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最初は一番弱いところを狙う

 ゲリラ戦において進軍して来る小隊を撃破する時は、小隊が索敵に出ている時に各個撃破して倒す方が無難である。

 寝ている最中に奇襲と言うが、奇襲を念頭に動いている部隊の寝込みを襲う行為こそ、蛾が松明に飛び込むに似た行為でしかない。


 一人を殺せても後の五人に殺されて終いでは、全く戦果を挙げたことにはならないだろ?

 戦果は全員を殺してこそなのだ。


 さて、では今回の場合、小隊に二人足りない四人組だが、初めての追跡であるならば一番弱そうで間抜けそうなのを狙うのが常套だ。

 宿敵が曽根で恐怖対象が北沢である晴純の言葉によれば、一番手を出してこない今泉となるだろう。

 けれど、俺は最初は曽根か北沢にしろと伝えた。


「どうして?」


「絶対に潰したい相手がその二人だ。事態が変化した時でもその二人だけは葬りたい。」


 数秒言葉を失ったが、晴純は俺を見つめて、わかったと答えた。

 俺は晴純を偉いと褒めてやったが、晴純のノートに書かれた四人の行動パターンを読んでみると、今泉と林田が曽根を使っていじめを冗長させているように見えるのだ。

 そこで曽根が今泉と林田にとっての旨みが無い人間になれば、自然と曽根はその二人に潰されるような気もする。


 いじめっ子がいじめられっ子に転落した場合、自分がしてきた事が自分がこれから受けると考えれば、それは生きていけなくなるほどの恐怖では無いだろうか。


 さて、追跡開始の決行時刻は十六時。


 俺は下校する曽根達が必ず通る交差点に行くと、交差点前にある信用金庫のATMコーナーに入り、ひたすら曽根達の姿が現れるのを待った。

 俺の胸にほんのりと脅えが湧いているのは、晴純の消し去れない彼らへの恐怖だろう。


 いやいや、俺こそ彼一人に任せるのは不安でいっぱいだ。

 だからか?


 俺がこんなにも不安に思うのは、晴純が単に初陣に出る新兵だからというわけではなく、散々に自分をいたぶった相手を見つめ、その相手の後ろを歩く行為という恐怖でしかない行為を俺が彼に無理強いしていると思うからだろう。


 けれども、ストーキングする行為こそ、相手をマウンティングしているのと同じことなのだ。

 自分達が馬鹿にしていた相手に、何も気が付かない間に喉元にナイフを突きつけられていた、そんな状況に落とされるも同じなのだ。


 そして、そこに晴純が気が付けば、彼は曽根に縛られている曽根への恐怖から解き放たれる。

 煮るのも焼くのも自分こそだと、精神的な主導権を奪ってしまう事が出来るのだ。


「きた。行きます。」


 信用金庫のガラス扉の前を三人組が歩いて行った。

 晴純はガラス扉をすり抜けて三人組の後ろに立った。

 俺はよくやったとにんまりしながら、北沢がそこにいないのは何故なのかと、ほんの少しだけ不安を感じた。


「北沢がさ、顔に青たんがあったのはなんでや?曽根っち知ってる?」


 曽根に顔を向けた少年は、横顔から林田だとわかった。

 小学生の頃は小柄で目がクリっとしていた晴純の記憶だが、体が上にも横にも伸びており、運動などしてもいない人間の外見に見えた。


 その隣の曽根も同じような体型であった。

 曽根は浅黒い肌に彫りの深い南国風の顔立ちをしていたが、彫りが深いだけで顔立ちが良いとは言い切れず、そこも晴純に悪感情を抱く理由のように思えた。


 晴純も目立つ外見ではないが、運動不足で弛んで厚ぼったくもっさりしている印象の曽根に比べれば、ガリガリに痩せているからこそ見た目が彼よりも良いと言う事も出来るのだ。


「俺は知らね。」


「おお~。お前と北沢はマブのくせに。知らねえなんて薄情だな!」


 曽根の肩を叩いて茶化して来たのは、今泉であった。

 彼は髪色を茶色に抜いており身長もほんの少しだけ林田達よりも高い上に彼らよりも痩せていて、三人組の中では一番見栄えの良い少年だった。


「ちげーよ、林田。友達じゃねえよ。あいつはだってきめーじゃん。すぐ服脱がせようとしてさ。おまけに平気でカッターで切っちゃうしさ。引くよ。そんで担任に俺達が呼び出しだったのはやっぱ、あいつがあれをやったからだろ。俺らはそれやってねーっての。」


「ははは、動画撮っただけだよね~。」


 林田が合いの手を入れると、今泉はいくら引っ張れるかな、と嬉しそうに口にした。


「あいつが出てきたらさ、動画消去代って、いくらふっかけようか?」


「お前って金金だな。お前の方があのガマよか金持ちのくせしてよ。」


「ぎゃは。金持ち金を使わず、だぜ。」


「うわあ、最低なお言葉。お前を信じたエコちゃんに聞かせたいねえ。お前らは虐めしてんのか?そうだよな、やって無いよな。先生は信じているよって、馬鹿じゃねえのって奴。してます言うわけないじゃんねえ。」


「やりすぎんなよ、だっけ?」


 三人は自分達を擁護したらしい教師こそ馬鹿にして嘲り笑いを上げ、俺は胸に抱いた怒りにもう少しでガラス扉を開けて飛び出してしまいそうになった。


「しっかりしろ。この体じゃあの三人には敵わない。冷静に、冷静に。この怒りをちゃんと返してやればいいんだ。」


「信号を渡ります。」


「オーケー。辛いのにすまないな。」


「ううん。アンリが怒ってくれた気持ちが俺に流れ込んで来た。そしたら、俺こそあいつらをやっつけてやりたいって思った。だから、大丈夫。」


「お前は本気で最高の相棒だよ?」


「ありがとう。」


 晴純の視界はさらに三人組の後ろを追いかけており、三人組は自宅に帰るどころか駅ビルの上階へと向かっていった。

 俺はそろそろだと周囲を見回し、信金のATMコーナーから出た。

 そこから真っ直ぐ三人組が入った駅ビルに向かい、晴純と距離を作らずに近くにいられ、また、危険な奴らから遠ざかっていられる場所に待機することにした。


 トイレの個室は囲まれたらお終いだ。

 寒風が吹き荒むがそのために人はおらず、外だからこそ視界が開けて周囲を確認でき、いざという時は逃げ出すことも出来る外階段に腰を下ろしたのである。


 三人組は駅ビルの中にある書店の中に入っていき、林田が何かに気が付き何かを今泉に耳打ちした。

 すると三人はその書店の奥の一角に目的があるかのようにして、真っ直ぐにそこに向かっていったのである。

 

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