第32話。麒麟(きりん)と獬豸(かいち)。
名前…亜爾班
生年…149年
性別…男性
属性…宰相
統率…C
知性…B
行政…A
軍事…C
霾沐の家宰で、赫斯塔の夫。
*元于闐の孤児で、霾沐と兄弟同然に養育された。
私は、ムカつく応竜を帰還させて、代わりに麒麟を召喚した。
今後は、麒麟が私の助言者となる。
『麒麟。私は、色々と分からない事がある。私が質問したら正確に教えて欲しい。それから、麒麟から見て私が何か重要な事に気付いていない、あるいは見落としていると思ったら、その時も直ぐに教えて欲しい。報連相は必須だよ』
私は、麒麟にお願いした。
『畏まりました』
麒麟は、了解する。
応竜は、重要な説明を端折ったり、意図的か如何かは分からないけれど全く説明しない事もあったからね。
麒麟は、「私(三国志織)に絶対服従して、誠心誠意仕える」と盟約しているから素直で良い。
応竜は、いちいち嫌味っぽいから普通に話しているだけで辟易する。
応竜とも最初に「私(三国志織)に絶対服従して、誠心誠意仕える」と盟約しておけば良かったけれど、今更という話だ。
取り返しが付かない事でない限り、何か問題があれば、その都度改善をすれば良いんだよ。
『早速だけれど、伐来に加護を与える眷属を選ぶ必要がある。どの神獣が良いかな?』
『主上が召喚可能な眷属の中で能力的に最高なのは、我ら四霊でございますが、そもそも伐来に主上直卒の神獣を御与えになるのが適切か如何かという問題は、一考の余地がございます』
『如何いう事?』
『既に御承知の通り、主上直卒の従属神や神獣は、いずれも強大な力を持ちますが、数が限られております。従って、誰に従属神や神獣の加護を与えるか吟味が必要です。吟味の結果、従属神や神獣の加護を与えるのは不相応だと判断される場合もあるでしょう。仮に伐来に従属神や神獣の加護は相応しくないとしても、何らかの加護は与えたいと考えるなら、従属神や神獣より一段低い位階である瑞獣(上位)の加護を御与えになれば宜しいのです』
『順を追って1つずつ確認したい。私の従属神の三皇や九神てのは、私のステータス画面では召喚は出来ないようになっているんだけれど、加護は与えられるって事なんだよね?』
応竜は、以前「三皇は釈羅の器を現世に顕現させて、私(三国志織)の自我と記憶を釈羅の器に宿らせる為に力を使ったから召喚出来ないが、三皇の加護を人間に与える事は出来る」と言っていた。
九神について応竜は何も説明しなかったけれど、三皇と同様に九神も召喚は出来ず加護を与える事だけ出来るのかもしれない。
『はい。主上の従属神は召喚出来ませんが、従属神の加護を人間に与える事は出来ます』
やっぱりそうか。
応竜は、説明不足だったか、あるいは意図的に情報を隠蔽していたんだね。
『分かった。その上で麒麟は、伐来に与える加護は、従属神や神獣じゃなくても良いと考えているんだね?』
『仰る通りです』
『一段低い瑞獣ってのは、麒麟や応竜みたいな四霊じゃなくて、私の眷属リストにある四瑞や四神て事?』
『いいえ。四瑞や四神も神獣ですので、その下の上位眷属という意味です』
『上位眷属って、私の眷属リストには名前がないんだけれど、如何やって召喚したら良いの?』
『現在、主上に直接御仕えしている眷属は全て天位の従属神と神獣ですので、現時点で主上は上位眷属は召喚出来ません。上位眷属は、我のような主上直卒の神獣を介して間接的に召喚する事が可能です。また、今後主上が中立の霊獣や、混沌勢力の魔獣などを滅殺せず調伏すれば、新たに眷属を増やし、仙や人間を宿主に指定する事も可能です』
『なるほど』
麒麟は盟約の効果もあって、きちんと必要な情報を説明してくれるからありがたい。
応竜は、麒麟の爪の垢でも飲めば良いんだよ。
『我に神力を分配して下されば、我の眷属を伐来に与えられますが、如何致しますか?我の眷属は、上位の瑞獣9柱です。主上なら、我を鑑定すれば我の眷属一覧を見られる筈ですが……』
え〜っと、どれどれ。
おっ、リストが出たね。
麒麟の眷属は……。
聳孤。
炎駒。
索冥。
甪端。
貔貅。
封豨。
犼吼。
天馬。
狛狗。
諦聴
䍺。
名前の一覧だけでは、違いが良く分からないね。
『ステータスの違いとかはあるの?』
『それぞれ個体差はありますが、加護を御与えになる場合は位階が同じなら宿主の人間への影響に大差はありません』
『つまり、伐来に天位の従属神や神獣の加護を与えるか、麒麟の眷属である上位の瑞獣の加護を与えるかという選択なんだね?基準とかが分からないから、何とも判断のしようがないね』
