優秀な情報兵を手に入れたならば、俺達は進軍するぞ
晴純は頭がいいどころじゃなかった。
彼は蒼星の部屋に忍び込むや、蒼星のパソコンを起動できたばかりか、蒼星のパスワードも簡単に解除してパソコンからデータを盗むという事が可能だと示して見せたのである。
「自分こそがホストになれば、子となったユーザーのロック解除なんか簡単だよ。使い終わった後は自分の痕跡を消してしまえばわかんないし、うん、簡単だ。」
こんなにウキウキ声で戦況報告して来る晴純など初めてであり、俺は飛び込むようにして自室に戻って来た晴純を抱きしめてやった。
質量のない彼だから、そんな風に俺が抱え込んだポーズを取ったが正しいが。
「よくやった。」
「だが、学校のデータは大丈夫そうか?」
「うん。蒼星のパソコンから学校のHPに飛んでね、ネット上にあったウィルスみたいなのを入れてみた。」
「そうか。それならば明日学校に行く必要は無いかもな。」
「あ、そうか。凄いな俺って。」
俺達は笑い合い、褒め合い、讃え合い、翌日には曽根達の連絡先データを手に入れることができた。
自宅住所に緊急連絡先、それから、親の職業などの情報だ。
俺達はそこで三日かけて裏付けを取った。
奴らの自宅がどこにあるのか住所を元に訪れて、彼らが住む彼らの安全だと思い込んでいる巣と、その巣を維持するために働く親達の職場をも、ぜんぶ、確認したのである。
曽根の父親は中古車センターの販売員をしていた。
林田の父親は有名らしい企業の支社勤めをしているらしく、ビルが立ち並ぶオフィス街に彼が勤める会社のビルも建っていた。
今泉は母子家庭だった。
しかし、母親は大学病院に勤務している看護師であり、持ち家であるマンションを見れば余計な父親こそいらないと思える生活ぶりでもある。
そして、晴純の腹を性交代わりに切り裂いた男、北沢の父は、皮肉なことに障害児を支援する学校の教師をしていた。
また、白人女性の母親は、イタリア語の教室で講師をしていた。
子供の性癖、同性愛者でサディストが知られれば一番手痛い目に遭う職業だなと、俺は晴純が手に入れた情報に高揚感が増すばかりだった。
晴純によって手に入れられた情報は、金に値するほどに素晴らしいと笑った。
何処をどう攻めるのか、俺の中で戦術が組み立てられていく。
「ねえ、本当に明日から学校に通うの?」
「実際に通うのは来週の月曜から、かな。明日は俺らの母様に前線で戦うための武器を買ってもらわないといけないからな。」
「母さんが俺に何かを買ってくれるかな?」
「買ってもらわなきゃ困る。彼女がね。」
晴純は俺の返しに頼もしいと笑うどころか、しゅんとなって頭を下げた。
彼は母親が自分の為に指先一つ動かさないと知っているし、それをしっかりと受け入れた上で俺にそんな自分で申し訳ないと思い込んでいるのだ。
「安心しろ。鬼ババの対処法は俺が一番知っている。俺は誰だ?綺麗ごとで英雄になり上がったわけでは無いよ?」
出来る限り余裕そうで悪そうな笑みを作って、俺は落ち込む晴純に微笑んだ。
実際に俺が鬼畜に振舞った時、散々に傷つけられてきた彼は俺に脅えを抱くだろうかと、考えながら。
そして、翌日、俺は暴力を女性に振るい、蒼星の暴力だと言って蒼星に濡れ衣を被せてやると彼女を脅した。
彼女は初めて晴純という子供がそこに存在していたと気が付いたかのようにして脅え、俺の申し出の通りにスマートフォンを買い与え、曽根達に駄目にされた制服を新調する手配をしてくれた。
晴純は俺に脅えはしなかったが、やり過ぎだよ、とは言った。
けれど俺は晴純が俺に脅えなかった事にこそ喜んでおり、これならば俺達は勝ち続けられると確信していた。
だから晴純には、この調子で進撃するぞ、と言った。
ざまあ、してみたいだろ?、とも。
仕返しをしきった時、俺達二人とも成仏してしまうかもしれないが、俺達はきっちりと奴らに煮え湯を飲ませてやるのだ。
2021/12/16
実際に通うのは明後日かな→実際に通うのは来週の月曜から、かな
やの明後日とするところ、明後日でしたので修正しました。
やのあさってという明後日の次の次の日の事で、こちらの方が会話っぽいかなと思っていましたが、間違えて明後日としてしまう程ですので、修正したとわかり易い「来週の月曜から」にしました。
申し訳ありませんでした。




