報連相が終われば 烏の駆除の実行開始
十二月三十日の夕方、地域の掲示板、それも人の悪口が多く書かれている場所に、阿栗が自殺したいじめの加害者として、野川舜と高野和泉、そして小塚の腰ぎんちゃく峰谷蓮音の名前が書き込まれた。
すぐに削除されたが、翌日の早朝には、彼ら三人の顔写真がその掲示板に貼られたのである。
自宅住所と電話番号も一緒に、だ。
それらが削除されたそのすぐ後に、峰谷が、小塚瑛司に、お前は大丈夫なのかと不安を吐露するメールをしてきた。
どうして彼だけ無事なのか、峰谷は疑問を強く持っているのだろう。
地域の掲示板だけでなく、全国的な掲示板に虐めの主犯だと電話番号も転載されてしまったのだから、固定電話のある彼らの家の電話のベルはひっきりなしになり続けていると言う有様なのだ。
そこで俺は、峰谷に安心するようにとメールを打った。
「この間のゲームが俺のせいになってたじゃない?お前らが勝手にやったんだろ?罰ゲームだよ。」
「てめえ、ふざけんな!阿栗はお前がやってたんだろうが!」
峰谷はお怒りだ。
しかし、小塚のスマートフォンのメールの新着お知らせ機能を消してあるので、彼が自分のスマートフォンでメールを確認する事は無い。
通話も小塚が自分から掛けない限り、相手から掛かって来ることは無いように俺が設定してあるのである。
よって、小塚のスマートフォンを通した俺とメールをし合った峰谷は、俺の返信を受けてすぐ、小塚の個人情報を町の掲示板に載せた。
こいつこそ阿栗いじめの主犯だと、ご丁寧に阿栗に小塚がプロレス技をかけている写真まで一緒にだ。
うつ伏せになっている阿栗は右腕を小塚の足によって固定され、左腕をひねられているという姿で、それは固定されている右肩にこそ酷い痛みを伴いそうな技であった。
二度ほど脱臼しかけた右肩はこれによるものか。
俺は舌打ちをしていた。
記録媒体がスマートフォンから抜かれてしまっていては、いくら俺でも掘ることは出来ない。
記録媒体が差し込まれた時点で適当なクラウドにデータ転送するウィルスを、俺は今後構築しなければ。
「さて。年末年始の忙しい時期に大変だな。せっかくの冬休みを友人と遊びに使えないなんて。いや、冬休みだからこそ、彼らを個別に管理出来て楽だった。」
いじめをする人間は個人では何もできない。
スマートフォンのカメラを起動して峰谷以下三名を監視してみたが、彼らは互いにどうしようというメールを送り合うだけで、現在自宅の自分に襲いかかっている嵐に縮こまって脅えているだけだった。
どうして突発的な何かが起きた時、虐め脳の奴らは建設的な対処方法などを全く思いつけないのだろう。
まさに、烏そのもの。
賢いとピックアップされても、彼らの行動様式が変わることはない。
「だけど、烏は愛情深いんだよね。」
俺は最終目標の小塚に全てを切り替えた。
町や友人、そして自分にこそ嵐は襲っているのに、俺によって何も知らない状況にされている小塚は、呑気に始終アプリゲームをしている。
ゲームの為にスマホを起動して覗き込む小塚。
お陰で、俺は彼の家庭内の様子を彼のスマートフォンからいくらでも盗撮盗聴させてもらっている。
これから昼飯だという、幸せな家族の団欒風景。
仕事休みだからか昼間からビールを空けている男は、炬燵の向かいに転がる息子に声をかけた。
「お前は阿栗と関係していないのか。」
「あんなよそ者。きどってみんなに嫌われているだけだよ。俺は二年ときに遊んでやっただけで、いじめなんかしてないよ。」
「まったく。よそ者はこっちの流儀を知ろうともしないからな。俺達のお陰で住まわせてもらっているぐらいに感謝しろってんだ。」
「だよねえ。火事や災害になっても知らないよっと。」
今までに盗み聞いた親との会話の音声から考えるに、小塚は自分が町の偉い奴の息子で、自分に逆らえば町に住んでいられなくなる、その程度の認識しか無いらしい。
小塚がそういう考えなのは、彼と会話している彼の親も似たような思考だからだろうか。
俺達が町の要を担っている?
全国の消防団は真っ当に活動しているのが殆どだが、地方の、それも片田舎の分団となると、意外となあなあな活動になっているようだ。
小塚の父親のスマートフォンによると。
「煩いゲーム音声がそろそろ耳について来たし、そろそろ実行ボタンを押しますか。この父親もこの地域にいらない人じゃね?と俺は思いますので、気兼ねなく押させてもらいますよ。ねえ、小塚君?君達がいなくなればこの町は風通しが良くなって、もしかした人口が増えるかもよ。」




