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連絡その四 冷たい檻の中で追いつめられたら

 藤は建物内に関してはよく知っているとのその台詞通り、薄暗い館内だろうが内階段まで俺を無事に案内してくれた。

 階段では俺を殆ど抱えるようして地下へと下り、そして目指す職員用出入口まで俺の手を引いて地下の廊下を駆け抜けたのである。


 地下に降りた俺達が通り過ぎた道筋には、倉庫らしき部屋が二つと、職員の休憩室らしき大き目の部屋があったが、この停電で休憩室にいた人達はそこに閉じ込められてしまったようだ。

 俺達の足音で助けだと思ったのか、締まったドアを大きく叩く音が聞こえた。

 まるでお化け屋敷のアトラクションのようだ、と俺は藤に手を引かれながら思ったものだ。


 そうして辿り着いた職員出入口のドアだったが、それは頑丈な金属製のドアであり、俺達の行く手を絶対に阻もうと固く閉ざされたままだった。


「ちっ、開かない。どうして!内カギは開けたのにびくともしないんだ。」


「オートロックだからです。老人ホームですから、電灯が落ちた時こそ収容者を逃さない設定になっています。」


「出ていけないって、拘束に当たらないっけ?」


「安全第一です。それに逃さない設定が出来るのならばするように俺は設定しましたから、これは想定内かな。途中で職員休憩室もドアが閉まっていたでしょう。電気で制御できるドアは全部ハックしているようです。」


「こら。だったら最初に言いなさいよ。」


「理論上は可能でも実行不可能ってよくあるじゃないですか。俺はその可能性にかけたのですが、いや、俺って凄いなって、っわあ!」


 俺は子供みたいに脇の下に手を入れられて、藤に持ち上げられた。

 藤は本気で怒っている顔をしており、つま先立ちになった俺に凄んで見せた。


「脱出の方法は?君の携帯で君のパソコンに指令を出すことは出来ないの?」


「無理ですね。俺のスマホが敵に奪われた場合を想定してのこのプログラムですので、藤さんのスマートフォンしかこの状況は解除できません。」


 藤は、ハア、と溜息を吐くと、俺を床に下ろした。

 それから右手を自分の目頭に当てながら、俺にもう一度質問を投げかけた。


「俺の、奪われたスマホが君のパソコンに連絡を入れるように、君のスマホでまた指令出すとかは?」


「無理ですね。俺のスマホがそもそも使えない状況です。何度も言いますが、俺のスマホが奪われてあなたのスマホに連絡が出来なくなった場合のこのプログラミングなんですって。でも、あ。」


「なんかあった?」


「忘れていました。」


「言って、何でも言って。」


「藤さんのスマートフォン、今は煩くピープ音立てているはずです。俺が逃げられない、またスマホを奪われた緊急事態状況ですので、助けて助けてって梟が騒ぐアニメーションと俺の現在位置のお知らせが画面にずっと表示されているはずです。」


「ピープ音と一緒に?」


「はい。」


 俺が元気よく答えると、藤は、聞きたくなかった、と言ってしゃがみこんだ。

 何でもって言ったくせに!


「誰だよ、この子が鬼みたいに頭が良いって言った人。拓海先生だよ。ああ、人物評価については一番信じちゃいけない人じゃないか。」


「失礼ですね!こんなプログラム作れる俺はすごいじゃないですか!他にも機能があって凄いんですよ!」


「どんな機能?」


「俺のスマホが奪われた場合のプログラムです。俺のスマホを通して藤さんのスマホに会話が筒抜けだったりもします。」


「ピープ音をがなり立てながら?」


「会話がある時はピープ音止まりますね。」


 藤は、ああ、と言って頭を抱えた。

 まあ、言いたい事はわかるけどね。

 藤のスマートフォンによって、敵は現在状況が誰が引き起こしたものか理解することとなり、俺を捕えて修正させようとするだろう。


 敵は俺達を必死になって探す。

 そして、俺と藤の会話が止まった今は?


 ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピー。


 耳障りな機械音が俺達の直ぐそばに迫って来た。

 もちろん、騒々しいスマートフォンを掲げているのは、藤からスマートフォンを奪った人物その人である。


「ああ、本当に凄いよ。晴純さん。このガキが!痛い目をみたくなかったら、とっとと、この状況を解除しねえか!」


 ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピー。


「ああ、うるせえ。この音だけでもどうにかしねえか!」


 俺はヤクザのような乱暴な口調となった郷田に向き直った。

 スマートフォンに足が無いのならば、足がある人間に持たせればいいのである。

 俺達の真後ろは職員用出入口。

 解除したら逃げるだけだ。


「まず。スマートホンのロックを解除すればピープ音は消えます。」

「はちななさんご。」


 俺の言葉に藤がすぐに自分のロックナンバーを告げ、郷田は嬉しそうにしながら藤のスマートフォンを解除し始めた。


 ピーピーピーピー。


「よし、止まった。さあ、次はこの停電を解除してもらおうか。」


 ドオン。


「ほおら、早く開けねえか!」


 職員用出入口が外から大きく蹴り込まれ、大きな怒鳴り声も響いた。

 俺はびくりと体を震わせ、郷田は俺を見つめて顔を嬉しそうに歪めた。


「ひひ。てめえには仕置してやるよ。菱鳥会の怖いお兄さん達にちょっと躾けてもらおうか。いい子にしてりゃあ、痛い目に遭わせなかったのによお。」


「い、意味が分からないのですけど?」


「意味だ?何がてめえ一人だけ千野の遺産を独り占めしようとしてんだ?何が主幹事候補だ?俺こそ千野を支えて来てやったと言うのにな。」


 ドオン。


「早くしろよ!外は寒いんだよ!」


「ほら、あんまり怒らせると痛い思いをするだけだよ。さあ、次は?」


 俺は口を開きかけ、その口は藤の手によって塞がれた。

 藤は俺を自分の腕の中に抱えると、郷田に怒号を上げた。


「粋がってんじゃねえ、てめえ。今は二月だ。どんどん冷えていくこのコンクリートの檻ん中で一緒に我慢大会をしようじゃねえか!」


 だが、藤の脅しで郷田が引き下がるわけはない。

 彼の後ろから藤のスマートフォンを奪った男と、もう一人の手下らしき男という二名が姿を現したのだ。


「我慢大会だったら痛みの我慢はどうだ?」


 嬉しいほどの悪人だな。

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