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初めてのサイボーグ。

 天使と名付けられた小鳥がいた。羽の一部をカラスか何かにくいやぶられて飛び方が変になっていた小鳥を、あるサイボーグ研究所の所員が捕まえて、それを大事に育てていた。人懐こく、とてもかしこい鳥で、人間の赤ん坊くらいの知能はもっているらしかった。そこで研究所ではその鳥を飼い、研究しつつ、サイボーグ化をする実験をしようと考えた。これは人道的に問題がある可能性があり、秘密裡に行われた実験だった。


だが研究所の所員は誰もがその完成を待ちわびていた。サイボーグ化するのは羽だけではない、彼女に小さな機械的に拡張した頭脳をつけるのだ。そして首には装着型の発声装置をつけて、人間と会話できるようにしてみたのだった。


その実験は見事成功し、彼女は人間と会話するようになった。しかしその言葉はツギハギなものであったり単語であったり、時にはわけのわからないことを話すことさえあった。だが、その小鳥は研究所ではとても人気で、いつでも所員の心を和ませたのだった。


だがある理由でその小鳥は、その研究所を去ることになった。ある職員が研究所の裏手にあるゴミ捨て場において朝方、大きなカラスが、たむろしていたのを見つけた職員がホウキでそれらを追い払ったのだが、そのうちに一匹のカラスをあやまって殺してしまったのだ。その時、小鳥はそれを窓辺で目撃し、大声をあげて1日中鳴いていた。それが近隣にも届きそうな声で、その後やがて静かになったかと思うと、

(人はどうして命をもてあそぶの?私も一緒なの?)

そう、小鳥が口にしたのだった。


 この話は小鳥に対するある種の倫理観を研究所の所員に植え付けた。小鳥の頭脳を拡張したことが正しかったのだろうかという疑問を。鳥を改造してから生まれていた問題はそれだけじゃなかった。研究所の関係者か、その家族かが、鳥に時折いたずらをしていたのだ。羽をちぎったり、毛をむしったり、だれも見ていないところでそういう事があった。一部の職員にはこのことに心当たりがあった。職員の一部がこの小鳥をかわいがっている一方で、人間のように欲をもたず、人間でもない存在が、知識や知恵を持っていく様を不気味に感じているものもいたし、はっきりとみんながその成長を見守るうちに小鳥の知識や知恵以外の人間的欲求のなさに対する淡泊さに気味が悪いと話す人間もいた。たとえば、使う予定のなかった子供型の人間の形の機械の体を与えようという話もあったのだが、小鳥は服に興味をもたなかったし、人間の性別にも興味をもたなかった。身だしなみにもあまり興味をもたなかったのだった。そして人間の形を嫌っていた。その割に知識には好奇心旺盛で、小学生が習うような勉強を毎日所員の一人がつきっきりで教えたりしていたのだった。


 そういう事で研究所では鳥をもとの状態に戻すかいなかという話し合いが行われた。その話し合いは数日進んだが結論はほとんどかわらなかった。

 《やはり自然の生き物は自然に戻すべきである》

 いや本当は恐れていたのだ。人間の私利私欲のために鳥を改造し、秘密裡にこんな実験を行って直したはずの羽を使う機会を、大空を飛ぶ機会を奪ったという事が小鳥に理解される瞬間がくるのが誰もが、恐ろしかったのだ。そして自分勝手にかわいがったあげく、所員の誰かが小鳥にいたずらをした。そのことをいずれ小鳥が理解するときに、人間の野蛮さや残酷さを理解するときに、小鳥は人間と仲間でいられるだろうか。


 結局小鳥は野に放つことにした。機械的に拡張した頭脳はもとの状態に戻し、羽だけをやはり人間のエゴによって修理したまま、空に放つことにした。空に逃がすその日、所員すべてが外にでて、小鳥のゲージが開かれるのをまった。鳥は2,3度ゲージと外を行き来した後、羽ばたきそらへむかった。空を何度か周回するうち、一人の職員が

『私たちは人間、あなたは天使、きっと永遠に理解しあえない存在なのかもしれない』

 とつぶやいた。

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