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異世界の伝説の勇者が転移して俺になった、らしいので、俺の現状を打破して無双してくださるそうです  作者: 蔵前
決の章 俺達は梟のプライドを持ち、烏に襲われたって羽を休めない
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冬休み前には片付けなきゃいけないこと

 拓海より退院の許可が出たのは、十一月になってからだった。

 俺は三か月は学校に行っていない、そんな長い入院生活であったが、大した請求が自宅にはされなかった。


 その理由は、高額医療費の限度額申請とかあるから、だけどね。

 だけど今後も経過観察な通院もあるし、検査だってあるだろう。

 しかし、そこは免除されるってことだ。


 そっちの理由は、――俺が拓海先生のモルモットだからです。


 研究費ですか?

 俺の症例を論文にするから?

 新たな治療法に関しての治療行為への承諾書を書いてくれれば大丈夫?

 あ、死んだ場合の検体の承諾書だってあるじゃないか!


 俺は死んだらガラス瓶でホルマリン漬けにされて、祥鳳医科大学の資料室の棚に飾られちゃったりするのですか?


 俺はふざけるなと言いたかったが、両親は一も二も無く簡単にサインした。

 それもそうだろう。

 曽根家は一家離散。

 林田家は両親が離婚し、林田はやはり根津と同じように母親に連れて行ってもらえなかったそうで、父親の左遷に伴ってどこぞの地方へと流れて行った。

 今泉も母親と共にこの土地を去った。


 と、なると、今後の腹の傷を治すための治療費代となる慰謝料が手に入らないと、両親がパニックに陥るしかないのである。


 だが、そんな状況に置いて、今泉の母親だけは真っ当だった。

 彼女は大学病院を辞めた後、他県に移住する前に、三家族に課せられた慰謝料の分担分をきっちりと我が家に差し出してきたのである。

 今泉家の自宅マンションが不動産屋によって売りに出されていたので、彼女が払った慰謝料の内訳にはマンションを売った代金も含まれているのだろう。


「林田家も曽根家も!私から逃げおおせると思うなよ!」


 三家の状況変化に対し、呉崎弁護士は二家に対して咆哮をあげていた。

 俺は彼女のその猛り具合を目の当たりにしたことで、曽根家と林田家に関しては、呉崎弁護士に丸投げすることに決めた。


 いいだろう、俺にはやることがある。

 アンリがしそびれていた、臆病で汚れ切ったどぶ鼠の駆除だ。

 ドブネズミは放っておけば疫病をまき散らす。


「蒲生君、英語の弁論大会の出場おめでとう。冬休みは一緒に東京だね」


「先生もお忙しいのにありがとうございます」


「いやいや、誉れだよ。選出されるなんて、君!」


 俺は俺を褒めてきた校長に笑みを返した。

 季節は十二月。

 俺が学校に戻ってから一か月たっており、谷繁が担任を外れた代わりに上杉が俺のクラスの担任になっている事から、俺は普通に学校に通えている。


 誰にでも怖いと生徒に嫌われていた教師は、誰にでも同じように叱り対応できるからだったからと、俺の上杉に対する評価はうなぎ登りだ。


 また、俺の一番の心配ごとの北沢は、俺が学校に戻る前に養護学級がある学校の方へと転校していた。

 俺が不在の間に、一年生の男子を殴っただけでなく、その子のズボンを脱がそうとしたらしい。

 うーん、怖いね。


「明日の朝礼で君にスピーチをして貰う事になっていたが、大丈夫かな?」


 あ、校長と話し中だった。

 俺は笑顔で校長を見返し、もちろんです、と優等生の顔で答えた。

 そう、優等生だ。

 かっての俺は、どんなに勉強しようとも問題の意味が解らなくてテストなど解けなかったのに、手術後の俺は、問題なく問題が解けるようになっていたのだ。


 拓海は、失読症もあったのだろう、と俺に言ったが、本の内容は自分で読んで理解しているのに、テスト問題の文章を理解できなかった事は腑に落ちなかった。


「君は情報を収集する能力は高かった。それを自分なりに引き出せる努力もしていた。でもね、君は会話で相手にすぐ言葉を返す事が出来なかったでしょう。これと同じように、初見の文章から君の脳の中にある情報を引き出すことが君には難しかったんだと思うよ」


「納得です」


 拓海はにっこりと笑い、その後は俺に家庭教師を付けた。

 拓海が家庭教師と言っているだけで、厳密には家庭教師じゃないだろう。

 俺が病院の図書館に学校の放課後に毎日通い、そこで大学の学生や忙しいはずの研修医さんから勉強を教えて貰うのだ。

 大学教授という権力者には、研修医も学生も何でも従う奴隷となるらしい事に、俺は本気で驚きだよ。


「いいの?学生さんを私物化して。研修医さんも疲れているのに可哀想」


「君がどこまで伸びるか試したい。彼らも君の観察をしての報告もさせているからね、研究の一環でしかないからいいんだよ。僕の論文に名前を入れてあげるって言ったら、もう大喜びだもの。大丈夫!」


 本気で俺をモルモット扱いである。


「ちょっとは気遣いある言い方で俺を安心させてほしいです」


 俺は拓海にその時はそう言い返していたが、ただし、医学生に勉強を教えて貰える環境になれば、公立の中学校だったら一気に成績が上がって優等生となれるものなのだ。

 弁論大会用に書かせられた英文だって、添削してくれた人達がいてこそ、だ。


 結果として、俺は拓海の行動には感謝しないといけないのである。


 有咲も大会出場者に選出されており、冬休みは一緒に東京だね、そんな風な嬉し恥ずかしメールも貰えたからだ。


 なんと、勉強したいから学校に行くと俺に言って見せた有咲は、彼女こそ勉強はできる人だったのだ!

 同じ学校に行こうなんて、気楽に彼女に言っちゃった俺を殴ってやりたいよ!

 県内一の高校に行くよって、俺に高望みしすぎだよ、有咲!

 君の俺へのお世話は、まず崖から俺を突き落とす事かい?


「浮かない顔で、心配事かな?」


 あ、まだ校長とお話し中だった。

 俺はわざとらしく杖を持った手に力を込めてバランスを崩して見せ、それから校長に大丈夫と言う笑みを見せた。


「緊張で足がガクガクしているようです」


 校長は笑わなかった。

 俺の左足が悪いのを知っているからだ。

 校長は自分が笑わなかった事も、俺の笑えない冗談も無かったことにしたいらしく、俺の目の前からそそくさと消えた。


 俺は詰まんないと思いながら、自分のスマートフォンを取り出して画面を覗き込み、杖を持つ左手は左側のポケットに甲を当てて硬い質感を確かめた。

 アンリが大事にしていた俺のガラケーは、外に出る時には俺のポケットに必ず入れて携帯しているのだ。

 アンリがいないからこそ、アンリを見習って、だ。


 だって、危険はどこにでもあるって言うでしょう。

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