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第二話 私はただ・・・・・・

「この"偏見発見装置"・・・・・・最初の餌食はエリ姉!お前だっ!」

「嫌」


エリーはサンの顔を一瞥してから、手元の本に目を落として言い放った。

サンは一度狼狽えたが、直ぐに体勢を立て直し、再び噛み付いた。


「Why!新しい物に飛びつくのがイノベーションの核心じゃないのか!それでも金持ちリベラルの一人娘か!」


サンの一息の演説は、高校の図書館のような部屋に響き渡った。

それを煩わしく感じたのか、エリーは読んでいた本を閉じ、金縁の眼鏡を外した。


「あのね。アンタは私の一存で住まわせてる居候なのよ?それが主人に対する態度なの?」

「それとこれとは関係ない!」


サンは一般的な日本人の家庭に生まれた。高度経済成長期も末となり、二つのベビーブームに挟まれた子どもたちの競争も相変わらず激しかった。

その土俵から二度も転げ落ちてしまったのがサンだった。

一度目は日本で、二度目は米国で、どちらの土俵でも不登校となり、親とも喧嘩し、ケンブリッジの街をぶらぶらと歩いていたところをエリーが拾ってきた。


「私はただ 自分よりステイタスが上位の人間を こちら側へ引き摺り下ろす欲望を抑えきれないだけなんだ・・・・・・!」


サンの叫びは全くエリーの心には響かず、閉じた本はまた開かれ、外された眼鏡も御主人様のもとへと帰った。


「とにかく!こっちに!来い!」


サンは嫌がるエリーを無理矢理持ってこようとしたが、そのアジア人女児の身体ではびくともせず、ページのめくる音がサンの耳に残酷に残った。


「うわぁぁん!エリ姉の意地悪ぅ!」


力で勝てないとなると、情に訴えるしかなかったのだろう。

エリーのすぐ隣で大声の泣き真似をした。


当時はこういった愚策は成功しないのが世の常であったが、奇妙なことに、今回は功を奏したようであった。


「うわぁぁぁん!」

「・・・・・・うるさいわね。家政婦さんが来ちゃうでしょうが」


エリーは渋々"偏見発見装置"に近づいた。

顔を赤くして立ち上がった彼女を見て、サンはニヤリと笑った。


「仕方ないからやってあげるわ」

「流石エリ姉!」


サンはすぐさま動いた。

黒い箱から伸びる二つのコードのうち一つをテレビに接続し、もう片方のコードから伸びる赤と黒のボタンをエリーに持たせた。


「何よこれ」

「ボタンを押す反応速度によって隠れた偏見を炙り出す画期的なシステム──その名も"偏見スイッチ"だ!」

「絶望的なセンスね・・・・・・」


エリーは本格的に諦めて、サンの遊びに付き合ってやることにした。 

右手に黒いボタン、左手に赤いボタンを持ち、ケーブルテレビに映し出されたシンプルな映像を見る。


真っ黒な画面の中、白い正方形が左右に一つずつ配置されており、その上に「ready?」という文字が大きく浮かんでいた。


「両方のボタンを同時押しでスタートだ!

さあさあさあ!"偏見スイッチ"を両手に持ち、その上品な情操教育を否定してみせろ!」

「はいはい」


ケーブルテレビの画面が、動き出した。


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