第31話。相談役交代。
名前…赫斯塔
生年…151年
性別…女性
属性…管家
統率…C
知性…B
行政…C
軍事…C
塔洛斯の妹で、亜爾班の妻。
*元于闐の孤児で、霾沐と兄弟同然に養育された。
朝食後。
伐来と焚達は、于闐に出発する準備を始めた。
私は、預かっていた伐来や焚達の荷物をストレージから取り出して、伐来や焚達は、それを私が作ったバリスティック・ナイロン(のコピー)製のバック・パックに詰めている。
『主上。神力が残っている内に眷属を召喚しましょう。のんびり構えていると、また主上は、他の目的に神力を浪費してしまうのが目に見えています』
応竜が嫌味を言った。
『私だって事前に仕様を説明してもらっていたら無駄使いなんかしなかったよ。それに、神力を使って色々と実験をして、そのフィード・バックを活かしているんだから浪費じゃない』
私は、反論する。
『目の前に死にそうな重病人がいても、治療で神力を使用しないと断言出来ますか?もしも、死に瀕しているのが親交を結んだ既知の相手や、無垢な子供だったら?』
『それは……』
確かに、目の前に死に掛けている知り合いや幼い子供が居て、私に神力が残っていれば「回復(天位)」で治療しちゃうかもしれない。
『主上は、既に亜爾班を貴重な神力を使って治療しました。しかし、病原の疫鬼を排除したのですから亜爾班は放置しても自然に回復したのではありませんか?』
『疫鬼を排除した後も亜爾班は衰弱が激しかった。だから私は、亜爾班には回復が必要だと判断した。応竜は、亜爾班を治療した私の行動選択が間違いだったと言いたいの?疫鬼を倒して神力が10単位稼げれば、疫鬼に取り憑かれていた人間なんか死んでも構わないって事?』
『そうではありません。主上は、誰に対しても慈悲深い御方ですから全ての人間を救いたい御気持ちは理解出来ます。しかし、この南緑洲には、亜爾班以外にも重病人が複数います。仮に主上が神力を用いて人間を救いたいと御考えならば、最終的な意思決定は主上がなさるべきで、我は主上の御意志に全面的に従います。但し、世界を救う目的における優先順位を申し上げるなら、今は主上の目的を補佐する眷属の召喚が最優先事項です。従って、ここは心を鬼にして頂かなければなりません。今は、亜爾班の体調より、眷属の召喚が優先です。世界文明が滅べば、数十億の単位で人間が死ぬ事を考慮なさって下さい。神力を必要とする治療活動は、主上が庇護領域を持ち神力の徴収が安定して行える体制が整ってからに致しましょう』
『分かったよ。なら、伐来達を見送ったら、早速眷属を召喚してみよう』
『伐来が居る内に召喚を行いましょう。取り敢えず、現時点では神力9単位の割り振りとして、神獣8柱を召喚し神力1単位を温存すれば宜しいかと思います』
応竜は、「私がやりたいようにやって良い」とか言いながら、事実上の結論を指定しているよね。
ま、別に良いけれどさ。
『伐来が居る内に召喚を行う理由があるの?』
『主上と我が現在行っているように、主上と神の眷属、あるいは神の眷属同士は、相互に思念のやり取りが行えます。思念は距離を無視して行えるので、主上の眷属の宿主を伐来に指定すれば、遠隔地に離れていても主上は眷属を介して伐来と連絡を取り合えます。また、主上の眷属は強力な神獣ですので、神獣に伐来を守らせれば疫鬼のような人間に禍いをもたらす混沌の勢力から伐来やその周囲にいる味方陣営を守れます。そして、神の眷属の宿主となった人間は加護によって基本能力が向上し寿命が伸びるので、生存性が高まります。基本的に主上にとって必要な人間は、神獣や瑞獣や霊獣による加護を与えて庇護しておくと宜しいでしょう』
『ほうほう。そんな仕様があるのか。なら、私も現在応竜から何かしらの加護を受けているって事?』
『我も人間に強力な加護を与えられますが、元来主上の方が我よりも圧倒的に強大な力を持ち、そもそも主上は加護を与える側で受ける側ではありませんので、我の加護など主上にとっては何の意味もありません。この事は、以前に一度御説明した筈ですが?もう御忘れですか?』
応竜が、また嫌味っぽく言った。
『私の力が強大だから加護の意味がないって話は、三皇の加護についてされた説明だよね?あの説明の時には、応竜とか神獣の加護については何も言及されていなかった筈だけれど?』
『……ああ、そうでしたな。我ら神獣の加護も、三皇の加護と同じで、主上にとっては意味がありません』
『なら、謝ってくんない』
『はい?』
『応竜の記憶違いだったのに、私の物忘れだと決め付けて嫌味を言って不愉快な気持ちにしたんだから謝ってよ』
