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おまけ 過保護な鹿角さんは今回仕事をしていなかった 証言者 立木学

ホワイトアウトした俺だが、救急隊による有無を言わさない洗浄を受けた事で、当たり前だがしっかり目が覚めた。ついでに隊員によって目や口内の状態を探られ、異常なしの診断と毛布を貰ってお終いとなった。


うん、下着一枚という状況だしね。毛布は無いと困る。


「異常を感じたらすぐに病院に行くんだよ」

「わかりました」


言葉通り俺は納得していたのだが、納得しない人間はどこにでもいる。


「異常が出たら遅いだろう!!この子は意識不明にもなったんだ。どうして救急車で病院へ搬送しない!!」


救急隊員を困らせるなよ、鹿角。

廃工場パーティ参加者で、俺が一番無傷に近いんだ。


「搬送患者は重症度で判断するのはあなたこそご存じのはずだ。それでは、私達は患者を運ばねばなりませんので」


「なにをって、うわっ。はれくん」

「大丈夫だから、俺は!!隊員さん、この人かまわず行っちゃって!!」


俺は鹿角にジャンピングアタックをかましていた。

そして俺と鹿角のコントみたいな情景に救急隊員さんは軽く咽てくれてから、彼は救急車の後部へと飛び乗る感じで車内へ消えた。

するとすぐに救急車は発車する。物凄いスピードで現場を去って行った様子は、まるで鹿角に引き止められたくない意思表示みたいだ。


「立木!!運転できるか!!」


え?


鹿角は毛布に包まる俺をむんずと持ち上げると、散歩で疲れた犬を抱く感じで運び始めたじゃないか。

ニヤニヤ笑う立木(たづき)(まなぶ)巡査部長が横に立つ車に向かって。


立木はどこから見ても警察官な体躯の人だが、彼から威圧感を感じたことはない。

鹿角の班の中で一番快活で気さくな人だからだろうか。

ちなみに三角は子供に駄菓子を配ったりと気さくな好青年でもあるのだが、狐顔のせいか腹にいち物絶対あるようにみえる。


さて俺が鹿角の行動に脳みその理解が追いつかず物思いに逃げていた間に、鹿角は毛布でお包み状態の俺を車に乗せこんでいた。

これだけでも俺こそパニックなのに、俺の横に座った鹿角は更に混沌化していた。


「回転灯を回せ。緊急だ。病院到着まで出来る限りの時間短縮努力を望む」


「了解です!!」


「ちょっと、立木さん!!」


「安心しなさい。晴純君。立木は交通機動隊の特殊車両班出身だ」


「いや、そういう事じゃなくて。いいんですか。こんな公私混同していいんですか? 鹿角さんはエリートですよね。キャリア汚していいんですか?」


俺は必死に言い募ったが、立木は運転しながら笑い声を立てた。

そして、鹿角は一切笑い声など出さなかった。笑ってくれた方が良かった。


「どうしたその声。喉もやられているか、あ、喋らなくていい。立木。もう少しスピード出せるか?」


「これ以上出したら事故ります」


「晴純君に後遺症が残ったら、あの救急隊員には」

「いやいやいやいや。俺はあんたの行動に焦って声が上ずっただけだから。どうしたの? なんか変な薬でも飲んだの? どうしてそんなモンスターペアレントみたいに、イノシシってるの」


「モンスターにもなるよ。私が君の保護者だ」


「え? て、あぎゃ」

「意識が無い君を見た時は、心臓が止まるかと思った」


鹿角が俺を自分に引き寄せて抱き締め、運転手の立木は大きく笑う。


「うちの大将のこんな頭が回って無い姿は初めてだよ。晴純君は凄いよ。鹿角さんたら、本気で今回全然役立たずだったからねえ」


「まさか。鹿角さんが?」


「ハハハ。三角にも聞いたでしょ。鹿角さんたら君との新生活ばっかりに夢中で、今回の案件は全部三角に押し付けちゃってるの。それでね、三角も性格があれでしょう。わざわざ先生役したのは、鹿角さんを悔しがらせるためだからだよ。俺の方がハレ君と一緒時間長い~って」


鹿角は俺を手放し、それから運転席の立木の後頭部を忌々しそうに睨む。


「黙れ立木。まったく。晴純君、君のせいだぞ。私をもっとぞんざいに扱えって三角に言うから、今や部下全員がこの通りだ」


「すいません」


でもさ、鹿角こそがろくでもない無茶してるじゃない。

覆面パトの回転灯を回して猛スピードで首都高とは。

本当に逸脱してやがる。


「あああ、今回は笑い話で済んで良かった」


鹿角は片手で自分の両目を覆う。

嘆き悲しむようなその様子に、俺が自傷行為をした日の鹿角の声が蘇る。

死にそうな俺に必死に応急処置をして、俺の血で真っ赤に染まっていく鹿角の嘆きの声だ。


どうして、こんな。

私が望んでいるのはこんなことじゃ無かった。


この人が俺を自分の庇護下に置きたいのは真実なんだよな。

やり方が強引で思い込みが激しいから、俺はごめん被りたいと逃げるけど。


だけど、俺が彼の目の前で自傷行為をしたことが、彼のトラウマにすんごくなってるのも事実だ。


俺は鹿角に、ほんの少しだけ申し訳無さが生まれた。

ほんの少しだけね。


「あの、鹿角さん」


「気にしなくていいよ。この間は銃撃戦を体験できたし、今回はこの首都高ぶっこみでしょう。俺は君関係のお仕事は夢が叶いまくりだから大好き」


…………。


「鹿角さんの部下はひと癖以上の方ばかりですね」


「君の影響かな」

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