第17話。出でよ、召喚獣。
本日3話目の投稿です。
先者メモ。
天山南路。
タリム盆地の北縁を東西に結ぶ交易路。
敦煌→哈密(クルム)→高昌(トルファン)→渠犁(コルラ)→輪台(ブグル)→亀茲(クチャ)→姑墨(アクス)→疏勒(カシュガル)
*一部砂漠を横切って、敦煌→楼蘭→砂漠→渠犁(コルラ)に抜けるルートもあります。
夕食の時間が終わって、私は宿泊施設の石英ガラス・ハウスに向かう。
明日は日の出前に起床して出発するそうだ。
星空が綺麗だね〜。
天の川がクッキリ見えるよ。
夕食は、乾燥納豆以外にマトモなものを食べていないけれど、別に空腹という訳ではない。
もしかすると、これも何らかの加護の影響かもしれないね。
「よっこらしょ」
ガコンッ!
私は、鋼鉄板扉を嵌めて石英ガラス・ハウスの入口を封鎖した。
これで良し。
伐来達は、私を女神だと信じているから襲われたりしないだろうし、見張りもいるから何かあれば起こしてくれるかもしれないけれど、一応念の為だ。
寝室が出入り自由だと落ち着いて眠れない。
さてと、まだ眠くないからストレージ内生成で何か作ろうかな?
ん?
何気なくステータス画面を見たら、何か良く分からないマークがある事に気が付いた。
召喚(天位)「!」
「!」って何?
こんなの最初からあったっけ?
召喚?
あ〜、何やかんやあって、召喚だけは検証していなかったんだ。
ポ〇モン的な何かが召喚出来るのかな?
私は、トゲ〇ーをゲットしたいね。
私は、「!」のマークをポチッてみる。
あ……何かの時の為に1単位だけ残しておいた神力が0になった。
特に何も起きないね……。
なら、神力を返して……って、戻らない。
神力は、0になったままだ。
「はっ?何も起きないのに神力だけ吸われた?外れガチャ?いやいや、それは狡いだろ。おい、運営、私の神力を返せよ!」
私は、居るか如何か分からない運営にクレームを言う。
「志織様。何かありましたか?」
石英ガラス・ハウスの外から伐来の声が聞こえた。
私の大きな声が聞こえたから、心配して様子を伺いに来てくれたらしい。
「あ、いや、大丈夫。問題ないよ。おやすみ」
「そうですか。おやすみなさい」
マップを見ると、伐来が焚火の方向に遠ざかって行く。
くそっ!
なけなしの神力が吸われちゃったよ。
あ〜あ、損した。
仕方がない、何か作るか。
石油化学繊維は自由に生成出来るから、キャップとかを作ろうかな……。
砂漠は結構日差しが強いからね。
日焼け対策だ。
『主上……』
いや、砂漠は地面からの照り返しもキツいから、帽子くらいじゃ日焼け防止にはならないかな?
ま、ないよりマシだろう。
『主上。偉大なる我が主神……」
キャップが出来た。
被ってみる。
サイズが微妙に大きいけれど、誤差の範囲内だね。
キャップより、ブーニー・ハット(熱帯気候やジャングルでの使用を想定した鍔広の帽子)の方が良いかな。
ま、石油は幾らでもあるから、一応作っておくか……。
88式鉄帽(自衛隊正式ヘルメット)は……流石に要らないね。
『あの〜っ、主上っ!』
「何だよ、さっきから煩いねっ!誰だよ!……って、私の事を呼んでんの?」
『あ、はい。主上』
誰だか分からない声の主が、石英ガラス・ハウスの外から声を掛けて来た。
ガコンッ……。
私は、鋼鉄扉を外して外に出る。
左右を見回しても、誰もいない。
マップ……はっ?
何だこれ?
