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君の名は?

 昼飯を食べ終わったあとに俺がうつらうつらしていると、俺の病室、驚いた事に個室という贅沢なのだが、そこに誰かが入って来た気配があった。

 看護師だろうと再び目を瞑ったが、ベッドに近づいてくる足音が大きくて看護師では無いと目を開けた。


「?」


 何も声が出なかった。

 隣りの学区の中学の制服を着た見ず知らずの女の子、身長は百六十センチ近くあり、蒼星の彼女のように華奢なイメージは無い、逞しいと表現したくなる体つきの少女が、いまや目を開けた俺を見下ろしているのだ。


 長い髪の毛は適当に一つ髷にして後ろに結い、大きな目は綺麗なアーモンド形の二重で、美人と言ってもいい顔立ちだが、なぜか可愛いもきれいも俺の頭には浮かばなかった。

 短いスカートから出ている足がまっすぐで綺麗だったが、今どきの女の子の足の細さでない所で全く嫌らしくも感じなかった。


 健康的で逞しい女の子だなあ、それだけだ。


 相手が晴純ぐらいの年齢だから、俺の女性アンテナがぴくりとも動かないだけなのだろうか。

 いや、冒険者を誘う夜の店にはこのぐらいの子供もいたし、目の前の女の子は制服越しでも胸はそれなりにあるとわかる姿ではないか?


 俺に全く色気を感じさせない少女を俺は訝しく見つめると、その少女は俺がそう感じる答えであるかのように、ギルドで出会う若き冒険者の少年みたいな無邪気な笑顔を見せた。


「久しぶり。晴くん。覚えている?あたし、アリサ。」


 俺は病室を見回して、ふよふよ君が消えているんじゃなくて、彼こそ腕を組んで病室への来訪者に首を傾げているのだと知った。


 覚えていないのかよ!


「ごめん。覚えていない。陰キャな俺がこんなキレイな人の知り合い無いです。」


 逞しい女の子は、第一印象通り、ぶはっと吹き出して豪快に笑い出した。

 勇者の旅の仲間の、戦士やドワーフの親父みたいな人だなあ、と、俺は女の子である本人が知ったら傷つく様な事を考えていた。


「あの?」


「そっかあ。晴くんは外見もそう変わっていないし、喋りは幼稚園の頃のまんま、喋ると辛辣、そのまんまなのにねえ。そっかあ、あたしは変わったのかあ。」


 アリサさんは忘れ去った晴純を罵るどころか、さばさばと受け入れ、それどころか無能な俺達の為にスマートフォンの画面を見せてくれたのである。

 長い髪が腰ぐらいまである華奢な妖精みたいな女の子は、幼稚園で晴純が一番仲の良かった女の子で、江藤有咲えとうありさちゃんだと、一緒に画面を覗いた晴純が声を上げていた。


「ごめん。アリサさんでしたね。妖精だった子がモデルみたいにキレイになってたらわかんないよ。」


「それさ、デカくなりすぎって実はディスってねえ?」


 俺と晴純は同時に笑っていた。

 初対面に近い彼女の気安さや、きっと気遣いもしてくれるから、俺達が笑えるのだろうと彼女に感謝しながら、だが。

 幼稚園の時も彼女は障害のある晴純を気遣い、晴純を他の園児の意地悪からも守ったりもしてくれたという恩人だったのである。


「いや。本当に、ごめん。大恩のあるあなた様を忘れてしまいまして。」


 そこでどさっとベッドが軋んだ。

 座ってもいいと尋ねることもなく、アリサが適当に腰かけたのだ。

 彼女は通学用の鞄を開けると、中から大袋菓子を取り出して封を開け、中に個包装で入っているウエハースチョコを二つ取り出して俺に手渡した。


「ほい、見舞い。」


「ありがとう。」


「でさ、今日見舞いに来たのはさ、なんか、謝った方がいいんじゃないかな、とか、ミッチ達と言っていたからもあるんだよね。」


 俺は隣りにいる晴純本人に目線を動かしたが、やはり晴純はミッチなるものを知らず首をぶんぶん横に振っていた。


「……すいません。ミッチだれですか?」


 アリサは、記憶喪失かよ、と俺を罵ると、スマートフォンを操作して新たな画像を俺に見せつけた。

 幼稚園の集合写真であった。

 写真を見て晴純の思い出が流れ込んで来た。

 女の子達に囲まれてままごとをしている彼の記憶だ。

 互いに成長した後にこのプレイだったら、俺は一生晴純として生きてもいいなあなんて助平なことを考えるぐらいの、晴純にも幸せだった時間の記憶である。


「ミッチはこの子で、ゆうこにひなにまゆと、ええと、面倒だけど、このクラス全員の二十五名の中で、十六名の女の子達全部がお前のファンだったんだよ。」


 俺はそんな栄光時代があった晴純を見返したが、晴純こそ自分がモテていたらしき過去話に、覚えが無いよ!と頭を抱えて混乱していた。

 記憶喪失、かよ?

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