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第6話。男女機会均等法。

 作者メモ。


 史実では、戯志才(ぎしさい)(あざな)は不明ですが、本作では「志才」の方をこそ(あざな)だと推定し、(いみな)を新しく創作し(せん)としました。

 理由は、戯志才が生まれた頃に在位だった桓帝(劉志)の(いみな)避諱(ひき)して「志」の文字は用いない筈だという解釈です。

 実際に、作者調べによると三国志で志の文字を(いみな)に用いる人物は見当たりません(いたら、ごめんなさい)。


 (あざな)避諱(ひき)(いみな)よりは緩いようです。

 史渙(しかん)(あざな)は公劉……ちゃっかり天子の姓を使っていますからね。


 そもそも、戯志才(ぎしさい)は、後に郭嘉(かくか)をドラマチックに登場させバトンタッチする目的の為だけに創作された架空の人物という説もありますが……。

架空の人物説が事実なら、ファンタジーや小説ではない史書に架空の人物を登場させるのは流石にアウトでしょう……陳寿さん。

三国(みくに)王と並ぶ神仙(しんせん)とは、どのような方々なのですか?」

 孔融(こうゆう)が興味を示した。


 私の戦闘力は、それを示威(デモンストレーション)した相手には「口外しないように」と口止めしているけれど、人の口に戸は立てられないから、漢の朝廷内で起きた事に(さと)い者なら色々な噂を耳にした事があるだろう。

 曰く「巨岩を素手で殴って粉々に砕いた」とか、曰く「弓を射られて、生身で矢を弾き返した」とか、曰く「敵対的な人間に対して、雷を落として丸()げにした」とか……。


 その私に匹敵(実際には、私には全く敵わないけれど……)する強者が他にもいると聴けば、興味を惹かれるに違いない。


塔里木(たりむ)帝国の女帝婉姈(えんれい)と、戦姫(せんき)賢姫(けんき)という者達です」


 戦姫(せんき)賢姫(けんき)は、もちろん実名ではない。

 塔里木(たりむ)帝国には(あざな)を名乗る習慣がないので、帝国民が2人に敬愛と畏怖を表して呼んだ尊称みたいなものだ。

 戦姫(せんき)麻姑(まこ)で、賢姫(けんき)嬋娟(せんけん)と言う。


 私の陣営(うち)には、仙姫()戦姫(麻姑)軍姫(嬋娟)の他にも剣妃(けんき)とか弓姫(きゅうき)とか匠姫(しょうき)とか厨姫(ちゅうき)とか、妃やら姫が色々といるんだよ。


「何と!皆、女士なのですか?」

 孔融(こうゆう)が驚く。


「私も女ですが、何か?」


「い、いえ……」


 一応、儒学には「男尊女卑」という思想はないらしい。

 少なくとも、孔丘(こうきゅう)孔子(こうし))の言葉を記録した一次文献に具体的な言及はないそうだ。

 端々に、そう感じるニュアンスは散見されるけれどね。


 でも、漢代の官吏は、基本的に男性しかなれない。

 漢で最も影響力がある思想体系の儒学で「男女機会均等」が明言されていれば、こんな偏った公務員採用制度にはなっていないだろう。


 儒学が「男尊女卑」を積極的に肯定しないまでも、黙認して来たのは間違いない。

 そして孔融(こうゆう)は、その儒学の宗家の人間だ。


「儒学が悪い思想だ」なんて断言するつもりはないけれど、一部に改善されるべき内容が含まれるなら、孔融(こうゆう)は儒学の宗家として批判の矛先を向けられる事もある。

 先祖の事績は、本来なら子孫(孔融(こうゆう))には全く責任がない話だけれど、逆の場合に孔融(こうゆう)は、「儒学の宗家」というだけの理由で、世間から自らの功績でない事で尊敬され様々な既得権の恩恵に浴しているのだから「行って来い」という訳だ。


 ま、男尊女卑的な風潮は、漢を含めて古代世界には頻出する遅れた価値基準であり慣習であり常識なのだから、孔融(こうゆう)孔子(こうし)の子孫)1人の責任を(あげつら)って苛めるのも可哀想だけれどさ。


