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連絡その四 お前は俺を籠に入れたいだけ

 有栖川がSPに守られながら看護師と去り、拓海も鹿角関係の患者の管理に戻って行ってしまえば、武雄の病室には俺と鹿角だけである。

 俺は左に座る鹿角に、無言で左手を差し出した。


「このまま取り換えっこしていたいのに。」


「俺のスマートフォンの料金を誰が払っていると思っているのですか?」


「君とだけ繋がる夢の道具ならば、そんな料金ぐらい私が全て受け持ったって構わないと言うのに。私の物は君が持ち、君の物は君を想う私の懐に。」


 鹿角は歌うように言いながら、スーツの懐から出した俺のスマートフォンを俺の手に乗せた。


「どうも。悠や有咲、藤さんに兵頭さん。そして拓海先生と会話してきた大事なものなんです。」


「――すまなかった。」


「急に!あなたは糞やろうなんだかわかりませんね?」


 鹿角はハア、と言って額に右手を当てて天井を見上げた。

 このあからさまな鹿角のボディランゲージは何だとスマートフォンを見つめると、鹿角が俺のスマートフォンで色々弄んでいた履歴を見る事が出来た。


 いや、俺に教えるためだけに検索していた履歴なのだろうか?

 かん将隆まさたか国際弁護士?

 ウスターシュ・イルマシエの日本における代理人を務める人?


「敵は本気だ。イルマシエに司法取引はされたくはない。警備の緩い日本にいるうちにイルマシエを殺害してしまいたい。イルマシエが逮捕されたのは何時だろう?君のウィルスがばらまかれてからじゃないよ?その前に彼は告発されていたんだ。あの動画で彼の疑惑が決定的になっただけだ。」


 俺はスマートフォンの画面を見直した。

 そして、管将隆弁護士の検索を続けると、フェリペ・レセンデスも彼の顧客であるという事実を確認する事が出来た。


「レセンデスの家出少女へのレイプをネタに、あるいはレイプ用の少女の斡旋もして、管はレセンデスと繋がって銃器の密輸入をさせたんだろう。大使館員ならば銃器の密輸入は簡単に出来る。物凄く儲かったと思うよ。」


「え、テロとかじゃなくて、単に、銃器販売?商売ですか?」


「信念が無いから限度も無い。限度が無いから悪目立ちして周知に知られる事になり、もっと悪い奴らに一生抜け出すことの出来ない泥沼に引き込まれる。例えば今回のイルマシエを処分したい勢力などに、ね。」


 鹿角は鼻で嗤い、嫌になるね、と呟いた。

 それから彼は両手を伸ばして、スマートフォンを持つ俺の手を両手で包んだ。


「ねえ、晴純君。私が君に抱く懸念はそこなんだ。君には信念がある。人への情は深いほどにある。だけど、限度を持たない。そこは誰にも君が守られなかったからだ。相手を徹底的に壊さねば怖くて怖くて仕方がない。そうだろう?」


「あなたは俺を守れると?そうですね。いつだってそう言っている。でも、俺はあなたに酷い目に遭ってばかりだ。悠の事をさっさと教えてくれたら、俺はもっと迅速に悠の為に動けたんだ!」


