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有能な怠け者がすることは

 アンリは俺の体が使い物にならないと一週間で見切りをつけるや、当初の目的通りに俺の敵の情報収集に動き出すことにしたと言い放った。

 彼の思考の転換の速さには驚くべきだが、それがあるからこそ生き残ってきたのかと感心するばかりである。


「俺の身体で奴らの尾行ができるかな?」


「俺達には奴らには無いスキルがあるじゃないか。」


「え?」


 俺は常にアンリの周囲をふよふよと飛んでいるが、俺がどこまでアンリの周囲から離れる事が出来るのかという実験を彼は俺に課したのである。


「どこまでも行けるんじゃないの?」


「いや。この体が生きているのはな、お前という魂がどこかでこの体と繋がっているからだと思うよ。そこでどこまで行けるのか試してみたいなって。ついでに、テレパシーとやらも可能か実験してみるか?」


 そこで俺は蒼星の部屋に行き、そこからアンリにテレパシーを送った。

 いや、テレパシーと言うよりも、自分と蒼星の差を感じた気持ちが勝手にアンリへと流れてしまっただけだ。


 家具からして違う。

 パイプベッドに学習机はどちらもあるものだが、俺の学習机は小学校の入学時に買って貰ったものである。

 蒼星も同じように買ってもらったはずだが、今の蒼星の机は黒を基調としたパソコンも置ける広々とした天板のものに買い替えられていた。


 わあ、パソコンもあるんだ。


「パソコンって何だ?」


「あ、普通に会話ができましたね。わあ、凄い。」


「誤魔化すんじゃねえよ。お前はどうして見ない振りをして流すんだ?それこそあのババアを問い詰めるいい材料じゃやねえか。」


 俺はアンリの怒りを嬉しく感じ、しかし、アンリがそこを追及して来ることには煩いとしか感じなくなった。

 問い詰めてどうなるものでも無いと俺は知っている。


「じゃあ、次は玄関から外に出て見ろ。」


「え!だって!」


「お前は俺以外に見えない設定なんだろ?本当に誰にも見えないか実験してみろ。」


 俺はそうかと言いながら、トボトボと歩いて玄関まで行き、そこで両目をぎゅっと瞑ると玄関ドアに頭を突っ込んだ。

 幽霊の俺は蒼星の部屋に忍び込んだ時のようにして、閉まった玄関扉から簡単に外に出られ、一歩歩いたところで宅配バイクが家の前を走りぬけた。


 俺は、わあ、と叫んで動けなくなっていたが、そんな俺を物ともしないでバイクは俺に直進し、俺を通り過ぎて行ってしまったのである。

 腕を下ろして俺は無傷の自分の茫然と見下ろし、過ぎ去ったバイクの後姿を目で追った。


「何にも気付かれなかった。俺は、透明、人間?」


「そのようだな。少し歩け。異常があったらすぐに戻れよ?俺も体に異常が出来たらすぐに言う。」


「わかった。」


 答えた声が自分で初めて聞いたような楽しそうなものだったのは、本当に俺が初めて楽しいと感じ始めているからだろう。

 玄関扉を一歩出るのが怖かった。

 家にいても居場所が無くて辛かったけれど、外は曽根達が待ち構えている。

 曽根達によって、俺は町中の笑いものなのだ、きっと。

 弟には恥ずかしがられて、俺と絶対一緒に歩きたくは無いと公言しているじゃないか。


「電柱の住所表記を見ろ。そこはどこだ?」


「ここは。」


「いいよ、わかった。」


「え?」


「試してみたんだ。お前の視界が俺にも見えるかってね。よし、百は大丈夫だって確認できた。戻ってこい。」


「まだいけるよ!」


「お前の身体だと百メートルに十八秒はかかるんだ。百以上は何かあっても駆け付けられない。」


「ぷ、くすくす。」


「何か笑うとこか?」


「だって、俺は二十秒かかったよ。二秒も短くしてくれたんだ。凄いね。」


 俺の胸の中には急に温かい気持ちが溢れた。

 これは俺のものじゃない。

 アンリのものか!


「よし。今日の夕方からお前と俺で奴らの巣を見つけるぞ。ドブネズミの駆除は巣を見つけるところからだ。いいな?」


 俺の怖いと思う気持ちもアンリが受け止めてくれるとわかった俺は、いいよ、と軽く答えていた。

 少し誇りを持ってかもしれない。

 俺がやらなければアンリこそ計画倒れになるんだから。

 そうだ、俺は相棒だ。

 凄い勇者の。

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