「私も含めて、その4人がおそらく西域(さいいき)最強でしょうね」


 本当は世界最強……いや、現代(未来)世界も含めた人類史上最強だと思う。

 私が知る限り、厚さ3cmの鋼鉄に拳で穴を開けられる人間なんかいないからね。


 私は勿論だけれど、戦姫(せんき)と呼ばれる麻姑(まこ)ならば、ティラノサウルスとだって素手の殴り合い(ステゴロ)で勝つかもしれない。


荀諝君(じゅんしょくん)殿(荀爽(じゅんそう))から、塔里木(たりむ)は女性優位の母権制の社会だと伺いましたが、それも塔里木(たりむ)では女の方が強いからですか?そして、男は(かんざし)を刺して(ほう)(台所)に立つのですかな?わははは……はは……」

 孔融(こうゆう)は、「面白いジョークを言ってやった」という様子で笑った後、私が全く笑っていない事に気付いて表情が固まる。


「いいえ。私達4人が強いのは特別です。塔里木(たりむ)帝国の女性達も、漢の女性達と基本的な性質において何ら差はありません。塔里木(たりむ)帝国が母権制なのは、国民の中に元々母権制の習慣があった遊牧民が多い事と、君主が女帝の婉姈(えんれい)だったからです。漢の天子(皇帝)が男性で、漢が父権制だという理屈と同じだと思います。それから、(こう)大儒(たいじゅ)殿(優れた儒学者。孔融(こうゆう)の事)、生理学的な違いこそあれ男性と女性には本質的に優劣も貴賎もありませんよ。陳神君(ちんしんくん)老師(神のように偉大な君子。陳寔(ちんしょく))でも、私の前で『男性だから』とか『女性なのに』というような(たぐい)の話はしません。私が不機嫌になるからです」


「あ、いや……」

 孔融(こうゆう)は、冷や汗を流した。


「まあまあ、三国(みくに)王。文挙(ぶんきょ)殿(孔融(こうゆう))の仰った事には、王の威を(おとし)めるような意図はありますまい」

 王允(おういん)が私を(なだ)めようとする。


仙姫(せんき)様。ここは私に免じて穏便に……」

 荀爽(じゅんそう)も間に入ろうとした。


(おう)刺史(しし)殿(王允(おういん))、慈明(じめい)先生(荀爽(じゅんそう))。お2人は、ご存知かと思いますが、潁川(えいせん)には『男女機会均等法』という法がございます。これは、男女の扱いや待遇に()()()()()優劣や貴賎を付けるような事は違法とするものです。潁川(えいせん)の王たる私が潁川(えいせん)法を(ないがし)ろにしていると思われたら、民が潁川(えいせん)法を守ろうという意気を損ねます。もしかしたら、(こう)大儒(たいじゅ)殿(孔融(こうゆう))も、(しゅ)左中郎将(さちゅうろうしょう)殿(朱儁(しゅしゅん))のように潁川(えいせん)法をご存知ないといけないと思い、()えて耳障りな事を申し上げました。お許し下さい」

 私は、孔融(こうゆう)に対して頭を下げる。


「滅相もない事です。私が浅慮(せんりょ)でございました。申し訳ありません」

 孔融(こうゆう)も頭を下げて謝罪した。


「いいえ。(こう)大儒(たいじゅ)殿(孔融(こうゆう))が言った戯言(ざれごと)は、実害を伴っておりませんので適法の範囲内です。しかし、そのような戯言(ざれごと)を日常的に仰られていると、不用意に適法の範囲を逸脱して、この潁川(えいせん)では罪に問われる懸念もあります。どうか、以後はお気を付け下さいませ」

 私は、孔融(こうゆう)が口を滑らせた事について、「この場限りの事として水に流し、遺恨はない」という意味でニコリと笑って見せる。


「分かりました。肝に銘じます」

 孔融(こうゆう)も安心したように笑顔になった。


 孔融(こうゆう)が自分に非があると認めて謝罪し、私もそれを許したので、腰を半ば浮かせて本格的に仲裁に入ろうとしていた荀爽(じゅんそう)は「ほっ」と息を吐いて腰を下ろす。