『我の眷属は上位の瑞獣ですので、上位の魔獣や妖魔や怪異が1個体なら、十分に対抗可能な加護です。災厄級の混沌勢力が相手となると抗しきれませんが、災厄級など滅多に現れませんので人間に与える加護としては問題ないと思います』
『天位の従属神や神獣なら、災厄級の混沌勢力とも対抗出来るの?』
『同位階で1対1の戦いなら神の眷属の方が優位です』
『ま、何か問題があれば、後から伐来に加護を与える眷属を変更しちゃえば良いのか?』
『一度人間に与えた眷属の加護は、宿主の仙や人間が死ぬまで変更出来ません。従って、加護を与える場合は慎重に考える必要があります』
『加護って一生もんなの?』
『はい。人間は寿命が尽きるまで、仙は転生に成功すれば永久に加護を変更出来ません』
『あっそう』
『誰の加護を与えるのかは、主上が伐来を、どの程度重要視しているかによります。この先、主上の目的の為に伐来が重要だと御考えなら、天位の従属神や神獣の加護を御与えになれば宜しいですし、伐来の重要性がそれ程でもなければ上位の瑞獣の加護で事足ります』
『現段階では、将来的な伐来の重要性なんか分かりっこないよ』
『我の意見を申し上げても宜しいでしょうか?』
『うん』
『我は、伐来には瑞獣の加護で十分だと思います。応竜は、おそらく伐来に天位の神獣の加護を与えたいと考えていたのでしょう。応竜は武断を好むので、武人の伐来を高く評価していると思われます。しかし、我や鳳凰や霊亀は、どちらかと言えば文治を好みます。従って、我は伐来に神獣の加護を与えるのは、やや過分ではないかと思います。我なら、例えば楊璞(楊文明)の方が伐来より庇護する価値があると思います』
『そう言えば、応竜は、私が知っている直近の世界線で楚漢戦争の時に項籍(字は項羽)に味方したと言っていたけれど、それも応竜が武断派好きだから?』
私の個人的な見解では、項籍(項羽)って中国史上最強の武将で、スーパー脳筋だからね。
『仰る通りです。直近の世界線で、三皇の伏羲と四霊の応竜は、項籍(項羽)に加護を与えました。三皇の女媧と神農、四霊の我と鳳凰と霊亀は、劉邦陣営に味方したのです。より厳密に言えば、劉邦陣営の張良や蕭何に加護を与えました。その他の神の陣営も、各々項籍(項羽)陣営と劉邦陣営に分かれて楚漢戦争を戦いましたが、結果的に、より多くの神の眷属が劉邦陣営に味方したので、直近の世界線における楚漢戦争は劉邦陣営が勝利しました』
神の眷属と混沌勢力との対立構図以外にも、神の眷属同士で対立する場合もあるのがややこしい。
神の眷属同士で内輪揉めなんかしているから、世界が滅んだんじゃないの?
『応竜は、項籍(項羽)に楚漢戦争を勝たせれば、私が知っている直近の世界線は世界が滅びなかったとか言っていたけれど?』
『負け惜しみですね。仮に項籍(項羽)を楚漢戦争で勝たせれば世界の滅亡を防げたとするなら、主上(釈羅)は、楚漢戦争の時点から今回の世界線をやり直した筈です。しかし、実際は、後漢末からやり直しました。つまり、主上(釈羅)は、項籍(項羽)を楚漢戦争に勝たせても世界の滅亡は防げないと判断したという事です。応竜は、間違っています』
『話は変わるけれど、私が新国家を樹立したら、新国家の国民全員に加護を与えれば国力が上がるよね?』
『理屈としてはそうですが、現在主上が召喚可能な眷属は我を含めて12柱しかいませんし、人間に加護を与えられる従属神や、我らの眷属も数が限られています。従って、主上が庇護する国の民全員に加護を与えるには、眷属の数が足りません。また、主上や我ら神の眷属から加護を得た人間が、主上が望む行動をする保証もありません。伐来は比較的善良な性質の人間で、主上に心からの忠誠を誓っているので問題ありませんが、悪意を持ち主上に仇為す人間に加護を与えれば、当然ながら災いの種となります』
『あ、でもさ、私が中立の霊獣とか、混沌の勢力の魔獣とかを滅殺しないで調伏しちゃえば眷属の数は際限なく増やせるよね?混沌の勢力は無限湧きするから、無限に調伏すれば良い』
『神の眷属でも混沌の勢力でもない中立の霊獣は、余り数が多くありません。また、混沌の勢力の魔獣や妖魔や怪異などは、主上や我ら神獣や仙のように位階で上回る神の眷属には無害ですが、脆弱な人間達には有害です。例えば、疫鬼を人間に宿らせれば、亜爾班のように病気になって死にますし、他の混沌の勢力でも精神を蝕まれて発狂したり、悪意に取り憑かれて暴虐を働く事もあります。基本的に、人間に混沌の勢力を宿らせる事は危険です』
