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悪運が強いのはラッキーかアンラッキーか

 曽根達は本屋の参考書コーナーへと真っ直ぐに向かっていった。

 ちゃんと勉強するんだと俺は彼らを意外に思ってしまったが、そういえば彼らは小学生の頃から塾通いをしている人達であった。


 曽根は近くにある国立大付属の小学校受験に落ちたし、林田は中学校受験に失敗した人間だったなと、今さらに思い出していた。


 小学校低学年のまだ友人がいる頃に曽根が受験を失敗したことは聞いていたし、林田に関しては俺を蹴り飛ばす林田を今泉が囃し立てたことで知ったのだ。


「ガマちゃん可哀想。弟が林が落ちた学校に合格しちゃったばっかりに林に鬱憤晴らしに蹴られてさ。」


 彼らも俺みたいに母親にゴミ扱いされているのかな。

 初めて俺は彼らが怖いとかではなく、彼らの身の上を考えたのだ。

 自分と同じ境遇だったらと初めて考え、そこで仲間意識や同情など感じずに、素直に、ざまあ、と思った。


 何の罪悪感も無く。


 すると、彼らに脅えていたはずの俺は、知らなかった彼らの不幸具合を知りたいとさらに彼らに一歩近づいていた。


 !!


 近づいて良かった。

 彼らがした事が見えたのだ。

 適当に平置きされた本の一冊を今泉が取り上げると、参考書の棚を見ていた少女の鞄にそっと滑り込ませたのである。


 少女は後姿しか見えなかったが、蒼星と同じ学校の制服を着ており、一つ髷を結った真っ白のうなじがとても清潔感がある風に俺の目に映った。

 彼らは少女が彼らの悪戯に気が付かないことに笑い声を立て、そこから急に二手に分かれての行動に移った。


 林田は少女の監視をするみたいにそこに残り、曽根と今泉はゲームコーナーの方へと向かった。

 俺はどちらを追うべきか一瞬迷い、今回のターゲットである曽根のいる方を選んだ。


 その選択は間違っていなかった。

 曽根と今泉が楽しそうに会話を交わす声が聞こえてきたからだ。


「林も陰険だねえ。あれ、ガマの弟の彼女だっけ?」


「知らね。そういうお前こそ実行犯だろ?酷い奴だな。」


「友達がいがあるゆってよ。林の初恋成就を手助けしてやるんじゃん。」


「万引きしたててやるのか?さいて~だな。」


 本当に最低だ!

 俺は蒼星の彼女と言われた少女がいる一角を見返したが、そこから少女が嬉しそうにして入り口向かって歩いている姿を丁度見る事になった。

 彼女の数メートル先には万引き防止用の白いゲートがある。


 俺はどうしたらいい?

 どうしたら、あの子を助けてあげられる?

 

 少女の後ろからニヤニヤした林田が歩いて来て、きっと彼女が万引きに間違われたその瞬間を動画で撮ろうと待ち構えているのだと気が付いた。


 俺のあの動画を撮った時のように。

 ああ、あれを消去するにはどうすればいいのだろう。


 死にたいと思ったあの日が俺にフラッシュバックし、目の前の少女が俺自身に見えた。


「ダメだ!足を止めて!」

 キュイイイイイイイイイイイイン。


 俺の叫びが誰にも聞こえなかった代りのようにして、出入り口に設置されている白いゲートが万引き犯を知らせる警戒音をがなり立て始めたのである。

 誰もそこにいないのに、ゲートは激しく耳障りな音をがなり立てているのだ。


 少女はゲート前で足を止めた。


「君!君はその後ろの男に鞄に商品を入れられたぞ!」


 あ、俺がゲート前にいて、林田を指さして大声を上げていた。

 少女はハッとすると自分の鞄を開き、そこでアンリの言葉が真実だと知った。


「嘘!どうしてこんなものが!」


 鞄から知らない商品を取り出した少女は、くるっと林田に振り返った。


「あなたがこんなことをしたの!最低!」


 事態の急変に林田はたじろいだが、すぐに顔を歪めて、全ての自分の不幸であるようにして俺を睨んで怒号を上げた。


「てめえ!ぶっ殺す!」


 林田は俺に向かって走り出し、しかし、ゲートに集まっていた店員に押さえられた。

 しかし、曽根と今泉もゲームコーナーから走り出てきた。

 ああ、俺は、俺の体のアンリは、逃げ出すことができるのだろうか!

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