2.理由。
ざまぁ回は次かな?
応援よろしくお願いします。
「本当に、魔王軍に入ってよかったのかな……」
アクロはギルガドの申し出を受けてから、一人そう思い悩んでいた。
たしかに、あの魔王と呼ばれる青年の瞳には力がある。そして、言っていることも決して嘘ではないのだろう。そう思わされた。
しかしながら、あくまで自分は人間。
それも先日まで勇者として敵対していた立場だった。
「あぁ、アクロさん。ここにいたのですか」
「えっと、ディールさん?」
「はい、そうです」
魔王城の中庭。
そこの花壇に腰かけていると、有翼魔族の少年ディールが声をかけてきた。幼い見た目の中性的な顔立ちをした彼は、にこやかにアクロの前に立つ。
ギルガドの側近。右腕という話であったが、どこか頼りない印象を受けた。もっとも思ったとしても、アクロはそれを口にしないが。
ディールはそんな少年の気持ちを知らずに、どこか人懐っこい笑みで言う。
「最初、ボクもアクロさんを仲間にするって聞いた時は驚きましたよ」
「やっぱり反対、だったんだね」
そうして出てきた言葉に、アクロは思わずネガティブなことを想像した。
しかし、ディールは静かにこう続ける。
「それはもう、反対でした。しかし、アクロさんの境遇を訊いて分かったんです」
「俺の、境遇……?」
ピクリ、少しだけ眉を動かすアクロ。
そんな彼の顔を見ながら、ディールは少しだけ翼をはためかせつつ言った。
「はい。貴方は昔、魔物に育てられていたのですね」――と。
それは、アクロにとって隠したい過去。
人間側にいた時は、決して誰にも伝えなかった話だった。それなのに、どうしてこの魔族は自分の過去を知っているのだろうか。
アクロは少しだけ緊張しながら、無言を貫いた。
すると、そんな彼の感情を察したらしい。
「あはは。すみません、魔王様から聞いたのです」
「え、ギルガド――さんが?」
「……はい」
そう、少しだけ申し訳なさそうに告げた。
そして同時に与えられた情報に、さらにアクロは混乱する。ますます意味が分からない。どうして、彼は自分のことにそこまで詳しいのか。
そんな風に考えていると、ディールがこう語り始めた。
「魔王様には、遠見の力と共に過去を知る力があると云われています。きっと、アクロさんを見た時に自身の生い立ちを重ねたのかと」
「ギルガドさんの、生い立ち……?」
アクロが首を傾げると、ディールが頷く。
そして、こう告げられた。
「魔王様も似た境遇なのです。あの方は、人間に育てられましたから」
「え……?」
それはあまりに意外な内容。
アクロは息を呑み、すぐにこう思った。
「そっか、だから――」
あの魔王は、自分に居場所をくれたのか――と。
同情のつもりなのだろうか。
それとも――。
「あぁ、でも勘違いしないでくださいね?」
そこまで考えたところで、ディールが遮るようにこう言った。
「魔王様は決して、一時の感情に流されるような方ではないですから!」
そして、真っすぐにアクロを見て。
有翼魔族は笑った。
「きっと、アクロさんの力を心の底から信じていると思います!」
疑いようのない程、澄み切った表情で。
アクロはそんなディールの顔を見て、ハッとした。
そして、思うのだ。
きっとこの場所にいる者はみな、あの魔王を慕っているのだ、と。
それでなければ、このような表情はできない。
それを感じ取ってアクロは、ほんの少しだけ迷いを断ち切れた。
「そっか、それなら――」
だから、空を見上げて。
頷き、こう口にした。
「俺も少しだけ、信じてみようかな」――と。