一方的戦闘行為
俺は北沢を見誤っていたかもしれない。
ベッドに寝ている人間が晴純だと北沢が思い込む、というのは目論見通りどころかそのための仕掛だが、そこで相手を確かめもせずにスタンガンを当てるとは思ってもいなかった。
ここまで見境のない人間だったとは!
だが、お陰で俺には何の躊躇もなく、子供である彼を潰すことができた。
いや、自爆か?
彼は俺を見咎めるや俺に蹴りをぶち込もうと、大きく右足を振り回して来たのである。
ここで俺が思ったのは、やばい、である。
喧嘩をした事も無い奴は、本当に自分が何をしているのかわかっていない。
てこの原理を知らない馬鹿は、やばいなあ、ハハハって奴。
無防備に伸ばされただけの足なんて、敵に捕まえられたら自分の頭部までの上半身を操られる棒にしかならないと知らないのか。
さらに言えば、誰しも自分に向かって来た足に素直に蹴られたいと思うはずなど無いのであり、避けてしまうのが当たり前なのである。
よって俺は俺の出来る事をした。
俺を蹴ろうとした北沢の右足を避けた後、彼のその足が繰り出していた勢いを殺すことなく斜め上に向かうように後押しをしてやったのだ。
足先が斜め上に向かった事で上半身ががくんと下がり、左足を支柱にして北沢の身体はぐるんと勢いよく回転した。
何もなければ反り返って片足を上げているポーズで一回転して見せただけになっただろうが、回転しきれる空間がそこには無かった。
勢いよく回った彼の身体、まさに頭部が、俺が身を隠すべく開けていた保健室の扉に思い切り当たったのである。
ガッチャーン、と。
朝の俺は自分から扉に飛び込んだが、あれはかなり痛かったなと思いながら北沢が真っ赤な血を扉にこすりつけながら扉からずり落ちる様を眺めていた。
いや、これは俺の視界では無い。
俺は北沢をかわした後にはどんな結果が起きるかは知っていたから、臆病でいじめられっ子の子供らしい演技をしていたのだ。
しゃがみこんで膝に顔を埋める。
北沢が俺が想定したとおりの自爆をしたのをしっかりと鑑賞していたのは、俺以外には見えない俺の相棒である。
ざまあ。
俺達二人は同時に呟いた。
「大丈夫か、蒲生!それから北沢!何をしているんだ!大丈夫か!ああ、市村先生には救急車を。」
この場は上杉が全て取り仕切ってくれるであろう。
では次は、間抜けに市村を待っているだろう谷繁こそだ。




