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異世界の伝説の勇者が転移して俺になった、らしいので、俺の現状を打破して無双してくださるそうです  作者: 蔵前
決の章 俺達は梟のプライドを持ち、烏に襲われたって羽を休めない
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君こそ抱えているものがある、ね?

 俺が変わっていないといつも有咲が言うが、幼稚園時代の俺は失語症の上に赤ちゃん言葉のようにしか喋られない言語障害も抱えていたのでは無いのか?


「俺は動作も鈍い変な子で、君にはずいぶん面倒をかけていたのに?今は手術のお陰で楽に話せるようになったけど、あの頃は俺が何を言っているのか君はわかんなかったんじゃないの?」


 有咲は腕を組み、うーんと唸って悩んだ振りをした。

 普通に過去を思い出しているだけか?


「やっぱ、何を言っているかは分かっていたよ。お前さ、喋られる言葉と喋られない言葉を自分でわかっていたもん。子供のくせに、いっぱい言葉知っていたよ。で、あんまり喋らないけど、喋る時にはきつい一言をしゃべるんだよ。」


「それって、嫌な子だね。」


「でもさ、曽根がお前をぐずって罵った時、君になるならぐずでいいって答えてさ、曽根が泣いちゃったことは覚えている?」


 俺は首を横に振った。

 忘れていて勿体無いと思いながら、だが。


「でさ、晴君はあたしに迷惑かけたって申し訳なく思っているみたいだけどさ、そんなことは無いんだよ。あたしは晴君のお世話をする事でね、女の子達のグループに入れてもらえた気がするんだ。みんなで晴君を守ろうの会。そんでさ、晴君がいなくなったからね、あたしは女子グループから外れちゃったのかも。」


 俺はミミズを咥え、有咲のようにちゅるんと吸った。

 北沢の父がかって教えてくれたように、舌で音を立てたりと舌を動かす練習をしてきた事で、ラーメンやそばにうどんも普通の人みたいに啜れるのだ。

 そして俺は無表情ではなく、自慢そうにしてミミズを咀嚼してみせた。


「何の真似かな?」


「君が助けてくれたから、俺はいろいろできるようになったよ、そんな褒めてって行為かも。グッボーイって言ってくれてもいいよ。」


「あはは。凄い馬鹿だ、ほんとうに、ばかだ。あたしこそ馬鹿なのに。」


 有咲は犬のお座りのような格好になり、両目からはほたほたと涙を零した。


「アリサ。」


 有咲はすでに涙をぽろぽろと零しているが、口を真一文字にしている様は幼児がこれから大泣きをする数秒前の顔のようでもある。

 俺は有咲の通学鞄を引っ張ると、勝手にその中のものを取り出した。


 有咲が俺を止めないのは、有咲が自分で告白するよりも俺に自分の罪を知って欲しいと考えているからであろう。

 どうして俺がMRIを受けているまさにあの日のあの場所に、曽根が銀玉鉄砲を持って襲撃したのだろうか、という告白だ。


 有咲のノートや教科書には、俺の教科書と同じような、心無い罵倒という落書きの洗礼を受けていた。


「猫殺し?意味が分からない。東病院には君の従姉が働いているし、それで君がミッチ達に俺のMRI行きを教えたかで、曽根の耳に入ったのだろうと言う事は理解しているし、実にそれはどうでもいい事だからどうでもいいけど、この猫殺しは本気でわからない。猫を殺していたのは曽根だよね?」


「どうでもいいんだ?」


 有咲は俺の言葉で肩の荷が軽くなったという風ではなく、俺を責める口調で、もう一度、どうでもいいんだ?と言い募った。


「うん。俺は曽根に腹の傷の仕返しをしてやる覚悟でいたし、いるんだ。だから、ああいう状況で襲いに来てくれた事には非常に感謝している。どこから見ても俺が被害者で、曽根が馬鹿、という状況だったでしょう。」


 有咲は目を丸くして俺をまじまじと見つめた後、今度こそうわんと子供のような大声を上げて泣き出した。


「ちょ、ちょっと。アリサ!」


「あたしはちぃちゃんを捨てていない。あたしこそちぃちゃんを大事に飼ってあげたかった。だって、ちぃちゃんを飼ってから、あたしはまた女の子達の輪に入れて貰えるようになったんだもの!」


 有咲はベッドに突っ伏した。

 俺は泣く彼女の背中をポンポンと叩きながら彼女の話を聞けば、どこもかしこも彼女に悪いところなど無い話だった。


 まず、ミッチ達の五人グループが、猫風邪と皮膚病の小汚い仔猫を見つけた。

 少女達は可哀想と連呼するが、誰もその仔猫に触れることは出来なかった。

 そこに有咲が通りがかり、当り前だが有咲はその猫を素手で抱き上げ、少女達に称賛された。


「あたしがこの子を病院に連れていくし、あたしが飼うよ。」


 すると、翌日の学校で、少女達は自分達が見つけた猫だからと、餌代ぐらいは割り勘にしたいと有咲に申し出てきたのだという。

 有咲は彼女達の責任感の強さに感動したが、彼女達は言葉通りに餌を持って有咲の家を訪れ、その日からみんなで猫を可愛がって育て合っていたのだという。


 学校でも自宅でも友人に囲まれる、それは俺を守っていた幼稚園時代に体験した幸せだった集団行動そのもので、有咲にとってかけがえのないものとなった。

 日直だからと友人達に自宅の鍵を渡し、自分一人自宅に戻るのが遅くなったその日までは、だが。


「ちぃちゃんがいなくなってたってみんなに叱られた。面倒になって捨てたんでしょうと言われた。そうじゃなくても、あんな小さな子を逃がす環境にしていたなんて無責任だって言われた。」


 仔猫は有咲の家から消え、その日から有咲へのいじめが始まったようである。

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