~鈴原美咲の物語~
ある―――放課後のことーーー。
女子は、男子生徒の下手箱にそっと手紙を入れた。頬を赤らめながら、震える手を懸命に落ち着かせ、入れたのである。そして、ぎゅっと目をつぶり、覚悟を決め、足早に去っていった。
その3分後のこと。別の女子がやってきた。仮に女子Bとしておこう。女子Bは、周囲に目をやると、すぐさま男子生徒の下駄箱を開けた。そして、中の手紙を見る。女子Bは、小さく微笑むと、手紙を下駄箱から取り出し・・・・破り始めたのである。
破り終えると玄関横のごみ箱に捨てた。そして、振り返る。
「おまたせ、ゴメン待った?」
「うんん、私もさっき来たとこ」
小走りでやってきた男子生徒に、女子Bは笑顔を見せると、二人は楽しそうに帰路につくのだった。
上記の話から何を思うだろうか、女子Bの性格が悪いだとか、卑怯だとかだろうか、いずれにせよ、多くの人は、女子Bに対してマイナス的なイメージを持ったはずである。しかし、それは正確なのだろうか、たとえば、下駄箱に入れられた手紙の文面に「死〇」などと書かれていたら、女子Bの評価はマイナスではないはずだ。文面までは解らずとも、普段、男子生徒は、いじめられっ子で、女子A(手紙を入れた女子)は、いじめグループのメンバーという前提であれば、頬を赤らめながら、震える手を懸命に落ち着かせ、手紙を入れた理由も、別の意味。もしくは、固定観念の押し付けによる偏見ということになるかもしれない。つまり、捉え方したいで人は善人にも悪人にもなるということである。
***
「お前さぁ~、マジかー」
食堂。コンビニで買ったパンを持ち込んで食べながら、友人の峰岸 鋼は、私を呆れるように、大きくため息をついた。
「なんか、ビビっときたんだよね。いいでしょ、始まりはこんな感じで」
ため息に、引っ掛かりながらも、カレーを食べながら答える。
「審査員、引いちゃうよ!どんだけ、捻くれてんだよ お前・・・」
「いやほら、なんか癖があった方が・・・」
「弁論大会ならこれでいいよ。でもお前が出そうとしてるのは、少女漫画コンテストだろ!恋の始まりで、いきなり読者を迷走させてどうすんだよ!?」
ぐっ・・・。
「そこは、画力でカバーするとして・・・」
「絵をなんだと・・・。とにかく、これはマジでやめた方がいいよ。本当に、本当に・・・」
鋼はノートを返すと、思い出したかのようにパンをまた食べ始めた。まあ、鋼がここまでツッコミを入れるのだからそうなのだろう。
「そっかー、面白いと思ったんだけどな・・・」
「・・・でもまあ、独創的?ではあるだろうし、少女漫画路線にさえ戻せばいいんじゃね」
あれ、気をつかわせてしまった?そんなつもりじゃなかったんだけど。顔に出てしまったのかもしれない。気を付けよう。とりあえず、話題を・・・
「ところで、鋼は次の授業何?」
「プログラミング」
「プログラミングね、Javaだっけ?」
「いや、今はGolang。Javaは一通り終わったから別の言語やってる。」
「そうなんだ。やっぱ早いね」
「まあな、つーわけで帰るは、俺」
「え!?せっかく来たんだし学校でやってけばいいじゃん」
「やだよ。家の方が集中できるし、んじゃな」
パンの袋を結んで小さくし、ごみ箱に投げ入れると、鋼は玄関に向かっていった。
私も、教室に戻ろうかな・・・
端末を開き、移動教室の場所を確認する。
「4-6か・・・」
開始にはまだ時間があるが、私は席を立った。
・・・カレーは、今日も美味しかった・・・
***