プロローグ 魔王、追放された勇者を引き取る。
新作です。
応援よろしくです!
「魔王様、また勇者のことを観察しているのですか?」
「あぁ、その通りだ。奴の能力は実に面白い。我が魔王軍にも、あのような若い才能が欲しいものだ」
「お言葉ですが、あの者は敵です。それに――」
「どうしたというのだ?」
私が訊き返すと側近のディールはため息をついた。
そして、少しばかり言い辛そうに口にする。
「わたくしの見立てでは、そこまで有能に思えないのですが……」
それは勇者――アクロの能力について。
たしかに、有翼魔族のディールの言う通りだった。アクロの能力は勇者と呼ぶには物足りない。旅に出て一年が経過するというのに、四天王の一人も倒せていなかった。歴代勇者と魔王の戦いにおいて、ここまで苦戦しているのは彼が初めて。
伝え聞く限りでは、アクロは無能だと罵られているらしい。
「あぁ、たしかに。アクロは強くはない」
「それでは、なぜ?」
「ディールよ、私は面白いと言ったのだぞ」
「と、言いますと……?」
千里眼の水晶から視線を外して、私がそう言う。
すると側近の魔族は、その童顔に不思議そうな色を浮かべて首を傾げた。
「おそらく、人間側は気付いていない。そしてアクロもまた、自身の価値を理解していない。その特異すぎる才能故にな」
「特異な、才能?」
「あぁ、だから私は――――む?」
再び水晶に視線を戻す。
そして、その才能について説明しようとした時だ。
映し出された景色。そこで、今までにない出来事が起きたのは。
「おい、ディール。見てみろ」
私とディールは、その光景に釘付けとなった。
◆
「アクロ、貴様のような役立たずは勇者失格――追放だ!」
「そ、そんな……!?」
黒髪の少年は、仲間の言葉に声を詰まらせる。
自覚がないわけではない。それでも彼――アクロは、今まで勇者として出来得る限りの研鑽を積んできたつもりだった。
それなのに、彼に与えられたのは無常な宣告。
勇者失格の烙印。
拳を震わせた少年は、静かにうつむいた。
「勇者の癖に、魔物を前にすると怯んでしまう。そのような奴に、これからの未来を任せるなんてできない!!」
「う……!!」
――そう。
アクロはどういうわけか、魔物を前にすると怯み上がってしまう。
どれだけ研鑽を積んだとして、攻撃ができなければ戦闘において役に立つことはなかった。一通りの回復、攻撃魔法も修めたが、どれもエキスパートではない。そのような人材をこれ以上、勇者と祀り上げるのは無理だった。
「荷物をまとめて、王都に帰るんだな! ――なに、心配するな。後任の勇者はすでに神の導きで選定されている」
「……そう、なんだね」
「分かったら、さっさと失せろ!!」
「…………」
目障りだと。
そう言わんばかりに、かつての仲間から唾を吐かれた。
アクロは視線を向けることすら能わず。ただうつむいて、荷物を手にその場を後にするのだった。
◆
「魔王様。今のは……?」
「これは僥倖だぞ、ディール!」
「え……!?」
私は一部始終を確認して、側近の魔族にこう告げた。
それは、とても突拍子のないものに聞こえたかもしれない。しかし私にとっては、千載一遇の機会だったのだ。だから――。
「魔王ギルガドが命ずる――アクロを魔王軍に迎え入れろ!!」
高らかに、そう宣言したのだった。
面白かった
続きが気になる
更新がんばれ!
もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。
創作の励みとなります。
応援よろしくお願いいたします。
<(_ _)>