 ぐいっと俺の手は鹿角に引っ張られた。

 気が付けば俺の両手首は鹿角によって掴まれており、鹿角は俺を自分の懐に引っ張りながらも威圧するようにして見下ろしている。


「鹿角さん?」


「一人殺したね?あれは君だよね?」


「知りません。」


「じゃあ、君のアンリだと?AIが独断で殺人をしてしまうと?それこそ恐ろしい。そんなものをまだ子供の君が作ったという事実はもっと恐ろしい。」


 俺は何も答えずに鹿角を睨みつけるだけにした。

 この男は俺の敵なのだ、と。


「では、質問を変えよう。君は悠君の事を知りたかったと何度も言うが、君が悠君の状態を君が知ったのならば、あんな風に武雄家にいる襲撃者の全員を君が殺したのかな?」


 鹿角の腕は俺の腕を完全に押さえており、俺が彼から腕を引く事どころか彼の胸に腕を押し付ける事も出来ない。

 俺は、ふざけるなよ、と、呟いた。


「晴純君?」


「どうしたかなんて知らないし、お前に教えるか!大体さ、俺を守る?お前は俺を守る気なんか一つも無いくせにうるさいんだよ。お前は鷹匠をやってみたいだけだろ?さあ、飛べ。飛んで俺が見繕った獲物をその爪で捕えてこい、か?ハハハ、誰がやるか。」


 俺の手首は骨が折れそうなぐらいに強く握られ、俺は歯を食いしばって鹿角を睨みつけた。

 両手首が折れたって、俺は鹿角に絶対に与しない。

 俺が飼われたいと望むのは、誰も傷つけられないくせに、俺を守ろうと考えてくれる拓海だけである。

 鹿角は俺の睨みを真っ直ぐにその両目で受け取り、それからさらに俺の方へと身を乗り出した。


「いい子だ。芯があり真もある。だけどね、人殺しは子供が覚えるものじゃない。未来のある君が背負うものじゃない。私にその力を委ねてくれないか?」


 俺は鹿角に囁き返していた。

 俺はあなたのスマートフォンの解除はしていないよ、と。


「晴純くん?」


「もう面倒なんだよ。お前が欲しいのは結局はそれだよな。いいよ。使う事を許可するよ。だからさ、俺や拓海先生をこれ以上煩わせるな!」


「私が願っているのは違う!」


「何が違うだ!」


 俺は全身全霊を込めて、俺を籠に入れようとしている男に叫んだ。

 だが、そこで院内の電気が落ちた。

 数秒しないで電灯は戻ったが、これは病院に必ずある非常用発電機が作動したからであろう。

 俺は俺を捕まえ続ける鹿角に叫んでいた。


「何をやってんだよ!」


「悪い事は全部私の責任か!君の大好きな藤君じゃ無いのか!」


 俺は、アッと、その可能性を思ったが、すぐに悪いことの責任が全部鹿角のせいだと思い直せる事態の動きがあったのだ。


「動ける者は全員エントランスに集まれ。」


 院内放送だ。

 俺は鹿角を睨み返し、鹿角は俺から手を外した。

 それから彼は急いで病室のドアを閉め、鍵を掛けた。


 俺と鹿角のスマートフォンに届いたアンリからの連絡によると、院内に侵入してきた男達は五人とのことだ。

 また、アンリが添付してきた病院の監視カメラ映像では、いずれも日本人にしか見えない外見ぐらいにしか判別できないものだが、だからこそ通常の患者だと病院の職員も患者達も何の疑いを持たなかったのであろう。


 そして、たった五人の彼らは、まずは新生児もいる産科の病室がある三階のナースステーションを制圧している模様だ。

 赤ん坊を人質とは!


「動ける者は全員エントランスに集まれ。赤ん坊を殺したくなければ。また、外からの電気を遮断してある。お前達が余計な行動を取れば、ここの非常電源を落したうえで適当に銃でお前達の何人かを射殺することも厭わない。」


 賢い彼らは、院内の人間がスマートフォンを使えないように電波遮断の道具を作動させてもいたようで、放送の後にはそこいらじゅうで患者や見舞客の叫び声が響いていた。


「すごいな。どうしてアンリと私達は繋がっていられるんだ。」


「有線電話回線の使用でパソコンと繋がっているんでしょう。院内サーバはきっと手つかずでしょうし。それらから電波を飛ばして俺達と繋がっているのかな。」


「君を警察にスカウトしたい。」


「あなたと一緒に働きたくないので嫌です。」


 俺は鹿角に答えながら、スマートフォンでアンリに指示を出していた。


 索敵、と。

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