 私が、孔融(こうゆう)のジョークに嫌味を言って場の空気が少しピリ付いたので、軍議を兼ねた宴席はお開きとなった。


 朱儁(しゅしゅん)は、私が用意した高級な宿ではなく、自分が率いる軍が守衛代わりに駐屯している北門に向かって「兵達と一緒に眠る」と言って退室して行く。


 なるほど。

 グズ野郎の朱儁(しゅしゅん)も、1軍の指揮官として隷下(れいか)の将兵と寝食を共にする武人の矜持は持ち合わせているらしい。

 少しだけ見直した。


「私も、この後長社(ちょうしゃ)の地元有力者達との会合に出席しなければなりませんので、お先に失礼致します」

 鍾繇(しょうよう)も席を立つ。


 鍾繇(しょうよう)は、地元長社(ちょうしゃ)の出身だ。

 長社(ちょうしゃ)の地元有力者達とは、昔からの縁故があって顔が利く。

 長社(ちょうしゃ)の住民も「地元の事情を良く知っている(しょう)県令(けんれい)様は話が分かる」と頼りにするだろうしね。


 因みに、漢の慣例では、郡太守(たいしゅ)県令(けんれい)に地元の者は就任出来ない。

 地元有力者との癒着による賄賂や不正な利益誘導など汚職を恐れるからだ。


 でも、私は、その慣例を破って潁川(えいせん)各地の県令(けんれい)には地元出身者を積極的に登用している。

 その方が地域事情を把握して問題に対応し易いからだ。


 癒着?

 汚職?


 最強のスパイ組織である禹歩党(うほとう)を配下に抱える私の下で、そんな事が出来ると思うなら、やってみれば良いよ。

 そんな命知らずは、私の陣営にはいない。


「私も、そっちに顔を出そうか?」

 私は、鍾繇(しょうよう)に訊ねた。


「いいえ。『いつまで、この籠城が続くのか?』とか『賊軍に踏み荒らされたり略奪された田畑の損失補填をして欲しい」というような苦情や陳情を聴き、(なだ)める役目です。王が自ら対応するまでもありません」

 鍾繇(しょうよう)は、首を振る。


「そう?面倒を掛けて済まないね。ありがとう」


「その御言葉を頂けただけで十分でございます。では皆様、私はこれにて……」

 鍾繇(しょうよう)は、一同に礼をして退室した。


 その場には、私と潁川(えいせん)国府の軍団を統率する軍師の荀攸(じゅんゆう)、私専属の親衛隊長の関羽(かんう)、私付きの秘書の司馬徽(しばき)禹歩党(うほとう)の頭領の左慈(さじ)豫州(よしゅう)刺史(しし)王允(おういん)と彼の幕僚の孔融(こうゆう)荀爽(じゅんそう)右中郎将(ゆうちゅうろうしょう)皇甫嵩(こうほすう)が残る。

 この人達は、全員が私の配下や友好的な人達や友人だ。

 部外者の朱儁(しゅしゅん)がいなくなったので、この後は機密性が高い話も出来る。


 朱儁(しゅしゅん)と入れ替わりで、戯顓(ぎせん)項桓(こうかん)項鴛(こうえん)が入室して来た。


 戯顓(ぎせん)は、荀攸(じゅんゆう)付きの参謀で、元は私の食客だった。

 現代の人には、「戯志才(ぎしさい)」という(あざな)の方が有名だろう。


 項桓(こうかん)項鴛(こうえん)の兄弟は、関羽(かんう)配下の卒長(そつちょう)(百人隊長みたいなもの)で、元は陽翟(ようてき)の浮浪児だった。

 私が潁川(えいせん)王に(ほう)ぜられた直後、真っ先に着手した仕事が潁川(えいせん)中から孤児や捨子や浮浪児、それから大人の浮浪者を全員引き取って来て保護する事だったんだよ。


 大人達には家と仕事を与え、子供達は私の屋敷に引き取って養育した。

 だから、項桓(こうかん)達は、私の養子みたいなものだね。


 項桓(こうかん)達は、私を育ての母親か命の恩人とでも思っているらしく、異常に忠誠心が厚くて私を守る為なら喜んで命を投げ捨てようとするから、ちょっと困りものなんだよ。

 私は神で不死身だから、守られる必要なんかないのにさ。

 いつも私は、「命は大事に」って言い含めているんだけれど、保護された子供達(今は成人しているけれど)は誰も聞きゃあしないんだよ。


 (こう)兄弟の卒長(そつちょう)という階級は、100人の部隊を指揮する。

 漢代の軍の編成は、概して周代の軍制度を踏襲しているみたい。


 兵5人で()……指揮官は伍長(ごちょう)

 ()2個10人で(じゅう)……指揮官は什長(じゅうちょう)

