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連絡その三 聴取と言う名の反省会

 俺達は最初に難しく考えすぎた。

 死体がある、乗組員が誰もいない。

 ならば、御厨殺害犯達はとっくに逃げていたと考えれば良いだけだったのだ。


 ケクラン達が逃げ出したのは、当り前だが港に船が停泊中の俺達が船に乗り込み荷を積んでいた、その間に、である。

 彼らは何食わぬ顔で新幹線発着駅へと行き、異国人の風貌が目立たない東京に向かい、まずは、単なる外国人ビジネスマンを装ってネットで簡単に予約できるビジネスホテルに拠点を移した。


 別名義の身分証?そんなのは金の力で簡単に作れただろう。


「余計な事を考えずに、御厨を殺した後は拓海先生にキャンセル入れて何食わぬ顔をしていれば良かったのに。そうしていたら、お絵かきAIの御厨のふりして御厨の財産だって好きにできたのにねえ」


 今回の事件の流れの説明を聞いて、俺から出るのはぼやきばかりだ。

 当初のケクランは殺害した御厨の船を乗っ取り、お絵かきAIで御厨の振りをしながら別人として生きようと考えた。


 しかし御厨のメールのやり取りから、一週間後に拓海と拓海の億単位の精密機械を船に乗せて大阪の病院で手術する予定だった事を知ってしまい、暗黒街に高く売れそうな拓海の誘拐を目論んでしまったらしい。


 つまり、御厨を殺した一週間前に計画を完遂して逃亡してしまえば良かったのに、彼は家族殺しと逃亡の実行を今日まで延期していたのだ。


「予約したホテルがビジネスホテル程度であったのは理由があるんだよ。奴が御厨の殺害と成り代わりを企んだのなぜかな?あるはずのノヴァウィンクル財団の金が消えたからじゃないかな?では、どうして私が君をアンリから巣立ちさせねばと強く思ったのかな?鴨葱、君」


「え?俺こそ鴨葱?」


 俺は目の前の鹿角を見返す。

 そして俺の肩には俺を守るようにして拓海の手が乗る。

 鹿角は御厨の船に俺を連れ帰った後、俺を拓海の部屋に連れて来ていた。

 今回のことを引き寄せた鴨達に事件概要を伝えて事情聴取のやり直しをする必要があるから、と言う理由で拓海だけでなく兵頭も呼び出されている。


 藤はどうしたかって?

 三角達と仲良く水上バイクで遊んでいるよ!!

 悠と有咲と夏南と蒼星を見守りして、彼等の心がささくれないように俺が鹿角にしてもらったように水上バイクに乗せなきゃという理由で。


 俺だって好きで鹿角と水上バイクの二ケツをしたわけじゃないのに、悠まで俺を仲間外れとはどういうことだ。


 さて話は戻すが、お友達と水遊びを取り上げられている俺は、拓海用のベッドに俺を真ん中にして拓海と兵頭と横並びして座っている。そんな俺達の眼前に鹿角が一人パイプ椅子に座っている、と言う絵面はどうなのであろうか。


「君と僕はアンリの受け取り方が違うようだね。僕がアンリと晴純を好きにさせているのは、アンリは晴純を害するどころか出来る限り見守る存在だと確信しているからだ。僕が思うに、君こそアンリの有益性を己の為に利用していないかな」


 俺は心の中で拓海に拍手をしていた。

 そうだ、拓海はその気になれば傲慢な教授然となれるのだ。


「私は大人の思惑から晴純君を守りたいだけです。もしかして、これこそがあなた主導だったのですか?拓海教授」


「まあ!!拓海教授は何の関係もありませんことよ。教授選にはお金がかかります。また、知名度だって必要です。晴純君の今後の為にクラウドファンディングしていけるものを立ち上げて何が悪いんです!!賛同してくれた御厨が多大な寄付をしてくれたのは、晴純君の将来性を買ったからですわ」


 俺と拓海は、ああ、と情けない声を同時に上げて自分の顔を両手で覆う。

 俺は本当に拓海チームは迂闊だな、と思った。

 兵頭さんたら何してくれていたの。


 そうか、ケクランの船内で鹿角がわざわざ俺に金持ちが財団を作りたがる理由について語ったのは、俺への揺さぶりも入っていたのか。

 俺がアンリを使って正義執行と言う名で強盗殺人を始めた、鹿角はそう考えていたのではないかな。ならば危険な道具を手放させればよい、と。


 いや、ちょっと待て。

 鹿角こそ正義執行の名のもとに殺人していなかったか?