マップには、青い光点が私に重なるように表示されていた。
つまり、私の上に巨大な何かが浮かんでいる。
私は、夜空を見上げた。
「ぎゃーーっ!」
そこには、馬鹿デカい生き物がいる。
ドラゴン?
いや、長いから東洋竜だ。
『主上』
竜が言う。
竜は、口を動かさずに頭の中に直接話し掛けて来る。
「だ、誰だ?ってか、何だ、お前?魔獣か?あ、討伐すれば、翼狼の時みたいにボーナスで神力を稼げるのか?」
私は、拳を握ってガードを固めた。
翼狼と同じような、敵キャラかもしれない。
「お、御待ちを!我は魔獣ではありません。神獣です。御味方です。というか、貴方様の眷属の応竜でごさいます。如何か、その猛々しい殺気を御鎮め下さい」
竜は、焦ったように言う。
「眷属?」
鑑定すると、神獣の応竜のステータスが表示された。
「三国志織の眷属」とシッカリ書いてあるね。
「はい。貴方様は、記憶を失われていらっしゃるので、我の事を御忘れなのです。我は、貴方様の忠実にして有能な下僕でございます」
応竜は、言う。
応竜、「有能」って自分で言いやがった。
「いや。記憶なんか失っていないよ。私は、三国志織。完璧に覚えているし」
「はい。三国志織なる人間の自我と記憶を、主上の神の器に宿らせて、その結果、主上の自我と記憶は眠ったような状態になっているのです。しかし、記憶が如何であれ主上が我が主神である事は間違いありません」
応竜は、説明する。
ふ〜ん。
良く分からないね。
「志織様。如何されましたか!?」
伐来が、弓を持って走って来た。
伐来の後ろから大勢が走って来ている。
「あ〜、騒がしくして、ごめんね。何か、私の眷属ってのが(ガチャで)出たんだよ」
「眷属?今、そちらにいらっしゃるので?」
「あ、見えないんだよね。ほら……」
私は、応竜の長い髭(もしかして触覚?)を触った。
翼狼の時は、私が接触したら伐来達にも姿が見えるようになったから、多分これで応竜の姿も見えるようになると思う。
「あわわわわ……」
伐来は、腰を抜かした。
・・・
伐来達は、突然巨大な竜が現れたので恐慌状態になったけれど、私が「応竜は、私の眷属で味方だから害はない」と説明して、取り敢えずパニックは収まっている。
私は、野営の焚火に座って応竜から話を聴く事にした。
色々と聞きたい事がある。
「じゃあ、何で私は、ここに連れて来られたの?」
私は、質問した。
「世界を御救いになる為でございます」
応竜が答える。
「世界を救う?如何いう事?」
「そのままの意味でございます」
「あのさ〜、私は、あんたの主上とかって奴の記憶を持っていないんだよ。1から10まで説明してくれなけりゃ全然意味が分からないんだけれど」
「そうでしたな。先ず、貴方様は、このアジア大陸を管轄する最高神です」
「はい?」
「ですから、貴方様の本来の名は、釈羅。別名はインドラや帝釈天……東の漢では天帝とも呼ばれております。神々の王、雷霆神、気象神、軍神、英雄神……などなどの称号も御持ちです。現在、天に座す神々の中では、貴方様が序列1位の最高神です」
応竜が言った。
ポカ〜ンだよ。
意味が分からない。
私が神?
釈羅?
ま、私のステータス画面に「三国志織(釈羅)」って表示してあるけれどさ。
インドラ?
帝釈天?
わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又……帝釈天で産湯を使い……の、あの帝釈天?
