リンクした世界で起きた事
もうすぐ命が終わるからか、俺は考え無しな事をしてしまった。
布袋に片付けていたしなびた魔法の種、自白剤とも興奮剤とも、あるいは毒薬そのものなのかもしれないが、とにかく倒したばかりの魔女の隠し持っていた術具だった。
「食わなきゃ死ぬんだ。どうせ死ぬなら、少しぐらい腹を満たして死にたいよな。腹が満ちるかは疑問だがな、はは!」
俺は自分の下腹を見下ろして、腸が出るぐらいに見事に裂けているなと、軽く笑った。
戦闘後の高揚感と、死を迎える程の怪我によるショック状態の為か、俺は自分が負った怪我に痛みなども感じなかった。
ただ、裏切られて取り残された自分の人生のむなしさを感じただけだ。
「人質だと思っていたあいつこそ裏切り者だったとはな。」
勇者として名を馳せて、それなりの国に招かれて、その国の姫と娶わせられた。
しかしその行為は、俺を国の盾にする目的と、俺がそこいらじゅうの魔物を倒してはかき集めていた宝物狙いであった。
「最低だな。まあ、一国を滅ぼしてやったんだ。俺の子供が腹にいると嘯いた魔女も殺してやった。ああ、本当にあの女にははらわたが煮えくり返る。ははは、俺のはらわたは体からこんにちはと出ているがな!」
俺は毒薬となる亀の卵サイズの種に齧りついた。
ぐす。
俺は鼻を啜り上げる音に顔を上げた。
俺の正面に少年がいた。
まだ幼い、子供にしか見えない少年が、涙をぽたぽたと流しながら俺が齧っているものと同じものを齧っているのである。
日常的に殴られているのか、片目の瞼が垂れ下がり、顔の表面は薄く黄色や青い色で色とりどりだ。
俺よりも不幸な子供が目の前にいた。
「俺が死んだら、お母さんもお父さんもホッとするんだろうな。そ、それで、俺がいない家族三人で俺がいた時にはできなかった幸せな家族だ、団欒だってするんだろうな。お、俺を虐めるあいつらだって。」
俺は少年の告白を聞きながら、慰めてやりたいと彼に腕を伸ばしていた。
少年は俺が齧るのを止めた代わりのようにして、毒の種をごくりと飲み込んだ。
そして、崩れ落ちた。
「まて!お前はまだやれるだろ!」
俺の腕は少年を掴み、死んだばかりの少年の体を抱き締めていた。




