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報告その一 監禁者に遭遇中の少年

明けましておめでとうございます。


二月から公開するつもりでしたが、梟と教祖様は一気に書けてしまいましたので公開します。

拓海の家で晴純が大事にされているせいか、本編や「梟は烏を追う」と違って内容は明るいものとなっております。

 二月、日本が一番寒いだろう半ばの土曜日、俺がよたよたとスーパーへの道を歩いていると、当り前のようにして俺のスマートフォンがブルブル震えた。

 俺は、ハア、とため息を吐くとスマートフォンを耳に当てた。


「ハレです。」


「どこに行くの?」


 俺を監視対象にしている保護者は、それはもう過保護すぎるぐらいに過保護で、監視カメラで俺を盗撮しているのはいつものことだが、一週間ぐらい前には玄関口に人感センサーも仕掛けたらしく、俺が予定外の外出をした途端に必ず俺に行き先確認の電話が掛かってくるのである。


 彼が手術中ならば、彼の秘書の兵頭から。


 どうして運転手の藤じゃないんだろうと、彼だったら車で送ってあげるよ展開もあるだろうにと思いながら、殆どストーカーな保護者に応答した。


「……スーパーに行こうかなってあるってます。冷蔵庫の中身が何もないので。あと、コーヒー豆はいつもの所に無くて。どこに片してありますか?買っちゃったほうが早いですか?」


「……君は今現金はいくらあるの?」


「まあ、二千円ぐらいは。」


 俺は拓海に与えられていたクレジットカードについては、正月も終わった一月の半ばぐらいに拓海に叩き返している。

 スーパーで買い物をしたは良いが、中学生がクレジットカード、それも限度額が際限なさそうな他人名義のものを持っているという事で、スーパーの裏に連れていかれた上に警察を呼ばれて職質されたのである。


 俺は拓海の家に居候しているが、法的には俺の保護者は実の親だ。

 保護者として実の親を呼ばれ、嫌味しか言わない母親に対して、ご面倒をおかけしましたと頭を下げなきゃいけない体験をした。


 なぜ嫌味を俺に言うかって?

 母は子供達は平等でなければならないという信念を持っているらしく、俺が拓海に甘やかされて贅沢しているのは蒼星には不平等だと思っているのだ。


 実際そう彼女は拓海に言い、子供は親の傍にいるものだと、息子を返して欲しいとまで、あの正月のめでたいご挨拶の席で言ってのけたのだ。


 あの場に拓海の敏腕秘書、兵頭がいてくれて良かった。

 兵頭は母をどこぞへ引っ張っていくと、母に何かを囁き、母はそれから自分の子供は平等主張を拓海には出さなくなったのである。


 何を言ったの、兵頭さん。


 そんで、顔を合わせるたびに子供に嫌味をいう母親って何だよ!


 と、いうことで、久々に会った母親にHPを削られた俺は、当り前のようにして拓海のせいだと拓海に八つ当たりをしてしまったのである。


 ああ、クレジットカード。

 返さなきゃ良かった。

 クレジットカードさえあれば、ネットスーパーという手があったじゃないか!


「病院に来て。僕がいなかったら兵頭を呼び出せばいいから。」


「え、めんどい。」


「いいから来て。君は朝からコーンフレークと卵三個しか食べて無いでしょう。いいから病院に来て!」


 スマートフォンは切られ、俺は自分のストーカー的盗撮者にゾクゾクと寒気を感じながら、寒い外を今度は病院に向けて歩き出した。


 俺の持つ杖は、登山者や老人が持っているような、単なる棒状のものである。

 グリップが付いていて、スキーストックみたいに頼りなく見えるものでもあるが、俺みたいな片足が不自由な人間にはあると無いでは全く楽さが変わるという絶対に手放せないアイテムである。


 ただし、こんなものを持って歩くのは目立つ。


 目立つせいで、俺を探している人には見つかりやすくなるのである。

 だから、俺を知らない人にとっても俺という人物は、ゲームのアイコンぐらいに俺として見分けがつくわかり易いものとなっているのだ。


「蒲生晴純くんだよね?ちょっといいかな?」


 駄目です、と言う代わりに、俺はポケットの中のケータイに電源を入れた。

 通話も出来ない大昔のケータイだが、カメラ機能と動画機能はまだ使える。

 腕っぷしどころか走って逃げられない俺には、自分に何かが起きた時には必ずこれを起動させて記録しているのだ。


 俺はされた事はしつこく覚えて、絶対に復讐するタイプだ。


 俺に声をかけた男は見覚えなど何もない、拓海よりも年上そうに見える中年で、着ているスーツは拓海のクローゼットの中身よりは落ちるがそれなりのものだと俺には解った。


 ハハハ、布地を見ただけで服の良し悪しが分かるようになっちゃったとは!


 生活破綻者である拓海が家事などするはずもなく、着替えは週一でまとめたものをクリーニングに出し(バスタオル類どころか下着までも!)、室内も週一で契約している清掃業者が掃除に来るというものだった。

 そこで俺は掃除と洗濯を覚えた。

 自分の下着はクリーニングに出したくないし、部屋にある俺のパソコンには誰にも近づいて欲しくはない。


 ついでに拓海の洗濯機で洗えるアイテムも一緒に洗ってやるようになり、俺が自分の登校用のシャツにアイロンをかけるならばと拓海のシャツにもアイロンをかけてやるようになり、終いには俺が拓海の衣装の管理人となっていた。

 初めて拓海のシャツにアイロンをかけた日は、丁度学会の日だったらしく、兵頭には物凄く褒められて、彼女から高級チョコレートをご褒美に貰った。


 ちなみに、これらの家事を俺がスムーズに覚えられたのは、全て俺のお世話係の有咲のお陰である。

 彼女は俺に家庭科の教科書にある、布地の種類や扱いの違い、それに伴った衣類の仕分け方を読むように指導し、あとは洗濯機の説明書を読めと言った。

 さらに、アイロンかけや掃除に関しては、それをわかり易く説明しているブログを教えてくれたのだ。


 俺のお世話係を自称している彼女は、子供が独り立ちできるように育てるお母さんみたいにして俺にお世話してくれやがる。


「蒲生君?」


「あ、すいません。ちょっと意識が宇宙船に乗ってました。」


「え?」


「いえ。すいませんが、どなた様ですか?拓海先生の関係の方でしたら、秘書の兵頭さんを通してください。俺に直接は、絶対に拓海先生は受けませんよ?」


 相手に失礼だろうが、俺は踵を返して歩き始めた。

 俺が言った事は事実である。

 俺に過剰に過保護な拓海は、彼が認定した人間しか俺に近づけたがらない。

 それは、俺が人を殺しているからであろう。

 あるいは、そんな俺が彼の作品でもあるからか。


「待って君。私は君に話しがあるんだ。いいかな?」


 俺は左肩を掴まれており、自分達が立ち止まったそこで車が止まった。

 その車が後部座席のドアを開けたならば、俺は有無を言わさずにそこに放り込まれるだけだろう。

 無力な俺はたった一つのことしか出来なかった。


「わああ、たすけて~!」

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