伐来や焚達が、「やっぱり、志織様は、女神様だった」とかブツブツ言っている。
「え〜っと、取り敢えず、私が何なのかは一旦飲み込むとして、『世界を救う』とは?6歳児に説明するつもりで教えて」
「はい。この世界は、主上を頂点とする神々と、我のような神獣、それから瑞獣や霊獣などや、仙と呼ばれる神々の下僕達がいます。これを総称して『神の勢力』と呼びます。神の勢力と対立する側に居るのが、魔獣や妖魔や怪異など『混沌の勢力』です。一部に神の勢力にも混沌の勢力にも属さない中立勢力もいますが、これは無害な存在なので、取り敢えず考えなくて結構です。主上は、この混沌勢を打倒して世界を救う事を目的としておられました。霊獣や魔獣には、格があり最上位が我のような神獣で、位階は天位。因みに、我は最上位の神獣の中でも最上位。神獣の頂点に立つ存在でございます」
応竜は、自慢気に言った。
「はいはい。で?」
「混沌の勢力で神獣と同格のモノを、災厄と呼びます。天位や災厄の下には、上位、中位、下位という格があります。主上は、既に翼狼を討伐なさったとの事ですが、翼狼は混沌勢の上位魔獣です」
「なら、世界を救うには、その混沌の勢力ってのを駆逐すりゃあ良いんだね?」
「それが成れば、三国志織の自我は元の場所に帰れます」
「マジで!帰れるの?」
「はい。主上が、三国志織の自我と記憶を御身に宿らせる時に、予めそのように手筈を整えておきましたので」
「良っし。あ、でも最上位格の混沌の勢力の災厄って魔獣は強いの?」
「主上の御力なら、全く問題ありません。一撃必殺でございます。というか、この世界に主上を害せる存在はおりません。主上は、最強にして不死身の存在。主上にとって混沌の勢力を倒すのは呼吸をするより簡単です。むしろ、奴らを探す作業の方が面倒かもしれません」
「ほうほう。で、混沌の勢力の数は?」
「無数にいます」
「え〜、それって超時間が掛かるんじゃないの?面倒だよ〜」
「御心配なく。ある程度、神の勢力と混沌の勢力が均衡する数まで減らして下されば、その後は我ら神獣や瑞獣や霊獣、それから仙達の力で混沌の勢力を抑制出来ますので」
「ほっ。良かった」
「それでも、何十年……100年単位の長期計画になるかもしれませんが……」
「ひゃ、100年っ?長過ぎるよ〜」
「しかし、主上は不老不死ですし、余り労苦などは感じない強靭な体質でございますので、やり始めれば、あっという間ですよ。そして、三国志織としての自我は、元の場所に帰った際に、こちらでの記憶は忘れてしまうので、何年経っても帰った後に問題は起きません。他に方法がないので、そこは御了解頂くしかありません」
「ちっ……仕方ないね。分かったよ。なら、適度に混沌の勢力を間引けば良いんだね?ま、時間の問題か……」
「それが、そう簡単でもありません」
「何がよ?」
「我ら神の勢力の数は定数があるのですが、混沌の勢力は、条件が整えば際限なく発生します」
「なっ?無限湧きするの?そんなの無理ゲーじゃん?」
「なので混沌の勢力が発生しない条件を整える必要があります」
「如何やんの?」
「混沌の勢力の発生源は、瘴気です。瘴気とは、怒り・悲しみ・苦しみ・妬み・憎しみなど人間の負の感情です。人間の負の感情が集まると瘴気が溜まり、一定濃度を超えると魔獣など混沌の勢力が生まれます。逆に、一定領域に人間の負の感情が少なければ、時間経過で瘴気が浄化され、魔獣は生まれません」
「そうなって来ると、なるべく人間達を幸せにしなくちゃならないんだね?」
「そうです。なので、主上は、より多くの人間を幸せにする方法論を持つであろう未来の人間……つまり、三国志織の自我と記憶が必要だったのです」
「なら私じゃなくて、ノーベル賞とかを貰うような、もっと偉い学者先生とかを呼べば良かったんじゃないの?私は、博士号も持っていない安全保障シンク・タンクの平研究員なんだけれど?」
