表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/176

幼稚園時代のアリサちゃんが言う事には

 江藤有咲えとうありさは晴純が幼稚園時代にはモテていた、そんな爆弾を俺達に落とし、当り前だが俺達は爆弾によって混乱していた。


「え?」


「て、ゆうかさ、うっとうしい奴がいてね。お前弱いじゃない?だからお前を男子の底辺だと思っていたのかね。俺と晴純のどっちが好き?って毎日女子に聞いて来る奴がいたんだよ。」


「え?」


「そいつと仲が良かったミッチが最初に聞かれた人なんだけどさ、なつめくん、なんて答えたら抱きしめられてキスされちゃったの。もうミッチ大泣き。それを見ていたあたしらは思った訳だ。聞かれたら絶対に、晴くんって答えようって。」


 俺は乾いた笑い声をあげながら、アリサに手を差し出していた。

 アリサも俺の意図が分かったか、ハハハと笑いながら大袋の菓子をあと二個だけ差し出してくれた。

 安いな、晴純。


 けれど、晴純は過去の自分のモテ期があったことやその真実を知った事にこそ大受けで、幽体の癖に腹を抱えて転がって笑っていた。

 俺もあっけらかんと話してくれたアリサには好感しかなく、彼女ともう少し話がしたいと思った。


「……それで俺がモテてたんだね。」


「そう。だけどさ、あたしらも頑張ったんだよ。そいつしつこい上に乱暴な奴だからね、あたしらのせいで晴くんが虐められちゃ可哀想じゃない?それで女子全員で晴君を守っていたんだけどさ、小学校の学区違ったじゃない?曽根がそっちに行ってあたしらはホッとしたけど、曽根とは一緒だったんでしょ?そんで、あの、大怪我させられたって聞いているよ。」


 俺はここで彼女を巻き込むのはどうかと考えた。

 晴純と違い彼女はこの地元で友人の輪をちゃんと構築しており、彼女のネットワークで晴純の現状を伝えるのはどうなのかと考えたのだ。


 けれど、こんな気立ての良い女の子に、罪悪感、を抱かせて自分のシンパに引き入れるのはどうなのだと、俺の良識が初めて俺に囁いたのである。


 最初にお前が動いていれば、俺は裏切りの中に死ななかっただろうにな。


 晴純は俺が一番悪人だと笑うが、本当にそうなのだ。

 役に立つか立たないかで俺は人を見て、使い操って来ただけなのである。

 妻との最初の子供が生きていたら、俺は変われたのかもしれない。

 いや、だからこそ、晴純を死んだ子供に重ねて助けたいと思ったのだろう。


 アリサは病室に現われた時と違い、自分達のせいで晴純が今まで苦しんでいたと思い悩む姿を見せてきた。

 俺はそんなアリサに対し、出来る限り晴純にできる良い笑顔を作って返した。


 晴純の今後の為に。


「はれ、くん?」


「俺もそっちに行けていたら良かった。ほら、曽根って普通にヤな奴でしょう。俺が本格的に嫌がらせを受ける事になったのは小四からだけどね、その三年間は別の人を虐めていたよ。そういう奴なんだよ。しつこくて嫌らしい奴。」


「ありがと。あたしらのせいじゃないって言いたいんだね。」


「アリサさん達だって迷惑していたんでしょう。アリサさん達のせいである訳ないじゃないですか!」


 彼女は笑いながら大袋をそのまま俺に押し付け、俺は押し付けられたその大袋を反射的に両手で受け取って、その動作で胸の傷が痛んで体が硬直した。


「隙アリ。」


 アリサは俺のパジャマの裾を捲り、俺の腹を白日の下に晒した。

 彼女はそこで動きを止め、俺は彼女の手からパジャマの裾を取りもどした。


「……ひどいな。ごめん。軽い気持ちで、その、ごめん。」


「……やった事にはちゃんと償いをして貰う。だから大丈夫、だよ。」


「……みんなに言っとく。曽根は変態だって。あの親父が働くあの店で車検するのは止めろって、お父さんにも言う。」


「いや、それは困るな。傷をキレイに治す治療費を払って貰えなくなる。」


 アリサは俺の返しにヒヒっと笑い声を立て、お主は悪だな、と言った。

 それから俺のスマートフォンを勝手に取り上げると、俺に投げるように手渡し、お友達申請するぞ、と偉そうに言った。

 俺は喜んで彼女の言いなりになったが、彼女は俺が言う通りにした事に満足したのか帰ると言い、俺に押し付けていた菓子の大袋を俺から取り上げた。


「え、全部くれたんじゃないの?」


「やったじゃない。四個。これあたしの好物なんだよ。」


 彼女はそれでさっさと病室を出て行ったが、彼女が消えた後には、晴純のスマートフォンにはメールが入っていた。


「また来てやるよ。」


 俺は晴純の為に喜んでいるのが一目でわかるスタンプで彼女に返したが、晴純は自分はそんなスタンプは絶対に使わない、と俺を怒った。


「まるで勝手にホワイトデーにお返しをする母親みたいだ!」


 俺はそんな気持ちなんだよ、まさに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