 ()5個25人で(りょう)……指揮官は両司馬(りょうしば)

 (りょう)4個100人で(そつ)……指揮官は卒長(そつちょう)

 (そつ)5個500人で(りょ)……指揮官は旅長(りょちょう)

 (りょ)5個2500人で()……指揮官は師長(しちょう)

 ()5個12500で(ぐん)……指揮官は軍長(ぐんちょう)


 軍を統率する軍長(ぐんちょう)は必ずしも将軍ではない。

 漢代の将軍は大将軍(だいしょうぐん)驃騎(ひょうき)将軍・車騎(しゃき)将軍・(えい)将軍や、その他雑号(ざつごう)将軍など、それぞれ固有の役職名なので、これらの官職に就いていなければ原則として何人の兵を率いていても「将軍」とは呼ばれない。


 因みに、関羽(かんう)が率いる私の親衛隊は総勢500人だから、関羽(かんう)旅長(りょちょう)格だ。

 そして、(こう)兄弟のお兄ちゃんの項桓(こうかん)関羽(かんう)の副官という事になる。


 親衛隊は人数が少ないけれど、全員がケブラー繊維の防刃ベストの上に軽量高硬度のチタン合金製の全身板金(フルプレート・)甲冑(アーマー)を装備して、西域(さいいき)名産の汗血馬(アラブ馬)に乗っている重装騎兵だから精鋭だ。


 私の陣営は、騎兵なんか使わないのでは?


 ま、親衛隊は私の近接近衛として目立って示威(デモンストレーション)するのが仕事みたいな意味もあるし、実用より漢代の人達向けのアピール度を優先している。

 ガチの戦争になったら、私の陣営は騎兵なんか使わずに塹壕からM1ガーランド(のコピー)とブローニングM2重機関銃( )(のコピー)の斉射で薙ぎ払うけれどね。


元放(げんほう)陽翟(ようてき)(きょ)の様子は?」

 私は、私の陣営のスパイ組織である禹歩党(うほとう)の頭領である左慈(さじ)に訊ねた。


 左慈(さじ)禹歩党(うほとう)のメンバーは、毎日塔里木(たりむ)帝国と潁川(えいせん)の城市や(ゆう)や重要拠点、それから漢の各地で情報収集や偵察や内定捜査をしている。


「はっ。(きょ)は、少数の賊軍別働隊が偵察に現れた以外、今のところ大きな問題はありません。陽翟(ようてき)は、車や荷駄を()いた1万余りの賊軍が来襲し城外の田畑で略奪を働いています。但し、被害は菜物が中心で、稲や小麦は賊を討ち払った後に急いで田植え種蒔きをやり直せば、晩稲(おしね)には間に合うとの事。その他、城外の建物の幾つかに火を放たれているようです。しかし、民は陽翟(ようてき)城に避難を完了し門を堅く閉じており、人的被害は出ておりません」

 左慈(さじ)が報告した。


「人的被害がなければ、作物なんかあげちゃえば良いよ」


 漢の人達に、「戦事の文民に対する略奪を禁じたジュネーヴ条約」とか言っても通じないしね。

 それに、田畑を全て略奪されて今期の潁川(えいせん)の収穫が0になっても、塔里木(タリム)から食料を持って来れば誰も飢える事はない。


陽翟(ようてき)にも敵が現れたとすると、戦姫(せんき)様(麻姑(まこ))が、いつもの悪い癖を出して突撃して行かないか心配ですな」

 関羽(かんう)(ひげ)を撫でながら呟く。


雲長(うんちょう)麻姑(まこ)の手綱は麒麟(きりん)晶華(しょうか)女士が握っているから大丈夫……だと思うよ。難攻不落の陽翟(ようてき)は、籠城していれば安全だからね」


 麻姑(まこ)は、さっきの孔融(こうゆう)との話題で出た私の陣営最強の4人(私の種族は神だし、麻姑(まこ)達の種族は(せん)なので、人か如何(どう)かは疑わしいけれど……)の内の1人で、現在は陽翟(ようてき)に置いて来て留守番をさせている。