「いいえ。主上の判断に間違いなどありません」
「……取り敢えず、それも飲み込むよ。じゃあ、なるべく大勢の人間を幸せにして、混沌の勢力を見付けたら、ぶっ飛ばせば良いんだね」
「端的に言えば、そういう事です」
「大勢の人間って、どの程度の規模?」
「多ければ多い程好ましいのは間違いありませんが、そうですね……ざっと漢の人口の半数を幸せにして頂けば事足りるでしょう」
「人口の半数?後漢末の人口って、6000万人だよ。その半数って3000万人?私1人の力じゃ無理くね?」
「その為の眷属でございますよ。我の他にも主上には、多くの眷属がおりますので、皆で御支え致します」
「そうなんだ。なら、早速その眷属達を呼び出してよ」
「召喚して下さい」
「私が?」
「はい」
「もしかして、召喚って神力が要る?」
「もちろん」
「ない」
「はい?」
「神力は、もうない。応竜を召喚したので最後だよ」
「えっ?」
応竜は、キョトンとする。
「えっ?」
私も、ポカ〜ンとした。
「何故ですか?確か主上は、『眷属の初期召喚用に神力を99だけ残しておく』と仰いましたよね?神力が99あれば、主要な眷属は粗方召喚可能でしたのに……」
あ……。
「使った」
「何をでございますか?」
「神力は、私が使っちゃったんだよ」
「え〜っ!」
「し、しょうがないじゃん。そんな予定とか聞かされてないし、そもそもガイダンスもチュートリアルも何も受けてないんだから。私は、悪くないよっ!」
「主上は、『目立つように何らかの記号で示しておくから大丈夫だ』と……」
あったね。
「!」のマークが。
ピカピカ点滅して目立っていた。
私は気が付かなかったけれど……。
「神力がないとダメなの?もしかして、私と応竜の2人(人か如何かは定かではない)で3000万人を幸せにしなくちゃならなくなったとか?」
「いや、神力は徴収出来ますので、何とかなります」
「あっそう?あ〜、良かった。で、徴収ってのは如何やってやるの?」
「え〜っと、では、取り敢えず、近場の国か都市を征服致しましょう。それが一番手っ取り早いですから」
「征服?何でよ?」
「神力は、主上が庇護する領域内で暮らしている人間達から徴収します。庇護領域内にいる人間達が主上に対して、心からの崇敬や信仰や感謝を捧げれば、1人当たり1日1神力が徴収出来ます。なので、早急に庇護領域を確保するならば、国か都市を征服するのが最も早いのです」
応竜は、物騒な事を言い出す。
「ダメでしょうが。私に征服された庇護領域に暮らしている人達が、侵略者の私に心からの崇敬や信仰や感謝なんかする訳ないじゃん。本末転倒だよ」
「支配者と支配階級の者達を殺して国や都市を奪い、後で民衆を慰撫すれば宜しいかと」
「ダメダメ。馬鹿じゃないの?私は、侵略はしない。先制攻撃もしない。罪なき人間は傷付けない。私が実力行使をする時は、自分と身内が攻撃された場合だけだよ」
元自衛官を舐めんな。
「しかし、庇護領域を持たなければ神力は徴収出来ません」
「それでもダメ。これは命令だよ。応竜は、私の眷属なんでしょう?だったら、私の命令に従いなさい」
「……畏まりました。御命令とあらば、致し方ありません。神力は、魔獣を討伐して稼ぎましょう」
「そうだよ。また、あの翼狼を倒せば良いでしょう?」
「しかし、この辺りは人口が少ないですからな。人間が居なければ瘴気は発生しません。瘴気が薄ければ、魔獣は生まれませんので」
「あ、砂漠には人が居ないよね」
「まあ、気長にやりましょう。主上も私も寿命はありませんので、時間は幾らでもあります」
「でも、帰るのが遅くなるよね?」
「ええ。国や都市を征服すれば早くなるでしょうが……」
「ダメ。それは許さないよ」
「畏まりました。全ては、主上の御心のままに……」
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