『そっか〜。良いアイデアだと思ったんだけれどな〜』
『眷属の運用は、また後で御考え頂くとして、取り敢えず、伐来に与える眷属を決定してしまいましょう』
『それが難しいから悩んでいるんだよ』
『何も悩む必要などありません。応竜も説明していましたが、主上が御決めになった事は、それ即ち天意でございます。この世界では天意を得る者は、必ず天運に恵まれます』
釈羅が世界を救う役割を私(三国志織の自我)に委ねた理由は、私(三国志織)の人格や見識や価値観や行動原理を釈羅が詳細に分析した結果、私(三国志織)が世界を救う可能性が最も高いと釈羅が判断した結果らしい。
つまり、私が好きなように判断や行動をすれば、それは釈羅の判断や行動と同義であり、仮に私が失敗しても、その失敗すら世界を救う為のプロセスかもしれないのだとか。
「そんな馬鹿な」と思うけれど、仮にそれが本当なら、私は余り深く考えずに勘とか思い付きで適当に行動選択をしても良いという事だよね。
良し決めた。
女は度胸だよ。
『麒麟。伐来には、私直卒の天位の眷属を与える。伐来は、私がこちらに転移させられて初めて邂逅して会話を交わした現地住民だから、記念として高い位階の加護を与えようと思う』
『それが主上の御判断なら、そう致しましょう』
『選択肢は、三皇か九神か四霊か四瑞か四神か……』
【三皇】
(伏羲)
(女媧)
(神農)
【九神】
(句芒)…木を司る。
(祝融)…火を司る。
(蓐収)…金属を司る。
(玄冥)…水を司る。
(后土)…土を司る。
(羲和)…日陽を司る。
(冥鬼)…月陰を司る。
(風伯)…風を司る。
(雷公)…雷を司る。
【四霊】
応竜
麒麟
鳳凰
霊亀
【四瑞】
黄竜
獬豸
鸞
(九尾狐狸)
【四神】
青竜
白虎
朱雀
玄武
(括弧)付きは召喚不可。
『思念を飛ばして伐来と意思疎通を行うなら神獣を召喚する必要があります。三皇と九神は加護を与えるだけで召喚は出来ませんので、眷属を介して主上と宿主の人間が意思疎通出来ません』
麒麟が言った。
『あ、そうだったね。なら、四霊か四瑞か四神だね。四瑞の九尾狐狸が召喚出来ないのは何で?』
『九尾狐狸は、既に召喚された状態なのです』
『そうなんだ。九尾狐狸と思念で話せる?』
『話せます』
『なら後で九尾狐狸と話してみよう。で、伐来に加護を与える眷属だけれど、麒麟は誰が良いと思う?』
『神獣は皆強力な加護を与えられますので誰でも良いとも言えますが……敢えて選ぶとするなら、伐来の実直で誠実な性質と相性が良さそうなのは、正義を司る獬豸でしょうか?』
『ほうほう、なるほど。相性は大事だよ。私は短気だから、応竜の嫌味っぽい性質と相性が悪かったからね。なら、獬豸にしよう』
私は、獬豸の名前をポチる。
すると、エフェクトなしで獬豸が召喚された。
獬豸は、モコモコの毛をした羊に似た姿をしていて、ユニコーンみたいな1本角が額から生えている。
『全力を以って主上の御役に立ちます』
獬豸は、恭しく頭を下げる。
『三国志織だよ。宜しくね』
『獬豸。三国志織様に絶対の忠誠を誓い、誠心誠意御使え申し上げると盟約しなさい』
麒麟が獬豸に言った。
『畏まりました。三国志織様に絶対の忠誠を誓い、誠心誠意御使え致します』
獬豸は、言う。
獬豸との盟約が追加された。
私が推測した通り、同じ神獣同士でも四霊の麒麟の方が、四瑞の獬豸より偉いらしい。
たぶん、三皇は九神より、四瑞は四神より偉いんだろうね。
『獬豸。早速だけれど、伐来に加護を与えて欲しい』
『畏まりました』
獬豸は、荷造りをしている伐来達の方向に駆けて行く。
『主上。伐来に宿りました』
獬豸が思念で伝えて来た。
『もう獬豸は、伐来と意思疎通が出来るの?』
私は、思念で訊ねる。
『出来ます』
『なら、伐来に獬豸が宿って加護を与える事になった経緯とかを過不足なく説明しといて』
私から説明するのは、面倒だからね。
『畏まりました』
伐来の加護については、これで良し。
お読み頂き、ありがとうございます。
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【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
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何卒よろしくお願い申し上げます。
 