『我は、主上(釈羅)より、志織さんの相談役として御側に御仕え申し上げ助言するよう命じられました。これが我の役割なのです』
『そんな事は訊いていない。私が間違ったなら幾らでも間違いを訂正してくれれば良いよ。でも、今回は応竜が間違ったのに、私が悪いような言われ方だったよね?不愉快で気に入らないから謝ってよ』
『そのような意図は毛頭ごさいませんでしたが、主上の御気分を害したのなら謝ります。申し訳ありませんでした』
『応竜。それは、ちっとも謝った事にはなっていないよ。その言い方だと、自分は全く悪くないけれど私の機嫌が悪くなったから、この場をやり過ごす為に形だけ一応謝っておくという意味に聞こえる。間違ったのは私じゃなくて、応竜だよね?私には何ら責任がないのに、応竜の記憶違いが原因で、本来なら言われる必要がない嫌味を言われて不愉快な気分にさせられたんだから、応竜が謝るべきじゃないの?』
『ふっ。謝り方の問題ですか?では、どのように謝れば宜しいのですか?御教示頂ければ、その通りに致しますよ』
応竜は、鼻で笑って開き直る。
プチッ。
『分かった。応竜が、そういう了見なら、私にも考えがある』
『ほう、なるほど。主上の御考えとやらを、喜んで御伺い致しましょう』
『応竜、ご苦労様。今までありがとう。応竜を私の相談役から解任する』
『そうですか。別に構いませんが、我の助けがなければ、主上は困りますよ?主上に宿っている三国志織という人間の自我は知性が低く愚かなのですから』
ブチブチッ!
『ほ〜う、それがお前の本性なんだな?良く分かったよ。このボロカス、一度吐いた言葉は飲み込めね〜ぞ!」
ムンズッ!
私は、応竜の尻尾を捕まえた。
『しゅ、主上?何をなさるつもりですか?』
『ぶっ潰す』
ビターーンッ!
私は、応竜の尻尾を持って振り回し、遠心力を利かせて応竜の頭を地面に叩き付ける。
『ぐはっ!お、お待ち下さい。我に至らぬ点があるなら、そう仰って下さい。直ぐに改めますので……』
応竜は、急に焦った声を出し始めた。
もう遅〜んだよ。
ビターーンッ!
ビターーンッ!
「ぐぎゃっ!お、お待ちを……へぶっ!」
日本人は、温厚で謙虚で勤勉で真面目で誠実で正直で律儀で従順で、思いやりと協調性があり、義理人情や節度や礼儀を重んじて、時間や約束を守り、我慢強く潔く、几帳面で丁寧で、嘘を吐かず裏切らず争いを好まず、他者や公に迷惑を掛ける事を忌避し、真善美を好む。
もちろん、個人差はあるけれどね。
日本人は、不躾で失礼で非友好的な相手に対しても上記の性質を以って接するけれど、我慢強い日本人にも「堪忍袋の緒」というものはある。
日本人が怒らないからって、調子に乗って舐めた態度を繰り返している奴らは、日本人が我慢の限界を超えた時に酷い事になると覚悟しておいた方が良い。
ビターーンッ!
ビターーンッ!
「ぐあっ!お、お許し下さい。我が悪かったです。ゆるじで……ぎゃぼっ!」
ピクピクピク……。
応竜は、地面に伸びて泡を吹き白目を剥いて痙攣している。
このくらいで勘弁してやるか。
基本的に神獣は不死身だ。
私(釈羅)の眷属になっている応竜は死んでも、私が神力コストを支払って再度召喚すればHP満タンで復活する。
『応竜の召喚を解除する』
私は、命じた。
『しゅ、主じ……』
マップから応竜の光点が消える。
さてと、これでムカつく奴は居なくなった。
あ〜、清々したね。
応竜は、突然異世界転移させられて右も左も分からない私に色々な設定や仕様を教えてくれて役に立ったけれど、そもそも私は望んでもいないのに強制的に連れて来られた。
応竜から嫌味を言われたり、あまつさえ侮辱される筋合いはないんだよ。
それに、今の私には神力が9単位あるから、応竜以外の「嫌味を言わない」眷属を召喚出来る。
もはや私は、応竜の嫌味に我慢して付き合う必要はない。
人間社会なら、嫌な相手とはなるべく会わないようにするとか対処法があるけれど、応竜からの思念通信は距離を無視して私の頭の中に直接届くから、私が耳を塞いでも応竜から離れても避ける事が出来ず、強制的に嫌味を聴かされる。
応竜を最初に召喚した時に消費した神力1単位は無駄になったけれど、この先ずっと応竜から不愉快な嫌味を言われ続けなくちゃならないなら、私の精神衛生上良くないからね。
眷属の召喚は、私の意思で行われる仕様だ。
だから、召喚の解除も私の権限で行える。
嫌味屋で、自分の間違いすら私の所為にする奴なんか、二度と召喚するもんか。
ふざけんじゃないよ。
え〜っと、召喚する眷属は選べないのかな?
