、後で個別の訓練をするつもりだったが、なにか言いたいことがあるらしい。


「いいぞ。なにか気が付いた点でもあるのか?」

「そうね。アベルだけど、今回の模擬戦では、今までのような動きがなかったのが印象的だったかしら。相手に攻めさせて、カウンターを狙うような。動くのを最低限にすることに終始していたわ」

「ほう?」


 訓練において最も重要な要素と言われる“見”。イザベルは、オレとクロエたちの模擬戦を見ることで、答えに辿り着こうとしている。


「私は『切り裂く闇』のタンクを実際に見たことがあるけど、肥満とも言えるような大男だったわ。たぶん、軽やかに動くことが苦手だと思うの。今回のアベルの戦法は、その再現かしら?」

「なるほど。よく見ているな」


 オレは素直に両手を上げてイザベルを称賛する。


「最初に言っただろ? 『切り裂く闇』の連中のクセを掴めと。イザベルの言う通り、今回は『切り裂く闇』のタンク、セドリックのよくやる戦法だ。奴は太った大男だからな。細かな動きが苦手だ。攻撃を躱すということは、まず無い。必ず盾で受け止めるか、受け流す。クロエたちが大きな岩のように感じたのは、ある意味あってるな」


 オレは、クロエたちを一人一人見ながら、なるべく簡単な表現を使ってセドリックについて伝えていく。


「体重はオレの三倍はあるだろう。そんな重量物に体当たりをしても、自分が弾き飛ばされるだけだ」

「はいぃ……」


 エレオノールが面目なさそうな表情で顔を伏せた。エレオノールがよくやる開幕のシールドタックル。あれは今回においては完全に悪手だった。


「セドリックの奴は、力持ちでもある。物理的に奴を崩すのは、不可能に近い。そこで……」

「なに?」


 オレが目を向けたのはイザベルだ。オレの視線に誘導されたのか、クロエたちの視線もイザベルに集まる。


「イザベルの出番ってこった。イザベルの精霊魔法ならば、セドリックを防御を撃ち抜けるだろう」


 セドリックは確かに物理防御能力が高い。だが、それに反して魔法への備えは貧弱だ。魔法に対抗するための装備ってのは少ないからな。資金が潤っていた『切り裂く闇』でも所有できていなかった。おそらく、今も貧弱なままだろう。


 『切り裂く闇』では、魔法使いを最初に攻撃し、魔法を撃たれる前に倒すのが主流だったが、主にそれを担っていたオレが抜けた今、魔法使いへの攻撃能力というのは下がっているはずだ。


 この隙を狙う。


「前衛組は、セドリックを無視しろ。まともに相手しても時間の無駄だ。エレオノールなら分かるだろうが、タンクにとって無視されるというのは、かなり嫌がるはずだからな。相手の嫌がることは積極的にやっていけ」


 対人戦ってのは、嫌がらせした者勝ちという面もあるからな。


「セドリックは肥満で、全身鎧を身に付けているから動きが鈍い。魔法の的には最適だ」

「そういうこと……」


 イザベルが眉を寄せて難しそうな顔を浮かべている。しかし、なにかを吹っ切るように息を吐くと、オレを真正面から見つめてきた。


「私に殺れというのね?」

「べつに、必ず殺す必要は無い。手足の一本でも奪えばそれでいいさ」

「そんな中途半端な覚悟では、鈍ってしまうわ。私はセドリックを必ず殺すつもりよ?」

「…………」


 覚悟が決まった目を向けるイザベルに、オレには返す言葉が浮かばなかった。

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