 あの脳筋の戦闘狂を前線(長社(ちょうしゃ))に出すと、戦いたがって色々と面倒だからね。


 私が統治する潁川(えいせん)の国府がある陽翟(ようてき)は、私が自重なしで現代知識と長年貯め込んだ神力を注ぎ込んで建造した堅牢な城壁と火器で守られている。

 塔里木(たりむ)帝国の工廠(こうしょう)で生産した火器を優先的に配備しているから、陽翟(ようてき)は砲門が多く、火力は長社(ちょうしゃ)より強大だ。

 完全なチート火力を擁する陽翟(ようてき)の城塞都市は、長射程の火砲や爆撃機が登場する20世紀になるまでは力攻めをしても絶対に落とせない。


 関羽(かんう)が指摘したように、陽翟(ようてき)に残して来た麻姑(まこ)が血気に(はや)って馬鹿をやらかさないか少し心配だけれど、事前に「今回の(いくさ)は、専守防衛に徹しろ」と口を酸っぱくして言い含めてある。

 流石に、あの麻姑(脳筋)も私の命令には従う……と思うよ。


 万が一何かあっても、麻姑(まこ)(ただ)(せん)ではなく、最高級の神の加護を受けた最上位の(せん)だから、滅多な事では死なない。

 今は、陽翟(ようてき)よりヤバい長社(こっち)の状況に集中しよう。


 現在数え15歳になって成人した麻姑(まこ)は、私の陣営で私に次ぐ2番目の強さを誇るバケモノに育ってしまった。

 豪傑の関羽(かんう)と立ち会って1撃KOする暴力の権化なんだよ。


 関羽(かんう)が「青龍(せいりゅう)偃月刀(えんげつとう)」で思い切り斬り込んで、麻姑(まこ)が「ただの鋼鉄の棒」で弾いたら、衝撃で関羽(かんう)の腕がボッキリ折れたからね。

 あの時は、関羽(かんう)の折れた骨が肉と皮膚を貫いて露出していたから、直ぐに私が治療してやらなけりゃ、出血多量とか感染症とかで関羽(かんう)がヤバかった……。


 子供の頃から麻姑(まこ)を鍛えて魔獣や妖魔の狩り方とかを教え込んだ犯人は私だけれど……ちょっとだけ育て方を間違えたかもしれない。


 (せん)の序列は下から、羽士(うし)仙人(せんにん)飛仙(ひせん)神仙(しんせん)、女性なら巫女(みこ)仙姑(せんこ)天女(てんにょ)神仙(しんせん)だ。

 この4段階の序列は、「地仙(ちせん)」(人間から昇仙(しょうせん)した(せん))と呼ばれる。


 左慈(さじ)が上から2番目の飛仙(ひせん)だ。

 私の陣営には、人間が到達可能な最上位の神仙(しんせん)も居る。


 それから、婉姈(えんれい)麻姑(まこ)嬋娟(せんけん)の3人は「天仙(てんせん)」という特殊な(せん)だ。

 天仙(てんせん)は、生まれながらの(せん)なので、人間が昇仙(しょうせん)した地仙(ちせん)とは、全く別系統という事になる。


 婉姈(えんれい)麻姑(まこ)嬋娟(せんけん)()人間なんだけれど、何故か天仙(てんせん)になってしまった。

 これには、大分ややこしい事情があるので説明は省く。


 そして、私は神。


 私の陣営で最強なのは、もちろん私。

 というか、私は不老不死で不死身なんだよ。

 物理的な方法では殺しても死なないらしい。


 何でか分からないけれど、私はこっちに転移した瞬間から神だった。

 応竜(おうりゅう)によると、三国志織(みくにしおり)の記憶を持つ私の自我は、神の存在に同化しているだけであって、本来この私の「容れ物」は神そのもの。


 説明を聞いても良く分からない。


 ま、兎に角やるべき事をやれば、私は現代(未来)の日本の三国志織(みくにしおり)として、無事に戻れるそうだ。

 その時は、こっちでの記憶は忘れるらしいけれど、その方が後腐れがないかもね。

 なまじ「後漢時代から戻って来た」なんて記憶があると、普通の生活に戻れなくなるかもしれないからさ。


 私は、四霊(しれい)と呼ばれる、応竜(おうりゅう)鳳凰(ほうおう)麒麟(きりん)霊亀(れいき)の最高位神獣を4柱全て使役している。

 そして、鳳凰(ほうおう)婉姈(えんれい)に、麒麟(きりん)麻姑(まこ)に、霊亀(れいき)嬋娟(せんけん)に与えた。

 あくまでも、四霊(しれい)(あるじ)は私だから、貸しているだけだけれどね。


 神獣とか瑞獣とか霊獣と呼ばれる不思議生物(生物なのか?)は、神である私と(せん)である婉姈(えんれい)左慈(さじ)達、それから神や不思議生物の加護を受けている人間には姿が見える。

