推しを見る夢
夢に推しメンが出てきた。
推しは数年前にアイドルを引退し、今では偶にSNSが動いてるのを見て生存確認できるか、という程度の関係性でしかない。
そんな推しに会えたのだ。夢でしかないだろう。
「これって夢でしょ?触っていい?」
「え、いいよー?」
推しは気軽に返してくる。頬を触る。なんとなく感触があるような気がした。
「いや、でも絶対夢だって!ほれー、起きろ俺!」
「そこまで拒否されるとなんだかなぁってなるよ」
「うちの推しはそんな殊勝なこと言わねーよ」
やはり夢だと確認した。夢。会えなくなってから初めて出てきた夢。
夢ならば覚めるしかない。現実ではない推しを見ても、私の中の幻想の推しを見ても嬉しくない。
いやそれは嘘だ。嬉しい。
ただ、それ以上にむなしくなるだけだ。
「どうしたら目が覚めるのやら」
「目を開ければ夢から覚めるよ」
そう言いながら推しは俺の手を自分の頬に付けてきた。ますます夢であるという確証を得た。
「目、開けろ!」
「そんなこと自分で言って開けられる人いるかなぁ?」
そりゃ開けられないよな、分かる。
分かるけど、一刻も早く目を覚ましたい。
「あー、それだったら、手で無理矢理、目を開けるしかないな」
「あは、難しいこと言うね。ここが夢の中なら体も眠っているのにそんな簡単に動くかな?」
「どっせーい」
右手を右目の元に持ってくる。多分、現実でも持ってこれた。
「開けよこのスカポンタヌキ!」
そして無理に目を開ける。固い。それでも開ける、開ける。
そうすると、白老景色が見えた。我が家の天井だ。
「なんだ、やっぱり夢だったか」
と思う気持ちとは反面に、少し寂しさが残った。
本当はもっとたくさん推しと話がしたかったのに。たとえ夢の中でも。
「もう会えない液晶に映る君だけど、きっとずっと好きなんだろうな、死ぬまで」
そう口にした時、何かが体から離れた気がした。
そういえば昔国語の授業で習ったことがある。
「古文の世界では、夢であるというのは、相手が夢を渡って会いに来てくれるのです。会いたいと願う、相手の気持ちで」と。
それを思い出すと無理に起きたのは申し訳ない気がした。
でも、これから、前を向いて生きていきたいとも思った。例え絶頂で離れてトラウマになった推しメンであっても。