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波紋の結果

 ようやくの金曜日、俺達が投げた小石による影響の結果が分かった。

 まず、林田の父から写真を受け取ったとの確認メールが届いていた。

 時間にして、本日の朝の六時半、だ。

 写真の隅に俺達は捨てアドも印字しており、林田の父は自分の素敵写真について恐らく一晩かけて悩んだ上で、そのアドレスに返信して来たのだろう。


「いくら払えばいい?」


 アドレスの印字以外何の脅し文句も入れていなかったが、そのために林田の父は自分自身の経験上、俺達がそれを求めていると勘違いしたのかもしれない。

 また、捨てアドは林田父のアドレスから作ったものであるので、彼にとってはとても皮肉なものだと言える。


「感性の汚れた奴は簡単に踊ってくれる。」


「でもアンリ。治療費は絶対に欲しいから、まんざら間違った誤解ともいえない、かも。」


「うわあ、俺の可愛い晴純が汚れてきちまったよ。」


 俺達は本日中に連絡するとだけ送信した。

 だって日中の俺達には学校があるもの。


 うん、学校に行った方がいい。


 今朝の朝食のテーブルには、味噌汁にベーコンエッグサラダ添えという、蒼星と同じメニューが俺の為に用意されていたのだ。

 それだけでなく、いつもと同じように蒼星の対面に座っている母が、俺に温かなご飯を差し出すという行為をして見せ、蒼星など、今日に限って黙って最後まで食事をとったのである。


 つまり、父はいないが、そこに家族の団欒があったのだ。


 学校に行かなければ。


 俺は昨日、母を求めるのではなく打ち砕いてやると心に決めたはずだろ?

 たったこれだけで、嬉しいと、泣きそうになってはいけないんだ。


「お前はお前でいれば良い。嬉しければ喜んで、嫌だったら怒ればいい。どうして他人の思惑に付き合ってやる必要があるんだ?そいつらはお前の気持ちを一番に考えて、いざという時にお前の為に動いてくれるのか?」


「アンリ。素直に俺を慰めていいんだよ?」


「ハハハ。じゃあ、簡潔に言ってやるよ。歯を食いしばるぐらいだったら、泣くか笑うかにしとけ。お前は子供なんだ。」


 俺はまたしてもアンリに救われた。

 けれど当のアンリは無言で無駄に笑顔になることも無く、出された食事に文句をつける事もなく、黙々と口に運んでいた。

 そしてこの時間は、いつものように蒼星が立ち上がった事で終わり、蒼星は鞄を肩にかけると、鞄の中から何かを取り出して母と俺の所に一個ずつ置いた。


「甘いんだよ、それ。俺はいらないからやるよ。」


 彼はそのまま玄関に向かって行き、母は蒼星が自分の前に置いた飴を掴んで泣き出した。

 俺は蒼星の後姿を見送りながら、俺がダイニングルームに来ると必ず姿を消して来た蒼星の姿が見えた気がした。


 手つかずの朝食。

 いらないと言っては朝食を食べずに家を出て行った毎回のその行為は、俺に自分の朝食を譲るためだった、とは。


「あいつを殺したい。」


 それが俺の本音だった。

 感謝をするどころか、施しを与えられた惨めさで呪っていた。

 弟に憐れみを向けられなければならないぐらいに、俺の現実は悲惨なのだと突きつけられたも同じであった。


「それでいいよ。」


「アンリは俺にイエスしか言わないの?」


「馬鹿をしたらちゃんと叱るよ。だけどね、これはいいんだよ。お前が弟の行為にムカつくのはさ、お前がプライドを取り戻した証拠なんだ。」


 アンリは俺に言うや椅子から立ち上がり、自分の鞄を肩にかけると蒼星の後追いのようにして玄関に向かった。

 俺は幽体で良かった。

 涙を零しても拭くハンカチを心配しなくてもいいし、泣き顔のまま外に出たって構やしないのだ。


「晴純、泣くのはお終いだ。お客さんがいる。」


 俺は顔を上げた。

 家を出て数十メートル程度の地点の通学路において、俺とアンリを待ち伏せている者がいたのである。

 これがもう一つの小石の結果だろう。

 通学路の電柱の一本の脇で、今泉がたった一人で立っていた。

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