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報連相が終われば テロリストが解き放たれる

 南米のとある小国、フェリペ・レセンデスの祖国の兵達は、外交官特権である治外法権を拡大解釈していた。


 つまり、お国の大事な大使、レセンデス様の面子を守るためならば、そこが他国の大事なモニュメントであろうと、銃を向ける相手が子供であろうが、全く躊躇わずに殺戮行為を実行してしまえるという思考停止的な解釈だ。


 車で現地の人間を撥ね飛ばしても、人命救助に停車するどころか走り去っても構わないという、恐るべし特権を享受していれば勘違いも止む無しか?


 いかなる理由でも逮捕されることの無い特権を持っているから、異国の少女をレイプしても平気なのか?


 鹿角の前に扇状に展開して威圧している彼らは、誰もが全く罪悪感などない顔で、個性のないブリキの兵隊のようにして、俺と鹿角に銃を向けていた。


「うわっ!本物のベレッタがずらりと並ぶと壮観ですね!十八弾発射可能でしたっけ?一斉掃射されたら、ハハ、鹿角さんは穴だらけですね。」


「君は私に義経を守る弁慶のように立ち尽くせと言いたいのかな?私を弁慶にしてしまうと、弁慶が義経を殴って関所を越えたように、私は君にいくらでも鉄拳制裁をしても良いと言う事になるよ?」


「それは困りましたね。では、レセンデスの懸念を解消してあげる事にしましょう。ねえ、レセンデス?政府のデータサーバーを修復したら話は終わりなんでしょう?原因のデータが誰のものか分かるように修復してあげますよ。」


 鹿角に拘束されている異国の大使は、日本語を本国後のように扱える方だからか、俺の言った事をすんなりと理解された。

 そして、俺の提案に喜び顔でゴーサインを出すどころか、一瞬で脅えた顔になって、止めろ、と叫んだのである。


 そうだね、自分のコレクションがバレバレになったら困るものね。


 そして慌てた彼が発してしまった言葉は、日本語ではなく、スペイン語だった。

 ほら、銃を持つ兵隊の動きがピタリと止まった。

 それに、大きなモニターにたった今レセンデスが叫んだ言葉が浮かんでいる。

 日本語字幕付きで。


 俺はポケットに手を突っ込むと、自分のスマホを取り出して、そこに入れておいた解毒剤、幽霊少年が出現するウィルスに対するワクチンだが、それと単純な司令をアンリに贈った。

 

 俺が送信した数秒後。

 バックが黒に白抜き文字で、止めろ、とあった画面は、ぱっと切り替わった。


「晴純君!君は見るな!」


 鹿角は珍しく上ずった声を上げていた。

 それもそうだろう。

 モニターには殴り殺されたらしき全裸の少女の遺体が映りこんでいた。

 その映像は遺体の解剖前のものだろうか。

 次にその映像がまたぱっと切り替わった。


 死んだ少女の生前の動画。


 小汚い部屋の小汚いベッドにて、中年の男に犯され殴られているという、彼女の死因をあからさまにする動画だ。

 少女を殴りながら犯す男の顔は、フェリペ・レセンデス。


「エスメンティーラ!」


 嘘だと、レセンデスが大声を上げた。

 うん、アンリが適当にレセンデスのサーバにあった動画に顔を挿げ替えて画像処理しただけなのは知っている。

 だから恐らくも何もレセンデスの言う通りに嘘動画でしかないし、俺の隣に存在していた、俺の告発だけで消えてしまったレセンデスが作った死霊の姿でもないね。


 だがそこを追及する間もなく画像はぱっと切り替わり、たった今声を上げたレセンデスの顔が大きく映りこんだ。

 次にさっとカメラが引かれた別の絵となったが、レセンデスを拘束している俳優みたいな格好いい男と、その格好良い男に銃を向けているらしきモブにしか見えない男達の図となったのである。


 つまり、悪役を捕まえた正義の人に襲いかかる複数の敵、というシーンにしか誰の目にも見えないというものだ。


 俺?俺は鹿角の足元にいるから、ぜんぜん映っていないよ?

 だから、日本語の分かるレセンデスに、ちょっとだけ声をかけた。


「これ、全国放送していいかな?」


 レセンデスは屈められている身を起こし、自分の兵隊達に叫んだ!

 撃て、と。

 自分を拘束するこの男と、全部知っているガキを殺せ!と。


 スペイン語で。


 なぜ俺が分かるのかは、俺がスペイン語を知っているからではなく、モニターにレセンデスの音声と字幕が表示されたからである。


 さて、その声に連動するようにして、十人の男達は銃を構え直した。

 銃は確実に鹿角を狙い、彼らの大事なレセンデスを巻き込まないように、彼らは銃を構えながら前進してもきたのである。


「晴純君。藤君もいたら良かったね。私はレセンデスを抱えているから、君を抱いて逃げる事が出来ない。」


「じゃあ、捨てちゃえば?それ。」


「捨てたところで私達はハチの巣になるよ。」


「だな。」


 答えたのは俺ではなく、しゃがれ声をした異国人だった。

 最初に俺達の直ぐそばに到達した一人であり、ニヤニヤ顔をした彼は銃を持つ腕をさらに上げ、殆ど目の前となった鹿角の頭に向かって銃口の狙いを付けようとした。


「これなら、お前だけを殺せるなあ。」


 しかし、男は引き金に力を込めたそこで、目をぐんと見開いて、なんと全身を棒となったように硬直させたまま後ろに倒れてしまったのである。


 ぐあん。


 後頭部は硬い床にぶつかり、それはそれはいい音がした。


 どん。

 だん。

 がん。


 その男を引き金にしたようにして、兵士達は同じようにして失神しながら次々と崩れ落ちていく。

 まるで怒りに狂った人間によって頭を床に叩きつけられるようにして、彼らは次々と頭を床にぶつけながら倒れ、びくびくと痙攣しているのである。


「晴純君。何が起きた、のかな?」


「さあ?機械の誤動作による音響爆弾的な?ある周波でてんかん発作が起こせるらしいですね。SPの人はイアホンを常時差しているから大変ですね。耳の聞こえが悪くなったりしませんか?」


「君が私に私服で来いと何度も言うのは、銃を置いて来いという意味では無く、イアホンを外して来いという意味でしたか。確かに、この格好でインカムつけていたら目立つことこの上ない。」


 鹿角は事態に呆然としているレセンデスの腕を完全に捩じり上げ、彼に最大の痛みを与えた上で、後頭部のすぐ下に手刀を当てて意識を奪った。

 レセンデスは鹿角の足元にぼろ雑巾のように放り捨てられ、鹿角はレセンデスを一顧だにもせずに自分のスマートフォンをコートポケットから取り出し、悠々とした風にして耳に当てた。


「はい。藤君?展望室でちょっとごたごたがありましたから、私はこの後片づけで拘束されます。急いでこっちに来て晴純君をお願いできますか?」


 俺が鹿角を眺めていると、鹿角は急に、え?という顔に表情を変え、床に座る俺を見下ろした。

 それから、え?と俺に聞き返して来たのだ。


「え?あのモニター映像、すでに公開済み?」


 俺は鹿角に言ってやった。

 ここは電波塔だろ?と。

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