 俺は鹿角を見返すと、鹿角は、頭が痛いという風に額に手を当てて溜息を吐いたところであった。

 お前ひとり聖人ぶりか?


「それでケクランは晴純君を欲しがったんですよ。御厨として晴純君を手に入れて、晴純君を自分の財布にしようとした。たぶん、最初に御厨の姿でモニターに現われたのは、その時点で御厨の死がまだ知られていないはずと考えたからでしょう。船が私達警官を呼び寄せ、私達の目の前でナンバーロック式の鍵がかかった死体入りの冷蔵室の扉を開ける、そんな演出をケクランが仕掛けているはずなどないですからね」


「そうか。アンリは晴純が狙われていたことを知っていたのか。そこで、君や悠君一家、それから有咲君達も集めて守ろうとしていたってわけか。もしかしたら、彼はついでに家族旅行の演出もしてくれたのかな。彼は晴純が大好きだものな」


 俺は拓海の言葉で、今回のアンリの行動が全部がすとんと理解できた。

 こんなことは以前にもある。

 アンリは有咲からのメッセージに対し、いかにも俺が喜んでいます、という風なスタンプにして勝手に有咲に返した事があるのだ。


「どうした?晴純?」


 拓海が俺の頬に指先を当てた事で、俺は自分が涙を零していたと気が付いた。

 しかしこれは悲しみの涙ではない。

 拓海の言葉のお陰で、俺の心が幸せにほぐれたからだ。


 俺は俺の願望からアンリを歪め、そして勝手にアンリが変わったと嘆いていた。

 アンリが俺に母親を殺す舞台を用意した、なんて思ったりもしたのだ。


 それこそ俺の願望だ。

 あいつを殺したい。


 俺は拓海の肩に頭を乗せる。

 自分の泣き顔を隠すようにして。


「晴純?」


「――亮さんは、やっぱすごいなって思って。俺がギリギリだったのはアンリを見失ったからでした。俺は自分が作ったアンリがアンリじゃないと悩んでいたんです。最初から亮さんに相談すれば良かった」


 後頭部に繊細な長い指を持つ手の平の温かさを感じた。

 俺はこの手によって何時も命を吹き込まれるのだ。


「そうだね、次からは相談してくれ。僕も君が落ち込んでいるのが分かっていて、何も聞かなくて悪かったよ」


 俺の胸の中に、ほわっと温かなものが溢れた。

 彼は俺が落ち込んでいた事を知っていた、気が付いていた。


「晴純君、教授の言う通りよ。でもね、何かあったら私にこそ相談なさいな。教授はね、落ち込むあなたが普段よりも家にいるからってそのままにしてしまう悪い大人なのよ」


「だって、最近は悠君のとこばかりじゃないか!!僕の大事な癒しチャンネルが機能していないんだ!!」


「大変だな晴純君は。私は君にちゃんとプライバシーを確保できる環境を与えられるよ?いつでも私に相談しなさい。君が一緒に住んでくれるならば、江里須警察署の署長になってもいい」


「なっても良いって、簡単に。今の署長はどうなるんですか?」


 俺は鹿角の台詞に驚き、拓海の肩から顔を上げた。

 実は薄情だった拓海は、俺が鹿角寄りになると不安になったのか、俺の右腕を掴んで自分に引き寄せる。鹿角はそんな俺と拓海のやり取りに微笑み、俺が彼の誘いを断りやすくする酷い台詞を吐いた。


「五十五歳くらいで署長に任命されるのは定年退職を見越してのことなんだよ。二年くらい早くたって構わないだろう」


「あなたは酷いな。ええ、今後はちゃんと相談させていただきますよ」


 うおっ、にっこりと嬉しそうに微笑んだ、とは!!

 だがこれは俺の本心だ。

 俺は鹿角の言葉によって天啓を得た気がするのだ。


 今後の俺と蒲生家との付き合い方についての。

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