報告その四 我々は二班で行きます
拓海は鹿角が消えた後に自分の部屋に戻り、そこで俺用の監視装置の映像を確認したのだろう。
俺が知っていたように、彼も自室への侵入者がいた事を知った。
また彼は、自分の所蔵していた秘蔵俺ムービーのいくつかが消えていると騒ぎ、秘蔵な俺の映像?と、俺の心胆を寒からしめた後、大いに憤慨の声を上げた。
「こんなことは許してはいない!」
拓海はかなりのお怒りのようで、普段は全くものに当たらないのに、手ごろなペットカメラを掴むと床に投げつけたのである。
床に叩きつけられたペットカメラは、まるで生き物のように、ぎゅい、と駆動音を立てた後に沈黙した。
俺は咄嗟に床に座りこみ、その壊れたペットカメラを両手で抱えた。
「可哀想に。俺はなんかこの子に愛着さえも湧いていたのに。」
「――すまない。だけど、これが終わったら室内中のカメラは捨てる。」
俺への監視もお終いか?
俺は壊れたペットカメラを棚に置き直し、無言となってしまった機械を大事なもののようにして軽く撫でた。
「全部新しく買い替える。晴純以外が映ったカメラなんかいらない。」
……。
秘蔵な俺の映像は何なんだろうと不安になるじゃないか。
それでも俺はこれからのことを考えて、拓海に尋ねていた。
「あの、じゃあ、いくつか俺が貰ってもいいですか?これから離れ離れですし、拓海先生と繋がっている気が、あの、カメラがあるとそんな感じがして。」
「も、もちろんだよ。僕も持って行こう。離れ離れでも一緒だね!」
…………。
「では藤も呼び、出来うる限り私達の条件で拉致されましょう。」
俺と拓海は今更のようにして、ずっと部屋にいた兵頭に振り向いた。
俺達の注目を浴びた彼女は、これ見よがしにスマートフォンを操作し、ルビー色に輝く長く美しい髪を軽くかき上げてそれを右耳に当てた。
うふふと、俺達に艶然に微笑みつつ。
そうだ。
俺達は四人であらねばならない。
「鹿角さん?話は決まりました。おっしゃる通りに一週間分の荷造りをしますので、三時間と言わずに一時間後に車を回してください。ただし、移動するのは拓海教授と晴純君だけではありません。そこはご了解いただけなければ、我々は決して動きませんことよ。」
え、藤にではなく鹿角に掛けていたのか!
兵頭は俺が貰った名刺を片手の指で挟んで、俺達に見えるようにぴらぴらと動かしていた。
俺達は嫌だろうが鹿角によってどこぞに連れ去られる。
そこで恐らく兵頭は、自分と拓海、藤と俺、という組み合わせで無いと移動を承服しかねると、鹿角に交渉を持ちかけようと考えたのだ。
なんて頼りがいのあるお方だ!
「ええ。大事な子供を荒っぽい男所帯に預けてはおけません。わたくしが一緒でなければ晴純君はそちらに参りません。」
え、俺と兵頭?
そこで鹿角が何を言ったのか知らないが、兵頭はうふふふと笑い声を立てた。
まるで魔女のようだと、兵頭の赤い唇を見つめていると、その唇は悪女そのものの証となる言葉を吐いた。
「拓海教授が大事な指を突き指なさってもよくって?」
あんなに激高していたはずの拓海が、ひゃっと可愛らしい悲鳴をあげ、自分の胸に拳にした両手を押し付けた。
俺は本気で脅えているらしい拓海を目にした事で、拓海をこんなに脅えさせた兵頭にガクガク脅えていた。
やるんだ。
彼女はやると言ったら、本気で拓海の指を突き指させちゃうんだ!
「まあ!お話が分かる方ね。では、二人に準備させますからお車の方はよろしくね。そうそう、拓海教授の運転手は藤で。あの子は拓海教授がいなくなると暴れてしまうの。まるでフランケンシュタイン博士を失った人造人間のように。ご理解いただけるかしら。うふ、そう。冗談じゃなく、あの子の祖父は有名な藤これみちさんじゃないの。ええ、あの子にもそれなりな待遇をお願いしますね。」
そう言えばフランケンシュタインの映画には、物凄い美女の人造人間という設定のフランケンシュタインの花嫁という続編があったなあ。
俺はぼんやりと兵頭を見つめていた。
彼女はスマートフォンの通話を終えると、俺達に向かってにやりと口角を上げて見せた。
「さあ、野郎ども。これから我々は二班に分かれてのキャンプになりますが、単なるイエスマンなお客様でいたらお尻を叩きますからね。要求は欲求する限り要望し、この機会に取れるものは奪いましょう。いいこと?特に晴純君!あの恥知らずなSPをしっかりと食いものにするのよ?」
俺と拓海は震えながら、イエッサーと叫んで兵頭に敬礼をしていた。




