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連絡その二 突入します

 有栖川の号令に応えた鹿角達こそ、籠城者達と取引するつもりなど無かった。

 彼らは俺を投入し、有栖川と他の人質の居場所や安全の確保を確認すれば、有栖川の号令など無くとも突入したのであろう。


 そのぐらいに最初からそのつもりだったという風に、彼らは有栖川の号令の返礼として、家を壊す勢いで武雄の家に突入してきたのである。


 近隣に武装集団の籠城を知られたくなかった、あれは嘘か?


 ごおおおおおん。


「装甲車でそのまま突入したのかよ!」


「あの人は極端なのよ?」


「あなたの為に限定で、ですね。」


 優花はうふふと笑い声を立てたが、そのすぐ後に両目をぎゅっと閉じた。

 彼女はとても脅えているのだ。

 俺達は家が受けた大きな衝撃音と振動に脅えており、全員で両腕を伸ばし合って抱きしめられるならば抱き合って、自分達を守る何かに祈りを捧げた。


 捧げるしか無かった。


 家の奥で断末魔のような悲鳴があがり、人を殴る音や人がどこかに投げつけられるような鈍い音がドアの向こうで何度か起こり、俺達が作り上げたバリケードに怒りを燃やしたらしき侵入者が銃弾を撃ち込んでも来た。


 俺達は赤ん坊を守るようにして座ってスクラムを組むしか出来なかったが、それは室外で戦っているSATの邪魔にならないように悲鳴を上げないようにしているのではなく、ただ単に脅えて息を潜めるしか無かったのである。


 俺は本気で怖かった。


 武雄がこの家のどこかにいるのかと不安だからこそ、誰かの叫び声が聞こえる度に、武雄の声じゃないかとびくびくと震えていたのだ。


 もしかして逃げきれずにこの家のどこかに放置されていて、そして、この侵攻の鬱憤を動けない彼が受けていたとしたらと考えたら、俺は怖くて怖くて真実を探ろうなんても出来なかったのである。


「あぶ。」


 俺の鼻が柔らかな指先で摘ままれた。

 真ん丸で柔らかそうな人未満の生き物が俺を穢れない瞳で見つめ、俺に見返された事で、うひゃ、と嬉しそうに笑顔を作った。

 無垢な所は武雄とそっくりだ。


「僕は君と友達になりたいだけで。」


 その言葉だけで俺は君に何だって捧げよう。

 だから俺は君を伝説の生徒会長にしてみせると決めたのだ。


「くりあ!」

「くりあ!」

「くりあ!」


 室外で若い男達の声が上がった。

 その数分後、俺達がこもる部屋のドアが叩かれた。


「制圧しました。皆様を安全な場所にご案内いたします。」


 俺は鹿角の声に大きく息を吐き、のそのそと立ち上がった。

 それからソファをドアからよけようと、俺はソファの背に手をかけた。


「ドアの前から下がって下さい。ドアを外側に引いて壊します。あなた方はじっとしていてください。下手に動いて優花さんが怪我をしてしまうと、部下に押さえられている立神が完全に壊れてしまいます。」


 鹿角はやっぱりろくでも無いなと、俺は再び下がって座り直した。

 脅えていた女性達も顔じゅうを涙で濡らしながら、それでも安堵の見える笑顔で笑っている。

 俺の肩に大人の腕が乗った。

 有栖川だ。

 彼は俺を自分に引き寄せ、女性達には聞こえない声で俺に囁いた。


「ありがとう、晴純君。悠への心配を顔に出さないでくれてありがとう。」


 俺は有栖川の言葉にぞっとしながら彼を見返し、彼の両目に今まで見せはしなかった絶望の影が見えている事に気が付いた。

 俺に会いに来た鹿角の目元にそっくりで、あの隈のある疲れ切った鹿角の目元は武雄の不在の意味を語っていたのか?


「やめてください。あいつの不在はあいつが無事だって事です。あいつは親友なんです。俺があいつを学園の伝説の生徒会長にしようと決意したほどの、あいつは凄い人間なんですよ!」


 武雄の身に何かがあって、そして、その結果が俺のせいで勇気が持てたからだと言われたら、俺は一生立ち直れない気がする。


「僕は君と友達になりたいだけで。」


「悠みたいな凄い子に友達になりたいなんて言われるなんて、俺こそ絶対に無いって思っていたんです。だからだから、出来る限り悠の前では俺は格好をつけていただけなんです。ああ、だから!悠!絶対に無事でいてくれよ。」


 とうとう我慢できなくなった俺は両手で顔を覆っており、俺の肩に乗る有栖川の腕はさらに力がこもり、俺を慰めるようにして自分に引き寄せた。


「そうだ。ワシの孫は最高の奴なんだ。絶対に無事に決まっている!」


 そこで俺達の世界は壊れた。

 応接間の扉は鹿角が言った通りに破壊され、俺達が重ねたソファなんかSATの隊員達が手際よく片付けて行くじゃないか。

 そうして彼らが部屋の中に入って来たのに、やはり武雄の姿など見えない。


 鹿角は俺と有栖川に声をかけた。


「被害者の遺体は病院に搬送させて頂きました。」


 俺の心臓がどきんと跳ね上がった。

 俺を抱き締める有栖川だっても。


「秘書の和久井さんにはお悔やみを申し上げます。それから、お孫さんは意識が無くまだ集中治療室です。付き添われるのならば今すぐにお送りしますが。」


 俺と有栖川は初対面の全くの他人なのに、鹿角に殴りかかる勢いで、彼に向かって同時に怒鳴っていた。


「早く言えよ!この馬鹿!」

「孫の所に早く連れていけ!この間抜け!」

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