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アンリの仕掛け

 校長は出張だったらしく、俺とアンリはとても寛ぎながら校長室登校を楽しみ、上杉先生様の計らいにより、下校を他の子供達の三十分前に早めてもらった。

 同時か後からでは、待ち伏せの危険性が高い。

 俺達は夕方には大事な用があるのだ。


「林田にボコられておいた方が真実味が増したかもな。」


「俺の身体は大事にしてね。」


「違うだろ。お前が心配しているのは俺が痛い思いをする事だ。お前は散々痛い思いをしてきているから、痛みというものを知っている。」


「うん。誰かが自分みたいな痛い思いをするのは嫌だ。でも、あいつらには同じぐらいの痛みを受けて欲しいとは思う。」


「ふふ。期待してくれ。」


 俺達はいまや、林田の父親の勤務先の受付にいた。

 俺達が林田の父にした返信は、林田の父の行動抑止が目的であった。

 あの返信を受け取った彼は、いつでも恐喝者に会えるように出張だって断るだろうし、呼び出しは絶対に受けて姿を現してくれるだろうという仕掛けである。


 林田の父は自分を呼び出したのが俺達、もとい、十四歳の俺一人だと知ると、小馬鹿にしたように笑い、自分へ送りつけた写真の件も俺の悪戯だと早合点した。


 事実だけれど。


 さて、会社の受付には片手を上げて何もないという笑顔を見せたその男は、アンリに向き直ると脅しつける眼つきで睨んだ。

 そして実際に脅しつけてきたが、受付には聞こえない低い囁き声だった。

 受付や周囲の人には聞こえない、計算された大人の囁き声、だ。


「君ね、妻や息子の言っていた通りだね。虚言癖ありの困った子供?迷惑だよ。悪戯も大概にしないと君のお父さんとお母さんこそ困った事になるよ?」


「い、悪戯って何ですか?俺こそあなたの息子さんに!」


「いい加減にしろよ?お前。」


 林田の父はアンリに言い聞かせるように肩に手を置こうとしたが、百戦錬磨のアンリは、その手によって体を突き飛ばされた風にしてよろけてみせた。


「おい!」


 驚いたのは林田の父の方で、彼は思わずの大声を上げた。

 周囲の人間には、林田の父が子供に怒鳴って突き飛ばしたようにしか見えなかったことだろう。

 アンリは注目を浴びたそのタイミングで、ぺたんと床に座り、林田の父に土下座をするようにして頭を下げた。


「もう勘弁してください。渡しますから、もう勘弁してください。息子さんに、もう許してくださいとお願いして下さい。お願いです。」


「いや、ちょっと君。」


 アンリは立ち上がると、林田の手に三万円が入っている封筒を押し付けた。

 林田は自分が受け取った封筒と同じ形状のものだと知るや、中身が俺が送った写真だと思い込み、封筒を簡単に受け取りポケットに片付けた。

 中など確かめない。

 会社のこんなところで、愛人と裸で抱き合っている自分の写真など、いくら恥知らずでも出せないだろう。


「他はあるのか?」


「もう俺には何もありません。ですからお願いします。お願いします。」


「わかった。息子には言っておく。」


「ありがとうございます。」


 アンリは林田の父に頭を下げて会社を走って出ていき、その足で一番近くの警察署に行った。

 警察署では子供の相談だからと最初は宥めて友好的に追い返そうとしたが、裸の動画を撮られてお金を渡したと言えば、生活相談課なるところにアンリは簡単に案内された。


 そこで俺達を待っていたのは、母親世代の二人の女性警官だった。

 一人はカウンセラーの資格がある人で、もう一人は純然たる警察官?だった。

 アンリは脅えた風にして、自分の相談を聞くと机についてくれた二人に対して、自分はこれからどうしたらいいのでしょうと言う風に話を持ち掛けたのである。


「お金を渡せば僕の動画を消してくれると言ったから、林田君のお父さんにお金を渡したの。自分が息子に言ってくれるって言ってお金を受け取ってくれました。だ、だから、僕の動画が消されているか確認していただけませんか?クラス全員に動画を渡したって林田君は学校で言ってきたんです。そ、それで、さ、三万円渡したので、林田君の他に二人分は消して貰えるはずですよね。け、消して貰えたらあとは全員分払いますから!」


 アンリはスマートフォンを取り出すと、ガラケーから転送しておいた学校での林田の台詞の録音と、ついさっきの林田の父とのやり取りの録音を聞かせた。

 今泉のは聞かせない。

 手札は全部出しきる必要は無い、とアンリは言っていた。


 だがこれだけで警察は動いた。


 女性警察官達は俺の言い分を専用の用紙に書き込むと、俺にその内容を確認させ、その後に誰かを呼び出す内線電話をかけた。

 相談室に顔を出したのは、三十代半ばくらいのスーツ姿の刑事と二十代の制服姿の警官という男性の二人組だった。

 彼ら二人が俺の付き添いとなって林田の父の会社へと俺達は向かい、俺ではなくスーツの刑事一人が颯爽と受付に行き、林田の父を呼び出したのである。

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