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連絡その二 三角の案内の先には

 船に乗り込んですぐ、俺は俺の保護者を失った。

 拓海と藤が俺から別行動をとり、俺と悠だけが三角による船内案内を受ける事になっただけである。

 俺と悠が有咲達の荷物運び係にさせられた、が正しいかもだけど。


 有咲と夏南は船にプールがあると知るやいつの間にか水着に着替え、俺達に荷物を押しつけてプール・デッキへと消えてしまったのである。


「仲間外れにした仕返しだ!!やーい仲間外れ!!」

「そうよ!反省しなさいな!!」


「あいつら、結果的に俺達から仲間外れになってることに気が付いて無いな」


 有咲の車輪付き鞄を引き摺る三角の背中を追いながら、俺は数分前を思い出したまま呟いた。

 すると、俺の隣を夏南の荷物と自分の車輪付き鞄を引き摺りながら歩いていた悠が、俺の言葉を聞くやぷっと吹き出した。


「うん、確かに。僕達、別にって感じだもんね」


「君達は意外に酷いな」


 哀れな俺達が哀れじゃなかった事を目の当たりにした三角は、俺達が酷いとクスクス笑いをあげる。

 だからか彼が次に俺達に放った言葉は、俺達を悪たれと認識した砕けた言葉遣いになっていた。


「はい。可哀想なかわいこちゃんたちのお部屋に到着だ。さっさと荷物を投げ入れよう。忠告するが、女の子部屋をしっかり覗いちゃいけないよ」


「それこそ、別に、ですよ。ねえ、悠」


「ねえ、晴」


「ハハハ。俺が言いたいのは、野郎部屋との差に絶望するから見るなってことだよ。船は客室数が限られているからね、お部屋が残念組が存在するってこと。狭いのが嫌なら、ママと同室させてもらうしか無いねえ」


「それこそ普通に拒否る」


「野郎部屋って修学旅行みたいでいいねえ」


「はい。では移動しますよ。野郎部屋はもう一階下のデッキで~す」


 俺達はさらに船内を歩き、とうとう俺達に用意された部屋に辿り着いた。

 確かに、三角の言う通りに、絶望しそうな部屋だ。

 拓海と兵頭は、当り前だがVIP扱いなので、個室なのは言うに及ばない。

 悠を連れて拓海の部屋を突撃しようか、そんな考えが浮かんだ。


「三角さん。三角さん達は四人ですよね。ベッド足りませんよ。ここに晴の弟も来るなら、僕達はベッドを二人で使うってことですか?」


「二人で使いたいなら使ってもいいけど、四台は君達のもの。俺達は殆ど戻らないからね、仮眠用に二台あればいいんだよ。タイムスケジュール的に今日の俺達は夜番。船が明日大阪港に着いたところで勤務終わり。よくあることだから気にしないで」


 三角達は単なる警察官ではない。

 要人警護のSPなのだ。

 俺達に軽い口調で喋る三角だが、船に乗り込んだ四人全員が寝ずの番をするとなると、現在の事態はかなり緊迫しているのではないか?


 俺は三角をじっと見つめた。

 俺の視線を受けた三角は軽く眉毛を動かして見せた後、俺の頭に手を伸ばして、なんと俺の頭をもしゃっと撫でた。


「ダイジョーブだって。あ、そうだ。俺達が心配ならね、あとで俺の上司にラブコールしてくれる?それだけで俺達の状況がぐっと良くなる」


「勘弁してください」


「君、ひっど」


「晴」


 俺は親友に振り返り、親友の声が暗すぎると訝しんだ。

 いや、もっと早く頭を回すべきだったのではないのか?

 俺達が大怪我した事件のきっかけは、悠の母方の祖父である法務大臣の有栖川悠二郎をテロリストが急襲したことだったじゃないか。


「悠?」


 悠の顔は真っ青だった。

 そして彼の目は俺ではなく、気さくすぎる俺達の監視人へと向けられている。


 三角は悠の視線を受け入れると真面目な顔に戻し、軽口の彼の姿を忘れてしまうぐらいの誠実そうな人でしかなくなった。

 思いつめた顔の悠は、きっとずっと彼が聞きたかった質問を三角に投げかけた。


 父は大丈夫ですか、と。


「あ、ごめん。わかんない。あ、でもね。県警本部長がなんかなるって事はそうそう無いから、そこは心配いらないんじゃないかな」


 やばい、三角さん。

 鹿角の駄目な所と藤さんの適当な所が混ざった、軽い人になってる、なんて。

 俺はろくでもない返しをされた親友を見返したが、悠は三角の適当な返答に落ち込んではいなかった。

 さらに思いつめた顔で、俺が確認するべきだったことを言い放ったのである。


 親友が赤ん坊の世話をする羽目になった、その理由の人物の動向について、俺が調べ上げるべきであったのだ。


「そうじゃなくて。姉のせいで父は職を失ったりしませんか?」


「え、どういうこと?悠?」


「それはあとで。武雄君、良いですね」


「僕は晴に知られても構わないです。それどころか、知って欲しいです。これって、我が家のせいで晴達が巻き込まれたかもしれないのでしょう?」


「悠。俺は構わないよ。俺こそ面倒ごと君にかけたりしてるし」


「でも!!」


「ほら、晴君もそう言ってますし、大丈夫でしょう?せっかくの旅行なら楽しみましょうよ。ね?」


「でも言うべきです。俺の姉が反社な人と同棲を始めたから、とりあえず無理矢理別れさせた後に病院にぶち込んだことを。その彼が属していた団体から我が家が脅迫だって受けているってことを!!」


 悠は俺にごめんと言って両手で顔を覆ってしまった。

 そして俺は親友を慰める事を一先ず放棄した。

 その代わりに今すぐやらねばならないことがあったからである。


「もし?俺はあんたと話したいんだけど?時間はとれるかな?」


 俺の耳に当てられたスマートフォンからは、俺が聞きたくも無かった男の含み笑いの声、誰もを蕩かせそうな素晴らしい声が響いた。


「君の為ならば、私はいつだって時間を取れるよ。ハレ」


「くそ野郎が」


 十年前に鹿角の愛した人と愛した子供が死ぬことになったのは、優花が彼女達を彼女達の死の原因となった暴力男に売ったからである。

 犯罪者という汚れ物が嫌いで、罪人を個人的に裁いている鹿角が、人殺しである優花に何もしていないはずは無いのだ。

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