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新年を迎えるならば抱負を抱こう

 あの日、俺が石井の家からマンションに戻った後、藤は病院に詰めている拓海の元に直接行って、彼が見た俺についての報告をしていたのである。


「時々口調が変わりますね。俺に敬語で話す晴君と乱暴な言葉を話す晴君。俺はどちらが彼の本質なのかと悩みます。」


「まるで二つの人格があるみたい、と?」


 拓海は俺が多重人格だという見解は持ち続けている。

 その多重人格の症状は脳が障害によってバランスを崩していた事だと考えており、俺に多重人格の症状が出る時があれば、それは俺の脳が再び壊れた時だと思っているのかもしれない。


 そして、なぜ二人の内緒話を俺が知っているのかと言えば、俺が藤のスマートフォンをジャックして二人の会話を盗聴していたからである。

 つまり、俺は藤も拓海も非難することなど出来ない人間なのだ。


「晴君!ごめん。ちゃんとしたお年玉もあるからそんなに呆然としないで!」


 藤は慌ててポケットからもう一つのポチ袋を取り出してきて、俺はそんな藤に笑い、小さな子供のようにして彼に両手を差し出した。

 しかし、俺の手は藤からぎゅんと遠ざけられた。

 後ろから俺を抱き締めた拓海が、俺を後ろへと引っ張ったのだ。


「だめだよ!僕が先にお年玉を上げるの!一番最初にお年玉を晴君にあげるのは僕なんだから、藤君は順番を守って。」


 俺は拓海を見返して、そして吹き出してから、ごめんなさいと言った。

 それから拓海に分かるようにして、懐にさしていた長三サイズの華やかな絵柄が印刷された封筒をほんの少しだけ引き出した。


「うっそ!兵頭め!」


 拓海はぷんぷんと憤慨しながらも、俺にポチ袋を差し出した。

 鯛の形をしたポチ袋で、俺は受け取りながら笑っていた。


「これを拓海先生が買ってる場面が想像がつかない!」


「そうかな。僕こそ好きそうじゃない?」


「ああ、そういえば確かに、ですね。」


「アンリ君だったら、どんなポチ袋を買ったかな?」


 兵頭も藤もいるここで聞く?

 そう思ったが、俺の頭には悪戯心も目覚めていた。

 目の前の脳外科医が世界最高の天才医師で俺の謎を解きたいと考えているならば、解けると思っているのならば解いて見せろという気持だった。


「アンリは俺とは完全に別人格だったからわかりません。アンリが俺の中にいた時、俺はこの体の中にいなかったんです。ふよふよ世界を漂っていましてね、拓海先生と楢沢先生の内緒話を聞いていたりしていたんですよ?それにそれに、幽体の俺の感情が高まると、蛍光灯とか破裂してました。」


 拓海は鼻で嗤うか彼なりの理論を俺にぶちまけるかと思ったが、彼は口元に右手を当てて、ハレルヤ!なんて唱えるじゃないか。

 それだけでなく、両手で俺の両手を掴むと、目を煌かせて俺に身を乗り出した。


「ああ、そうか。東病院のMRI室で変な爆発が起きてたね!そうか、そうだね。それで、僕と楢沢の内緒話は何だった?」


「え。普通に曽根の病状についての会話で、拓海先生が猫の祟りって言って喜んで楢沢先生に叱られていたり、俺の血栓についての事だったり。」


「他には?僕達は何を喋っていた?」


「他には、無いです。アンリがもう聞くなって言ったから。俺の治療についてだと、医者じゃない俺達には分からないから不安にしかならないから聞くなって。って、あの、うわ!」


 俺は話している最中に掴まれていた手を拓海に引っ張られ、俺はその勢いで拓海の胸にぽすんと上半身が当たった。

 彼は続いて空手になった両腕でもって、自分の懐に入った俺をぎゅうと抱きしめたのである。


「最高だ!最高の子供だ!そうか、本当に超能力って存在するんだ!」


 え?


 俺を抱き締めていた男はあっさりと俺を開放し、それどころか今度は俺の肩に相棒にするようにして腕をかけた。


「さあ、出掛けよう。」


「え?いえ、お出掛けの予定でしたけど、え?」


「ああ!晴君の大好きな人を隔離してさ、その人と晴君が交信できるか実験とか、今度やってみよう。そのための検体を探しに行こう!」


「正月からそれかよ!」


「ハハハ、僕のライフワークだ!」


 藤は俺達がいい組み合わせだと言って笑い、拓海に慣れている兵頭はいつまでも玄関にいる俺達を母親のようにして追い立てた。

 俺達は、いや、俺は、こんなにがやがや騒いで楽しい正月は初めてだと嬉しくて有頂天で、気が付けば拓海の背中に自分の右腕を回していた。


 俺が気が付いたようにして拓海も気が付いたという風に俺に視線を流し、俺は彼の背中から自分の右腕を剥がそうとした。


「僕がアンリ君の代りに君を守る盾になろう。安心してしがみ付きなさい。」


 俺は着物が皺になるかもしれないのに、拓海の背中の布地をぎゅっと掴んだ。

 拓海は俺に掛けた腕にさらに力を込めた。

 大丈夫だという風に。


「で、では、あなたの為に僕はあなたの梟になって、あなたが望むならばいつだってふよふよ飛び回りますよ。変な実験をされない限り。」


 拓海は変な実験はしないと笑って約束した。

 たぶん、彼にとっては変な実験など無いってだけだろうけれど。


明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。


梟は烏を追う、はここで完結となります。

この後は、宗教団体教祖様の手術のために晴君が誘拐される事件があったりと。


2022/1/4 角二封筒だと!→長三封筒に直しました。

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