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どうしてそうなった

「すぐに終わるよ。」


 スピーカーから楢沢医師の静かな声が聞こえ、それを合図に俺達が横たわる板のようなベッドはゆっくりと筒の中に移動していった。

 俺達は狭いカプセルの内部に入れ込まれ、俺達は同時に目を瞑った。


 ごおおおおおおおおん。


 耳障りな大きな機械音が俺達を襲い、俺はこの音で自分の胸がビクンと脅えて鼓動したのが分かった。

 それで俺達は胸に痛みを感じ、俺の右手は無意識に胸に当てられた。


 その姿は、この先の希望を胸に抱く俺がとるべきポーズに見えた。


 そうなのだ。

 大いなる希望を抱いているのは俺こそなのである。


 この検査で俺の頭の中の悪い所が見つかったら、きっと拓海医師がそれを取り除いてくれるのだ。

 そうしたら俺は足を引き摺ることなく風を切って走り、楢沢医師と拓海医師のように人と楽しく掛け合いの会話が出来るのだ、と。


 アンリが俺に変わってから、晴純が誰とでも上手にコミュニケーションがとれている、ようにして、俺もきっと会話を楽しめることが出来るのだ。


「お前と俺はちゃんとコミュニケーションがとれる会話が出来ているけどね。」


「それは俺達の意識が繋がりあっているからでしょう。」


「そうかな。あのアリサちゃんも言っていたじゃないか。喋り方は昔のまんまって。幼稚園時代のお前は赤ちゃんみたいな喋り方がだったかもしれないが、お前と仲良くしていた人間達には、お前の言葉はちゃんと伝わっていたんだと思うよ。」


「そんなこと。」


「喋ると辛辣。ハハハ。女の子達にそんな風に評されるお前はどんなお喋りをする幼稚園児だったんだろうな。」


「そこは勘違いじゃない?」


「君、そこから出てってくれないか?」


 楢沢医師の厳しい声がスピーカーを通して聞こえ、俺は自分がMRIに映り込んだのかと思って吃驚して目を開けた。


「何をしているんだ!何をしようとしているのかわかっているのか!」


 楢沢医師の声は悲鳴に近いものに変わっていた。

 俺は筒状になっているMRIから身を起こして通り抜け、そこで、俺達が横になていた装置の真ん前に立っている人物がいる事を知った。


 両腕に包帯を付けている曽根が、俺に銃を向けていたのである。


 モデルガンと言うには安っぽすぎる玩具の拳銃は、MRIを受けている人間には危険この上ない金属の玉を発射できる銀玉鉄砲だ。


「おまえばっかり、おまえばかり!俺はこの顔で生きて行かなきゃいけないのに、お前は隠せる腹の怪我を治せるんだな!俺の家の金で!」


「やめてえええ!」


 ばちっ。


 俺の叫びで大きく天井で火花が散り、もともと暗かった検査室が地下世界のような暗がりに変わった。


「やめてええええ!その機械が何億するとおもっているのおおお!」


 楢沢医師の悲鳴に近い、いや完全なる悲鳴に、曽根は一瞬怯んだ。

 が、彼は再び銃の狙いをMRIに向けた。

 しかし、そこにはすでに俺の姿が消えている。


「畜生!どこに行きやがった!畜生!俺はこんな顔になってしまったのに!」


 曽根は顔の左右に貼り付けられている大きなガーゼを、皮膚を引きちぎるようにして、ビリ、バリと、一気に剥がした。

 暗い検査室がホラー映画の舞台のようで、そのせいなのか曽根の顔が映画のゾンビのようだと俺は思った。


 怪我のせいで生えなくなってしまったのか、彼の左の眉毛の半分が盛り上がったピンク色の無毛の皮膚となっている。

 両目の下となる両頬はさらに悲惨だ。

 腐りかけたゾンビの肌のような、赤黒い穴だらけなのである。


「どうしてそんな風になっているんだ!君は一体何をしたんだ!」


 スピーカーから聞こえた怒号は、やはり、曽根の担当医であっただろう楢沢医師の声だった。


「自宅で君は一体何をしたんだ!」


「うるさい!ヤブ医しゃああああ!お前のせいだああ!お前の薬に毒がはいってたんだああああああ!」


 曽根は銃を持つ腕をMRIではなく別の方向に向けた。

 大きなガラス窓がはめ込まれた壁がそこにあり、楢沢と拓海が控えている小部屋がそこにあるのである。


「お前のせいだあああああ!」


「いや、全部お前のせいだろ?汚い指だな。」


 曽根の横にアンリはすっと現れると、右腕を曽根が伸ばしている両腕に向けて思い切り振り下ろした。

 無情な切断機のようにして。


 ガツン。


「うわああああああ。」


 曽根は両腕を万歳するように上げて膝を折って床に沈み、アンリは曽根の頭ではなく体の横を思いっきり蹴り飛ばした。


「うあっ。」


 曽根は苦悶の悲鳴を上げたが、ごめんアンリ、その足は俺の足でしかない。

 力の弱い俺の足で蹴られただけの曽根は、そこでほんの少しだけ冷静に戻り、だが両腕の鈍痛による怒りに煽られるままアンリに殴りかかろうとした。


「豚が邪魔だったから蹴っただけだよ。」


 アンリは銀玉鉄砲を拾い上げたところで、その銃でもって曽根の腕を殴った。


「ぎゃあ!」


 再び曽根は叫んで沈み込み、薄暗闇の検査室には明るい光が差し込んだ。


「お見事、と褒めるべきなのかな。」


 開け放たれた検査室の戸口には楢沢が立っており、彼は俺達を助けに駆け付けてきたようだった。

 で、拓海医師は?


「晴純君中に戻って。続きをしよう!君の脳はあり得ない場所がキラキラしているよ!」


 あの人に俺を預けて大丈夫なのかな?

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