1.勇者を軍師に。
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「あの、どうして俺を……?」
「ふふふふふ。貴様のことは以前より、面白いと思っていた」
「え……!?」
私の指示を受けたディールによって、急遽この魔王城に招かれたアクロ。
彼は明らかに動揺した様子でこちらを見て、そう訊いてきた。しかし私のその一言に驚く。そして、首を傾げて続く言葉を待った。
私はそんなアクロを見て、彼がどうして勇者失格の烙印を受けたのか言い当てる。それは――。
「アクロ。貴様は、魔物の声が聞こえるのではないか?」
そう、人間としては特異と言わざるを得ないその能力について。
「そ、それは――!?」
こちらの指摘に、あからさまに瞳を揺らす少年。
どうやら図星のようだった。
私がこのことに気付いたのは、初めてアクロが魔物との戦闘を行った日のこと。途中まで優勢であったにもかかわらず、少年勇者は途端に手を止めたのだ。
そして、今にも泣き出しそうな表情をしながら逃げ出した。
仲間の者たちは当然、それを責めた。
だが、私はその瞬間に思ったのである。
「アクロ。その能力を、この魔王軍で活かしてみないか?」
「俺の、能力を……?」
この少年の能力は、間違いなく我々の力となる――と。
ディールにも話したことだ。
アクロの戦闘能力は決して高くない。
しかしながら、今まで勇者として戦ってこられたのは状況判断能力、そして戦況を読む力の賜物だった。それらを活かせなかったのは、他の者たちの目が節穴だったから、としか言い様がない。
「貴様が知っているかは知らないが。魔族と魔物は、厳密に言えば違う種族だ。魔物との意思疎通は、魔族である我々にも取ることはできない」
――そこで、だ。
私はこの少年にとって、最適な場所を与えることを考えた。
この手で育て上げ、人間側に負けない軍勢を作り上げてみせよう、と。そのために、私はアクロを――。
「アクロ。これは私からの願いだ。どうか魔王軍の軍師となってほしい」
「軍師、だって?」
魔物を操る新部隊。
その司令官に据えようと、そう考えた。
魔物との意思疎通を図れる唯一無二の才能を活かせる、最高の場所として。
「そ、そんな。魔王軍の軍師だなんて……」
しかし当然、アクロは難色を示した。
それもそのはず。彼は魔族ではなく人間だ。
だが、ここに足を運んだ時点でアクロの気持ちは揺らいでいる。
「ならば何故、我が呼びかけに応じた? 貴様も思っているのだろう。もう、人間側に居場所がないということを」
「…………」
それを指摘すると、少年は悲し気に目を伏せた。
事実は事実。されども、彼のような年端もいかない子供には辛い現実。
私はそのことを察して静かに、こう語って聞かせることにした。
「大丈夫だ、アクロ」
「え……?」
「貴様の居場所は、私が保証しよう。そして――」
そしてこれは、私にとっての誓いでもある。
「私は二度と、貴様が悲しまない世界を作り上げる」――と。
信じてくれと。
そう、優しく伝えるのだった。