戦況を好転させるには、状況と敵情報を正確に捉える事だ
怪我が治るまでは自宅療養。
その後は保健室登校と言う事に俺の身の上は決まった。
俺の腹の怪我の完治は三週間かかるが、それは傷が塞がるだけで痕はしっかりと残るらしい。
家に戻って母親が俺に投げつけた言葉は、恥ずかしい、だった。
いつもの、どうして普通にできないの、も言われた。
俺は自分の体の中にいなくて良かったと思った。
俺の体の中の人は、アンリ、だ。
アンリは自宅に戻ると真っ直ぐに部屋にこもり、俺の母が部屋に入って来ないようにバリケードらしきものを戸口に作り、それから俺を横に呼び寄せた。
「晴純、お前をリンチした四人。そいつらの住まいと家族構成を説明してくれ。」
俺は何も知らないからと、首を横に振ってみせた。
「ちょっと待てよ。主犯の曽根は小さい頃からの知り合いだろ?家ぐらい知らないのか?」
「大嫌いだし、曽根も俺が嫌いだから行きっこないし。あ、でも、家族構成はわかるよ。両親に妹がいる。」
「すごいな。そんなん通りがかりでもわかる情報だな。」
アンリは口元を手で覆ってしばし考え込んだ後、きめた、と声を上げた。
「何?」
「お前は金を盗まれているんだろ?よしよし、それがいつからか、誰にいつ渡したか、それを書き出すから答えるんだ。その行為の仕返しは、この四人の中で一番良い暮らしをしてそうな親父にしてやろう。知っているか?地位も名誉もある奴の一番の弱みが、それが無くなることだって事をさ。」
「で、でも、どうやってそれを調べるの?」
アンリはニヤリと笑った。
「俺達には三週間の猶予を貰ったんだ。奴らを尾行し、家を突き止め、そこから親の勤務先まで追跡してやろう。動き回ることでお前の身体は体力がつく。」
「け、警察にあいつらの事を話した方が。」
「お前が言っていたじゃないか。いじめってさ。俺から見ると全部犯罪行為だがな。暴力に罵倒。服を無理矢理脱がせる行為なんざ、大人だったら一発で逮捕、なんだろ。いじめって言えば指導で終わりか?相手が子供のする事で逃げるんならな、こっちもそれを使おうよって事さ。」
俺にも反撃できるの?
少しそれだけでワクワクした。
でも、あいつらに近づくのも、あいつらの事をチラリとも考えることだって、俺にはしたくはないことなのである。
あいつらにはいなくなってほしいけど。
怖いって思った瞬間に、俺の高揚感はしゅーんと消えた。
すると、俺の頭を撫でるような感じでアンリが腕を伸ばした。
「大丈夫だ。お前の体の中は俺、痛みを引き受けるのも俺だ。違うか、痛みを受ける我慢はお前は散々にできる強い奴だったな。お前に言ってやる言葉を間違ったみたいだ。耳を貸せ。」
俺は素直に従ってアンリの口元に耳を寄せた。
彼は俺の耳に、俺がきっとずっと欲しかった言葉を囁いてくれた。
「もう一人じゃないよ。」
俺はアンリが失敗しても構わないって思った。
本当に俺の肉体が殺される事になっても、俺は構わない。
でも、絶対に最後までアンリを信じようと誓った。