「召喚(天位)」の項目をスライドしたら、選択肢が表示された。
ふむふむ、どれどれ。
・・・
【三皇】
(伏羲)
(女媧)
(神農)
【九神】
(羲和)…日陽を司る。
(冥鬼)…月陰を司る。
(句芒)…木を司る。
(祝融)…火を司る。
(蓐収)…金属を司る。
(玄冥)…水を司る。
(后土)…土を司る。
(風伯)…風を司る。
(雷公)…雷を司る。
【四霊】
応竜
麒麟
鳳凰
霊亀
【四瑞】
黄竜
獬豸
鸞
(九尾狐狸)
【四神】
青竜
白虎
朱雀
玄武
・・・
なるほど。
三皇と九神ってのは、私(釈羅)の従属神みたいだ。
序列的には、三皇が上位という感じなのだろう。
でも、クリックしても召喚出来ないね。
三皇と九神の名前は、(括弧)付きで名前の表示も暗くなっている。
応竜から「三皇は、釈羅の器を現世に権限させて、私の自我と記憶を釈羅の器に宿らせる為に力を使ったから召喚出来ない」と説明されたけれど、九神については何も聞かされていない。
応竜は、説明不足な癖に嫌味を言いやがるから性質が悪いんだよ。
ま、もう二度と会う事もないだろうから全く問題ないけれどね。
従属神を召喚出来ないなら致し方ない。
他の選択肢は……。
【四霊】
応竜
麒麟
鳳凰
霊亀
【四瑞】
黄竜
獬豸
鸞
(九尾狐狸)
【四神】
青竜
白虎
朱雀
玄武
こっちの12柱は神獣だ。
神獣は、名前の表示が明るいね。
「召喚可能」という意味なんだろう。
いや、九尾狐狸は(括弧)付きで表示が暗い。
九尾狐狸だけは、召喚出来ないみたいだ。
従属神も神獣も、それぞれ位階が高い順に並べてあるみたいだから、上から四霊、四瑞、四神という序列なんだろう。
最上位の四霊の中でも応竜は筆頭に位置している。
応竜は、「我こそは、最高位の神獣なり」って自慢していたからね。
ムカつく応竜はスキップして、次の麒麟てのを取り敢えず召喚してみよう。
分からない事は、麒麟に説明させれば良い。
私は、麒麟の名前をポチる。
すると、麒麟が召喚された。
別に特別な召喚エフェクトとかはない。
応竜を召喚した時もヌルッと召喚されたから、しばらく気が付かなかったしね。
麒麟は、某ビール会社のキャラクターにそっくりだった。
いや、某ビール会社のキャラクターの方が、今私の目の前にいる本物の麒麟に似せてデザインしてあるんだろう。
『主上。お久しぶりでございます』
召喚された麒麟が恭しく頭を下げた。
『三国志織だよ。宜しくね。で、応竜の奴が如何なったか知っている?』
『はい。我ら主上の眷属は、主上の器の中に居る時も、主上の感覚と同期して現世の様子を詳かに見聞きしておりますので……』
『なら、応竜が如何して帰還させられたかは分かるね?』
『分かります。応竜は、確かに三皇にも匹敵する最高位の神獣でございますが、その事を日頃から鼻に掛けて些か驕傲(驕り高ぶる事)でございました。あれは、我ら同輩の眷属に対しての態度ならばまだしも、至高の最高神たる主上に対する態度ではありません。余りにも不遜で非礼で不敬でございました。応竜の態度は叱責されて当然。自業自得で擁護のしようはありません。応竜は、一度主上に性根を叩き直されて良かったのです』
『麒麟。私は、別に態度とかは如何でも良い。応竜の嫌味にも我慢していた。でも、筋が通らない事は許せない。応竜は、自分が間違えた癖に、私の所為にした。ま、あれも単に応竜の記憶違いだったんだから、記憶違いだと分かった時点で直ぐに間違いを認めて真摯に謝ってくれれば、別に何ともなかった。でも、応竜は、私に記憶違いを指摘されて開き直って、私(三国志織)を知性が低く愚かだって侮辱した。私は、この一連の経緯に物凄く怒っている。麒麟、お前も私(三国志織)に対して、応竜と同じように考えているのか?』
『滅相もない事でございます。我は、釈羅様と三国志織様を完全に同一の存在だと心の底から信じております。主上に対する忠誠に一部の疑いもありません』
『なら、三国志織に絶対服従して、誠心誠意仕えると約束して』
『畏まりました。我は三国志織様に絶対服従して、誠心誠意御仕え申し上げます』
麒麟との「盟約(天位)」が追加される。
『良し。今を以って麒麟を応竜に代わって私の相談役とする』
『ははっ。ありがたき幸せ』
こうして私の助言者の役割は、応竜から麒麟に引き継がれた。
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・・・
【お願い】
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心より感謝申し上げます。
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