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戦略プランの書き換えの為の提案

 曽根は入院をした。

 両腕を骨折した上に、顔面の皮膚がすりおろし状態となったからだ。


 ただの不細工がカラフルな不細工になったのである。

 ハハハ、ざまあ!


 どうしてそこまで知っているのかと言うと、彼は東病院に運び込まれており、腹の傷についての経過観察で俺達が病院を訪れた時に俺が探ってきたからだ。


 面会?見舞い?そんなことをするわけ無い。


 アンリが診察室で医師の前に座っている間に、俺が曽根の様子を確認しに院内探索に出かけたに過ぎない。

 顔面にはガーゼがミイラのように貼り付けられ、ギブスをはめられた両手は失敗したぬいぐるみのような有様だった。

 しかし俺には少しも憐憫の情など湧かなかった。


 少しぐらい人の痛みを知ったか?


 そのぐらいの感慨しか無かった。

 けれど、曽根の様子を探った事で、俺は自分が初めて自分から行動を起こせたのだと気が付いた。

 今までは常に受け身であり、出来る事も出来ないと思い込んでいた。


 俺は運動能力が無いから逃げられない。

 どうせ誰も俺の言う事は聞いてくれないから、俺は助けてなんて言えない。


 そんな事は無かったのだと気が付いたのだ。


 アンリが俺の腹をそこにいる全員に見せ、俺をこんな目に遭わせたのはそこの三人だと叫んだ時、周囲の人は全員信じてくれたではないか。

 アンリはあんなにもやすやすと、曽根の暴力から身をかわしたではないか。


 俺はその気になれば行動を起こせる人間だったはずなのだ。

 それに気が付く事が出来たのは、全部アンリのお陰でしかない。

 アンリは自分のせいでと、俺に謝って来たが。


 曽根の大怪我と曽根達の万引きでっち上げの行為によって、彼らは補導されて警察に調べられ、俺への暴行も明らかになって、そこで家庭裁判所に書類送検される処置がとられるらしいのだ。

 警察が母に伝えたことによると。

 アンリが落ち込むのは、これで彼らがこの世界の大人達に裁かれて更生させられる事になって俺達が復讐を出来なくなる可能性と、この件で俺がさらに蒲生家でいらない人間になってしまったという事柄によるものだろう。


 そんな事はどうでもいいのに。


 蒼星に、お前のせいで彼女に振られたと殴られたが、俺の体の中のアンリが蒼星の拳を受けたのだし、俺の母が俺のせいで台無しだと大声を上げるのも当り前のいつもの事だからだ。


「ご近所さんに顔向けできない!同級生を警察に売った家だなんてこれから言われるのよ!」


 階上でその叫びを聞いたアンリは、当り前だが当たり前の感想を吐いた。


「最低な母親だな。」


「俺はお母さんの腹から生まれたけどさ、お母さんの望むような子供じゃなかったから、仕方が無いよ。」


「はは、あの程度の女にお前が?トンビが鷹を生んだと喜ぶべきなのにな。」


「そんなことを言ってくれるのはアンリだけだよ。俺は馬鹿だもん。中受の為の問題が全然理解できなくて、塾の授業も全然わかんなかったもの。だから公立に行くしか無くて、曽根と離れられるチャンスも失っちゃったわけで、頭が悪い俺のせいだよ。」


「そうは言うけどさ、俺も農奴出身だから勉強はからきしだけどね、馬鹿だ馬鹿だと言うお前が馬鹿には思えないんだよ。」


 俺は俺が馬鹿じゃ無いと言い募ってくれるアンリに嬉しくて、ただただ嬉しくて、生まれて初めて自分でいて良かった、なんて考えた。


 アンリが褒めてくれる自分で良かった、と。


 そうしたら、急にむくむくと現状打破の方法を考え付いた。

 俺にいじめをした曽根達が処罰される事になろうとも、彼らが未成年だから成人になった時にはした事が消えてしまうと言う事を、アンリはひたすら憤懣を持っていたのである。

 だから彼は、彼が出来る範囲で、俺が受けた様な仕返しをしようと考えていたのであろう。


 アンリは俺の事にこんなにも心を砕いてくれている。

 俺によって人生を台無しにされたと知っている癖に!


「アンリ!俺やるよ!学校には子供達の連絡先の資料があるはずだもん。それを俺が漁って調べる。」


 アンリは俺を真っ直ぐに見つめ、どうやって?と尋ね返して来た。

 確かに。

 俺は自分がどこにでも潜り込める幽霊だって前提で提案していたが、幽霊だから物理的にものに触ることができないじゃないか。


「あ、そか、う~ん。」


「お前さ、あのゲートをハウリングさせたのはお前だろ?電気が通る機械にアクセスできるなら、パソコンとやらにもアクセスできるんじゃないか?」


 俺はアンリを見返し、やってみる、と素直に返していた。

 俺よりもこっちの世界の仕組みを知っているなと、俺はかなりアンリを尊敬してしまってもいた。

 ただし、パソコンは小学生の時に視聴覚室のパソコンルームで触らせてもらった程度にしか俺は扱えない。


「蒼星のパソコンで遊ぼうか。壊れちまってもいいよな。あいつはあのお優しいお母様にほいほい買ってもらえるんだからさ。」


「そうだね。うん。やってみる。」


 殊の外俺がウキウキしていたのは、小学生時代にパソコンを操作させてもらった時、俺はすごく楽しいって思ったからだろう。

 小学三年生の時の担任の先生は、アンリのようだったと思い出した。

 俺は馬鹿じゃなくて、俺の感性は得難いものだよ、なんて褒めてくれた先生だったのだ。


「この歳でCコードを読めるなんて凄いよ。」


 Cコード?

 急に思い出した記憶は、俺のものみたいじゃなかった。

 だって、今の褒めてくれた声は、三年生の波瀬先生では無くて、父さんの声だった気がするのだもの。

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