 でも、普通の人間には見えない。


 人間をビビらす為に、応竜(おうりゅう)の姿を他人にも視認出来るようにする事はあるけれどね。


 あれは効く。


 私が、応竜(おうりゅう)(あるじ)だと知ると大概の人間は、私を畏怖して何でも言う事を聞いてくれるんだよ。

 私は、あまり目立ちたくないから、応竜(おうりゅう)を顕現させるのは、よっぽどの場合だけれどね。


 麒麟(きりん)は、麻姑(まこ)の相談役であり、馬の代わりだ。

 麒麟(きりん)は賢いし、足が速いし、空も飛べるから役に立つんだよ。


 神の私は、麒麟(きりん)より足が速くて自力で飛べるから、基本的に乗り物は必要ない。

 私付きの四霊(しれい)の1柱である応竜(おうりゅう)は、鱗が硬くて乗り心地が悪いし、飛ぶ時に体をくねらせるから乗り(にく)いからね。


 四霊(しれい)達は、「最高位の神獣である我々を、下賤な畜生に過ぎない馬のような移動手段にするなんて……」と愚痴っているけれど、便利なものを使わないのはリソースの無駄使いだよ。


 左慈(さじ)にも饕餮(とうてつ)と云う妖魔が憑いている。

 ただし、饕餮(とうてつ)は、四霊(しれい)と敵対する側の「四凶(しきょう)」と呼ばれる本来は邪悪な不思議生物(たぶん生物じゃないよね?)だ。

 私が饕餮(とうてつ)をぶっ飛ばして、依代にしている左慈(さじ)ごと調伏した訳。

 以来、饕餮(とうてつ) は私の下僕(しもべ)になり、左慈(さじ)は私に絶対服従を誓う(しのび)になった。


 私のやるべき事の1つが、この邪悪な魔獣や妖魔や怪異を駆逐する事なんだよ。

 邪悪な魔獣や妖魔や怪異は、見付けたら取り敢えずシメておけば問題ない。


 因みに、晶華(しょうか)女士というのは、私の陣営の商業活動を一手に取り仕切る政商楊文明(ようぶんめい)商会の会頭である楊璞(ようはく)楊文明(ようぶんめい))の奥方だ。

 晶華(しょうか)(あざな)で、姓と(いみな)徐昌(じょしょう)という。


 この晶華(しょうか)さんは(せん)ではなく()()()()()の筈なんだけれど、私が脳内で「さん」付けで呼ぶくらいヤバい人なんだよ。


 神でも(せん)でもない一般カテゴリーなら、晶華(しょうか)さんが人類最強かもしれない。

 私は、余り「男性だから……」とか「女性だから……」という(くく)りで話したくないんだけれど、晶華(しょうか)さんは一見華奢な女性なのに関羽(かんう)に何もさせず倒す剣の達人だ。


撃剣(げきけん)」と云う暗殺剣らしい。


 身体能力に頼って愛用の鋼鉄の棒を力任せに振り回すしか脳がなかった婉姈(えんれい)に、曲がりなりにも剣術と呼べる技術を教えているのも晶華(しょうか)さんだ。

 晶華(しょうか)さんは、関羽(かんう)の腕を簡単に破壊した麻姑(まこ)の渾身の1撃ですら、涼しい顔で()なしてみせるからね。

 あれが格闘ゲームとかにある「受け流し(パリイ)」なのかもしれない。


 いつも剣術の指導で、膂力(パワー)がティラノサウルス級の麻姑(まこ)と普通に打ち合っ(スパーリングし)ている晶華(しょうか)さんを見ていると「普通って一体何だろう?」と思うよ。


 晶華(しょうか)さんが調()()()として手綱を握っていてくれるから、私は怪獣みたいな麻姑(まこ)陽翟(ようてき)の留守番に置いて来る事が出来た。


 そして晶華(しょうか)さんの甥っ子(弟の子供)が、あの劉備(りゅうび)の最初の軍師とも云われる徐福(じょふく)徐庶(じょしょ))なんだよ。

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・・・


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