報告その二 鹿角が守りたいのは俺じゃ無いみたいですよ?
鹿角に無理矢理に装甲車に乗せられて護衛される身となった俺は、俺の隣に座り、俺に!今の事態の説明をする鹿角から意識を逸らそうと必死だった。
マイクロバスのような大型の車には、俺達を守ったあのSATな人達の六人全員も乗っておられるので、俺の気持ちは武装集団に誘拐された小市民のそれでしかない。
そこで俺は、一週間前の自分の快進撃を思い返すことにした。
「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。これから学園生活を楽しむにあたって、わが校の部活動を紹介いたします。部活説明者に与えられた広告時間は三分です。君達がもっと聞きたいと思うならば、お手に配ったプラカードを掲げてください。五人以上掲げればさらに一分延長です!さあ、ここから僕達は一緒に楽しもうじゃないか!」
あの日、俺のオーダー通りに、武雄は偉そうに最初の挨拶をしてくれた。
入学式などでは柔和で優しそうにしか見えなかった生徒会長の新たな面に、一年生達は揃って目を丸くし、また、彼らにクイズ用の棒のついたプレートを配っている生徒会役員達の姿にも驚きであんぐりと口を開けていた。
俺はそこの部分で、今回の説明会の成功を確信したと思い出す。
人との差異を明確にするのは、服装こそ、なんだよね。
生徒会の役員は、全員が全員、制服とは違うグリーンカーキのウエストシェイプもできる軍服みたいなジャケットを羽織っていたのである。
もちろん、生徒会長はその総括となるべく一番派手な奴だ。
バッジ代わりに左胸のポケットには、沢山の金銀に輝く星やビーズが飾ってあるというだけなんだけどね。
武雄は説明会場に引き出される寸前で、事前に聞かされていた説明会進行が変更されたと説明を夏南から受けることとなり、ついでに彼女に手渡された生徒会ジャケットについても驚き口をあんぐりと開けるばかりだった。
「でも、こんな、え?」
俺はいかにも悪い参謀風にして、友人の心に響くように彼に伝えた。
「私立の良い所は、金持ちの親父が自分の子供のためにあからさまな事をしでかしても、何処からも文句が出ないってとこだねえ。俺達生徒会六人分、それからこれから俺達に徴兵される一年生六人分、しめて十二人分のジャケットを俺のパトロンであり、祥鳳大学名誉教授であられる拓海先生に用意させていただきました。一応デザインは夏南や他のメンバーと打ち合わせた。悠が格好良く見えるが一番にしてね。これは生徒会メンバーの君への思いだ」
武雄は俺の説明に手渡されたジャケットをぎゅっと胸に抱き、それだけじゃなく泣きそうな顔になって、彼の前で微笑むメンバー達に震えながらありがとうと声を出した。
「やだなあ、こういうの面白いじゃないですか!実は少し安っぽい生地でとても安いんですけど、買い取りも可能って蒲生君が言うからさ、思い出になるじゃんって。俺は買い取り選びましたよ?」
「そうそう。制服ばっかりは面白くないし。これを着れるのはこういうイベントで学校内だけだって学校の許可だけど、こういうコスプレは楽しいじゃないですか!私も買い取りなの!」
武雄の為に残ってくれた生徒会メンバーは、楽しそうに新たな生徒会ジャケットについて口々に語り、武雄は感動を通り越して吹き出しかけていた。
「君達は!実は僕にかこつけて自分達こそ楽しんでいたんだね!」
「生徒会って面倒な仕事ばかりだからこそ、こういう楽しみがあった方が良いじゃないですか!」
武雄と同じ三年の役員、一番静かで真面目そうだった書記の瑞枝が声をあげると、全員してそうそうと相槌を打ち、楽しそうに笑い声をあげた。
そう、真面目な子供こそ実はコスプレが好きなのだ。
いや、どんな子供こそ、かもしれない。
自我の発展途上だからこそ、子供達は他人と自分を比べ合い、自分よりも優れていると思い込んだ相手を必死に潰そうと動くのである。
または、他と同調することで自己を必死に保つ。
だからこそ誰もに人気者と言われている人物、この場合は武雄の敵の久本だが、彼の行動を表立って非難できないというストレスを抱えている。
誰もが好きな人物で、その人物がした行動を自分が許せないのに、周りが許しているならば自分こその感覚がおかしいのでは無いのか?
そういうジレンマだ。
俺はそこで、久本の行動がおかしいと糾弾するよりも、久本が抜けたからこそ生徒会が面白くなったという方向に変えることにした。
生徒会役員が専用ジャケットを羽織ることもそうだが、今回の説明会では、面白い説明が出来た部活には持ち時間をさらに与えるというチャレンジを与えたのである。
そのために持ち時間を十分から三分と従来よりもかなり短くしたが、もともと説明担当者は十分も掛けて場をしらけさせながら説明する事になるかもと不安を抱いていた人も多く、意外にも時間短縮には文句をつけなかった。
また、ステージ上の説明でダラダラ時間を取るよりも、この後で体育館に残る部活説明者達に新一年生達が各々で行う質疑応答時間こそ取りたいと考えたのもあるだろう。
彼らは部活の説明に選出されるだけあり、意外と策士でもあるのだ。
さらにこのチャレンジで、説明する方は一年生達の興味を惹こうと頑張るわけであり、一年生達にとっては興味が無い部活でも面白おかしく説明を聞く事が出きるのは間違いない。
ならば結果として、部員数が減った部の存続の可能性も望むことができるという、そういう相乗効果もあるのでは無いのか。
結果、説明会が大盛況どころか生徒会穴埋め要員となる一年生達までも俺達は簡単に手に入れる事ができ、その週の学校新聞には、生徒会の改革として紹介されて武雄の写真付きで掲示板に張り出される事となった。
「聞いているかな?」
「あなたの言葉なんか聞きたくない俺の空気を読んでくださいよ。俺を今すぐ解放するか、俺に現実逃避を認めてやってください」
装甲車で鹿角の横に座らされている俺の周囲で、武装中な男達によるクスクス笑いのさざ波が起きた。
鹿角は大きく溜息を吐くと、君の親友が大変なんだよ、と言った。
「へ?」
なんと、武雄君が県警本部長の息子だった、とは!!
「現在進行形で武雄唯一本部長自宅が武装勢力の集団によって制圧されております」
「だったらこの装甲車に同乗されている武装な人達とあなたが突入したらいかがでしょうか?」
武雄家を襲撃した男達はそこが本部長の家だとは知らないが、誕生したばかりのひ孫の顔を見にその家にやって来た男のことは知っている。
と、いうか、その人物を人質に取ることこそが目的だった。
法務大臣の有栖川悠二郎。
鹿角はそこが県警本部長の家だと言う事を襲撃犯達に知らせずに、また、周囲にも襲撃事件を知らせずに収束したいと考えているらしい。
俺はSPの鹿角に物申していた。
「で、SPの間抜けな失態が、だからどうして俺の誘拐に繋がるんですか?」
そこで鹿角はにこりと微笑んだ。
そして、俺にお願いをしてきやがったのだ。
「救出のために内部情報をこちらに流してくれる人材が必要なんです」
「ふざけやがって。マジムカつく。」
2024/6/10誤字脱字報告ありがとうございます
晴純の台詞の中の「拓海先生に用意させていただきました」ですが、このままでお願いします。
こちらについては、晴純が、俺様が拓海に用意させましたよ、と自分>拓海のようにして中二病的な物言いをしているだけなんです。日本語がおかしいと感じられた方、申し訳ありません。




