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相談その四 カラスたちは騒めき立つ

情報は共有するべきである。

秋友は蒲生が自分を塾前で待ち構えていたらしいことについて、蒲生と別れてすぐに青葉にメッセを送った。

青葉から返信は一夜明けても無く、秋友は不安に思うばかりだったが、朝のテレビニュースにて青葉が返信できなかった理由を知った。


昨年から起きていた八件の暴行傷害事件のうち三件について、都内私立中学校に通う少年が深く関与しているものと見て警察は詳しい事情を聞いている。


「青葉は重要参考人か。友達としての付き合いが無くて良かったな」


独り言が大き過ぎたと秋友は慌てたが、キッチンには彼一人しかいなかった。

秋友はテレビの電源を落とすとラップがかけられた朝食の皿を一瞥し、そのまま椅子から立ち上がる。


「お前が食べていいよ」


再び秋友は周囲を見回す。

いるわけない。床に正座させられた黒フードなど。

そして自分の無意味な動作を鼻で笑う。

誰もいないのに、自分は誰に話しかけているのか、と。

恐らく部屋を出る時に必ず口にする言葉、行ってきます、それと同じく無意味なものだからこそ勝手に口から出るのであろう。



満員電車に揺られての一時間と少し、秋友は学校の最寄り駅に辿り着いた。

これもあと半年我慢すれば。

祥鳳学園付属高等学校は目黒区にあるので、秋友の通学時間は少々短縮されるのである。だがそれでもと、秋友は高校三年間を思って気力を失った。


中高一貫だからこそ、秋友達は中三でありながら高校一年の範囲を勉強している。

それが高校に上がった後の余裕になるどころか、高校でも先取り勉強が続く。

今度は祥鳳大学のどの学部に滑り込めるかの学力判断のためだ。

結局高校に上がろうと、秋友達が一層の努力を要求されるのは変わらない。


「本当に、呪い。蒲生が言ったみたいだな」


「久我山、話がある」


秋友が振り返れば、同クラの坂口だった。

坂口には森と永田というオマケもつく。

秋友は蒲生が机の悪戯書きに六人と言い切った事を改めて凄いと思い、すぐに蒲生を褒めてしまった自分を悔しく思った。


蒲生を空恐ろしくも感じてしまった自分もいたからだ。


彼は蒲生の机への悪戯書き行為を見ていたので誰がしたのかは知っているが、自分ではぜったいに書いた人数など言い当てられないと知っているからだ。文字こそ、一人が一つずつ書いたわけでは無い。そんな乱雑極まる机の落書きを、よくもどうして見分けてしまったのか。


「おい、久我」

「なんだ?」


秋友はそっけない口調で返した後、何事も無い風にして歩き出す。

坂口はその隣に並ぶ。


「青葉の事聞いただろ?」


「ニュースで見ただけ。やっぱ青葉だったか」


「お前らつるんでいただろ。何か聞いていなかったのか?」


秋友は坂口の心配が青葉ではなく、青葉と繰り返していた暴力行為の仲間として自分の名前が挙がることだったのだと気が付いた。彼らは血に飢えていた。狩谷の父親を追い回して鉄パイプで殴って遊んだあの日を忘れられ無いのだろう。


秋友は思った。

最後まで自分は見ているだけにして良かった、と。


「久我って。……どうしたんだよ?」


「蒲生がさ、煩いんだよ。俺がデビュー頑張り過ぎなんて言ったのが気に喰わなかったのか。自分とつるめば勉強しなくても良いからって誘ってくるんだ」


「だから青葉も俺達も切るってか?」


「いや。あいつはそんな実力者の子供なのかなってさ。そんなガキが人殺しなんてしたら、事件そのもの隠すかなって。まさかね、漫画みたいだね」


「そっか。あいつを引き摺り込んで」


「皆原みたいになったら困らない?」


「今度はさ、上手くやるよ」


秋友は坂口の舌なめずりの音が聞こえた気がした。

あの日から坂口達の成績はグンと下がっている。

恐らくこのままでは高校に上がれないと学校には指摘を受け、きっと自宅では両親からの叱責を浴びる毎日だろう。


秋友の脳裏で、甲高くヒステリックに叫ぶ母親の声が響いた。


どうしてできないの。

あなたにいくらお金をかけてきたって思っているの!!


「誰も頼んでいないよ」


「久我?」


「何でもない。早く教室に行こう。担任の小言は聞きたくない」


「ハハハ。あの新任。首切り要員だろ? 気にするなよ」


坂口だけでなく秋友のクラスメイト達は、今の臨時担任がどういう立場なのかを十分にわかっている。三角は祥鳳学園の職員の一人でもなく、わざわざ外から呼ばれて雇われた人間だ。そのことが意味しているのは、三角教諭は皆原についての責任を背負わせるための生贄要員だという事だ。


「あ。蒲生が来た。今日にでも遊びに誘いに行くか。お前もつきあえよ」


坂口は秋友の肩を軽く叩くと、よたよた歩く蒲生のもとへと駆け出した。

彼等は俺達のようにはなれなかった下等と、青葉は嗤っていたな。

秋友はスマートフォンを取り出して、青葉にメッセを送った。


「クラスが蒲生についてざわざわしている。君が坂口に何か言った?」


既読は付いたが返信は無い。

青葉が警察に聴取を受けているならば、彼のスマートフォンは警察が監視しているとみてよい。ならば、これから坂口がする事は青葉のせいだったと警察に印象付けてやろうという判断である。


「なにがカラスだ。何がタカだフクロウだ。俺は人間だ。全部を狩る者だ」

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